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やる事は無い


「エリル、上手く着地しろ!」


言いながらケヴィンは無理やりにこちらを投げ飛ばす事によって、エリルは更にキングドラゴンから距離を取る形となる。


「シアン! 着地と共に俺を投げ飛ばせ!!」


エリルは空中で一回転すると共に地面へと着地し、後方へと振り向いて彼等へ視線を向ける。


体の前面で組んだシアンの両手に、ケヴィンが屈みこむ様に着地したと同時にシアンがケヴィンを押し上げる。


ケヴィンは投げ出されるギリギリに自らも飛び出す事によって、うち放たれた弾丸の様に上空へと飛び立っていった。


突き進んだ方向は、未だに上空で羽ばたいているキングドラゴンの残った瞳の方だ。


直接攻撃によってもう片方の目も奪ってしまおうと言う魂胆か、左拳を強く握りしめながらキングドラゴンの頭部へと向かっていくケヴィン。


しかしその行動は読まれていたのか、いつの間にか振り上げられていたキングドラゴンの右腕が、己へと真っすぐ飛び掛かってくるケヴィンに向けて振り下ろされた。


大型トラック同士が正面衝突したかの様な轟音が鳴り響くと共にケヴィンが地面へと叩きつけられる。


「ケヴィン!」


エリルの反応は早かった、既にケヴィンへとキングドラゴンの腕が振り下ろされていた瞬間には彼はもう走り出していたのだ。


システムボードからアイテムボックスを開き、ジェシカから貰っていたハイポーションを手にすると、右肩を抑えながら立ち上がろうとしているケヴィンの元へと駆け寄った。


「……ミスったな……クソったれ……」


軽く流血はしているものの、あれだけの衝撃だったにも関わらずケヴィンの様子は瀕死には見えない。


これが身体強化2による影響か。


「大丈夫なんか!?」


エリルが彼の元へ辿り着き、ハイポーションを彼の前に差し出すとケヴィンは迷わずそれを口にした。


ここで遠慮なんてしている場合じゃない事を彼はよく知っているのだろう。


「まだやれる……あのクソドラゴンを地面に落としたら総攻撃を掛けるぞ……」


ハイポーションを飲み干したケヴィンは瓶を投げ捨て、左手をシアンの方向へ向けたかと思えば、こちらの様子を伺っていたシアンが軽くその場でしゃがみ込んだ。


途端に彼の足元付近の土が途轍もない速度で盛り上がり、シアンが弾き飛ばされる様にして上空へと浮き上がる。


まるでカタパルトで射出されたかの様に見えるシアンだが、エリルの目線にはシアン自身も押し出される瞬間に盛り上がった大地を踏む抜く仕草を見せている様が捉えられた。


何故二人はこれ程までに阿吽の呼吸で互いがやろうとしている事を理解し合っているのだろうか。


この高水準の連携は……どうやって生み出されているのだろうか。


飛び上がったシアンは先程のケヴィンと同じ様に残った目を狙って飛んで行ったのかと思えた。


しかしシアンはキングドラゴンから大きく離れた場所へと飛び上がった為、シアンを警戒したキングドラゴンが空中へ滞在したまま体ごとシアンの方向へと向ける。


キングドラゴンよりも高い位置へと飛び上がった事で、ほぼ反転する形でキングドラゴンは背中をこちら側に向けた事となる。


その瞬間ケヴィン自身が先程シアンへと行った事と同じく、大地魔法をカタパルト射出の様な使い方をする事で飛び上がる。


飛び上がったシアンよりも接近してきたケヴィンを警戒したのか、再び視線を地上側へと向けるキングドラゴン。


先程ケヴィンが叩き落された時の二の舞になりかねない状況に推移するが、そんな事を彼らが許す筈もなく、今度は空中で自分に向かって大地魔法を発動し、ケヴィンは空中で急速な方向転換を起こした。


それと同時にキングドラゴンよりも高い位置へ飛び上がったシアンの背後に大地魔法を展開する。


空中に作り出されたその『足場』を利用して、シアンはキングドラゴンへと急降下を果たす。


シアンのその行動にも気づいたであろうキングドラゴンが、己への接近を危険視した為か空中で渦を描く様に回転し始める。


ただのモンスターだったり他の生物が同じ様な行動をしても、シアンやケヴィンならお構いなしに攻撃を仕掛ける事が出来るだろうが、それをやっているのは巨大なドラゴンだ。


体積による風圧もそうだが、触れるだけでも肉が抉れそうな硬い鱗を持つ尾や翼をこの様に振り回されれば、簡単には近づく事が出来ない。


その上、これでもかと言わんばかりにキングドラゴンはその状態で口元に黄金の球体を作り上げている様子が見受けられた。


ただ地上を這うだけの生物かと思いきや、途端に空中戦まで行使し始めたこちらに対して既に最大限の警戒を行っている為か、容赦なく出来得る術を全て使って攻撃を仕掛けてきている様にも見える。


ケヴィン達が空中で縦横無尽に飛び回ろうとも、先程三人がかりで地上で飛び跳ねた際の速度は流石に出せない。


そうなれば空中でブレスを吐かれよう物なら、いくら角度を変えて飛び回っていても攻撃を浴びる状況になるのは免れない事だろう。


……仲間が高度な連携を駆使して、例え能力が不足していても少しずつ確実にダメージを与えていってるのに対し、エリルには現状成す術が無い。


ケヴィンに自分も大地魔法で飛ばしてもらうと言う手があったとしても、恐らく身体強化の無い自分はあの衝撃に耐えられる事は無いと感じている。


それをケヴィンは分かっていて、あのキングドラゴンを『地面に落としたら』総攻撃を仕掛けるとこっちに言ってきたのだ。


戦力としては数えてはいるものの、言葉の裏を返せばそれまではお前にやる事は無いと言っている様な物だ。


もちろんケヴィンがそんな考え方をして発している訳では無い事は分かっているが……それでもただ現状を見上げるしか無い自分の状況に心底嫌気がさす。


ちらりと周囲へ視線を向ける。


一方では大きな落とし穴へとレッサードラゴンを引きずり込んだ後、ネイサンが持つ落下の異能の副作用として存在する対象への加重効果と、マーロンの念力の二重の圧力によって落とし穴の中にレッサードラゴンを押さえつけ、ジェシカが容赦なく大きな金棒で殴り続けている状況が作り出されている。


もう一方はレッサードラゴンからの全ての攻撃をリアムが受けとめ、『大地を蹴る』事で空中戦へと持ち込むリアムと、二人を援護する様に鉄球を投げつけまくるグランの姿がある。


絶望的かと思えていたこのドラゴン戦だが、取り巻きへの対処を受け持った二組がかなり戦局を押している様を見て、どうにかなるのではと言う心境が湧いてきた。


ただ、仮にどうにかなったとしても……その戦いに自分の功績は存在していない。


ポイントとしてと言う意味では無く、事実として蚊帳の外なのだ。


この十日間、結局異能の発動は見込めなかった。


いろんな物や動作に異能を掛ける意識だけは試してみた者の、他の者達が言う様に『自然と使い方が分かる』と言う現象が起こる事は無かった。


何を増幅できる訳でも無く、何かの役に立つ訳でも無いこの100倍と言う異能。


一体どうすれば……何をすれば自分は役に立てるのだろう。

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