羨ましい等と
安全を期してシアンは既に地面へと降り立っている。
ケヴィンはそののた打ち回っている状況でも一切手を緩めず、執拗にと言うべきなのか、只管胸部の一部分に対して氷魔法と炎魔法を当て続けていた。
エリルはキングドラゴンが越えた時から攻撃の手を止めている。
寧ろ今こうやってのた打ち回っている状況で攻撃を仕掛ければ、不意に潰されてしまう可能性が存在している為に攻撃を仕掛ける事は危険な状態だと考えている為、攻撃を行わず一連のシアン達の動作を眺めていた。
……何故こんな事が出来る?
エリルはシンプルにそう言った疑問を浮かべた。
戦闘が始まった直後から、異次元の技法を扱い続けている二人。
互いに何も打ち合わせをしている様子等見えないのに、何故か二人はシンクロしているかの様に次々の完璧なチームワークを発揮している。
いや、それだけじゃない。
絶望しか感じていない自分と違って、焦っている状況は同じであるにも関わらず何かしら戦う方法を模索し続け、そのチャンスが来たら一気に二人で畳み掛けている。
キングドラゴンの攻撃さえも利用して、あの巨体を地面に横たわらせて唯一柔らかく思える瞳に異能による攻撃を叩きこむ。
……確実にダメージを与えられらた事は状況が証明している上、恐らくだがキングドラゴンの片目は今の攻撃によって失明した事になるだろう。
最初からこの展開になる事が分かっていなければ出来ない程に一つ一つの判断が早すぎるのだ。
まだキングドラゴンと応対した事があるのだろうケヴィンが、自分の能力がまだまだ足りてないと言えどある程度対応出来る理由は分かる。
だがシアンは……この世界に来てたった十日しか経っていない、自分と同じく地球から来た平和ボケした日本人の筈だ。
何故こんなにも適応出来る?
何故こんなにも対応力が高い?
……自分も異能を使い熟せていれば。
身体強化を持っていれば……『そちら側』に入れたのか?
エリルは願っても意味の無い思いを心に浮かべながら、手の平に痕が残る程に強く拳を握りしめている事に気づいた。
これは緊張や恐怖から来るものでは無い。
『悔しさ』から来るものだと言う事は分かっている。
こんな感情、彼らに感じてはダメだ。
『羨ましい』等と思ってはダメだ。
彼らは今必死に戦って、一瞬だけ訪れたチャンスを死に物狂いで掴んだだけだ。
相応の実力と、相応の努力が相まって出来た事だ。
ただここで茫然と見ている事だけしか出来ない自分が、彼らに対して羨ましいなんて感情を浮かべる事等、烏滸がましいにも程が有る。
キングドラゴンは巨体を起き上がらせた。
威嚇する様に、悲鳴とは異なる咆哮をこちらにむけて来る。
この瞬間、明らかにキングドラゴンからの殺意が感じられる様になり、先程まで虫けら扱いだった自分達を狩りの対象と認識したのだろう。
キングドラゴンは大きく息を吸う様に仰け反る。
「回避だ! 後方へ回れ!!」
その仕草を目撃したケヴィンが叫ぶと同時に、キングドラゴンの足元を潜り抜ける様に駆け出した。
それに習ってシアンも走り出し、彼を追いかける様にエリルも追従する。
ケヴィンが援護をしてくれているのか、再び追い風の様に風魔法が背中を押してくれる事で通常よりも俊敏に動く事が出来た。
お陰で当たれば確実に『死』へと直結するであろうキングドラゴンからの攻撃を回避する事が出来た。
安全圏に辿り着いた時に後ろを振り向いた瞬間だった。
下を見下ろしたキングドラゴンは、先程まで自分達がいた場所に向かって黄金に輝く炎の様な気体を口から放出していた。
不協和音が鳴り響きながらその黄金の炎は地面を抉りとり、炎が消え去った場所には表面が焼き付いたクレーターの様な大穴が作り上げられていた。
龍の息吹とでも言うのだろうか、たしかにドラゴンの様な存在と言えば『ブレス』の様な物を口から吐くイメージは有った。
想像通り……いや想像以上の熱光線の様な、それでいて科学的に言えば『ビーム』と称した方が分かりやすい様な、何れにせよ本来生物が口から吐ける筈の無い攻撃方法を発動してきたキングドラゴン。
図体があまりにも大きすぎるが為に一挙一動が反応できる速度である事が唯一の救いとも言える。、
ただ、それはあくまで身体強化を得ている場合の話だ。
ケヴィンが風魔法で援護してくれているからこそ、素の状態の自分がなんとかそのブレスの範囲外に逃げる事が出来たが、自分一人だけで対応していた場合は避けきる事は出来なかった事だろう。
ブレスを放出している最中に既に自分達がその範囲内に居ない事に気づいたのか、キングドラゴンは大きな尻尾を振り回しながらこちらに向かって振り向いて来る。
瞬間、キングドラゴンは大きな翼を羽ばたかせ始め、大地から浮遊し始める。
「くっ!」
空へと上昇し始めたキングドラゴンが起こした次の動作を見て、ケヴィンが焦った様に声を漏らす。
普通では決して届かない位置まで浮き上がったキングドラゴンは、今度はこちらから視線をそらさないままで大きく口を広げる。
息を吸い込む様な動作を見せた瞬間に、口の先へ光り輝く球体状の何かが出現する。
徐々に膨らんでいく様を見て、それが先程放った『ブレス』の根源となる物だと言う事に気づいたエリル。
空高くからこちらを見下ろす事でこちらを見失う事無くブレスの構築から放出までを行える様に空へと飛びあがった事を理解する。
ただ、そんな感想を漏らしている場合では無いが、エリルはどうしても一言突っ込みたくてたまらない衝動に駆られる。
曰く、最初から息を吸う時に上空を見上げなければ良かっただろうにと。
キングドラゴンの様な存在でも格好つけたいのか、雰囲気を作りたいのか、あまりにも無駄とも思える息を吸う為に『仰け反る』と言う行為をしでかした結果、ブレス攻撃を思いっきり外すと言う結果を作ってしまった。
先程の腕の振り回しの動作を利用されてのズッコケと言い、何とも間抜けな側面が見え隠れするキングドラゴンだが、しかしだからと言って今エリルがこのドラゴンに対処できる手段等持ち合わせてはいない。
この様な思考を繰り広げてしまうのは、もしかすると既に自分は現実逃避の様な行動を取ってしまっているのだろうか。
何れにせよ、あの位置から放たれるブレス攻撃を如何様にして避けるのか……正直今の自分には全く想像の出来ない状況だ。
そんな考えとも言えない意味不明な思考を繰り広げていた時、シアンとケヴィンが突然自分と肩を組み始める。
「タイミングを合わせろ……『ブレス』が来た瞬間に俺の相図で全力で『飛べ』……」
ケヴィンがそう語りかけて来たと同時に、足元に突然硬い土が盛り上がって来る。
恐らくだがそれはケヴィンは大地属性の魔法か何かを使用した事で作り上げられた『足場』なのだろう。
踏み込みやすい様に盛り上がったその土の塊は、まるで陸上のクラウチングスタートを行う際に使うスターティングブロックの様な形状を模している。
「いくぞ……3……2……1……」
ケヴィンの声に集中すると共に、体の一部を脱力させると共に脚部へと意識を集中させる。
彼が『0』と言葉にした瞬間、力を一気に爆発させる様に土のブロックを蹴りつけた。
同じ様な動作を二人も行っていた為か、エリルの視線に映る景色は途轍もない速度で流れていく。
自分達が先程いた場所から想像も出来ない程の速度で離脱している事が分かった。
この行動は、キングドラゴンが上空から確実に自分達がいる箇所へとブレスを放ってくるタイミングに合わせて回避行動を取る事で、キングドラゴンの放射位置を固定する事を目的としたのだろう。
キングドラゴンがブレスを行う前から前方へと跳ね飛んでいれば、キングドラゴンがその延長線上にブレスを放射する事で逃げ道を塞がれる事となる。
自分達から放出されるブレスに飛び込む形となって一巻の終わりだ。
それを避ける為にギリギリの跳躍を行う判断をケヴィンはしたのだろう。




