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異常な技術

「……ジェシカ、レイピアを頼むわ」


エリルは青ざめながらネイサンの腕に抱き着いているジェシカへと右手を差し出した。


ジェシカは震えながらもそれに応え、エリルの右手にレイピアを召喚する。


「俺は一番役立たずかもしれへんけど……あんたがやる言うんやったら……最後まで付きおうたるわ」


言いながらエリルはシアンの隣に立った。


「すまないな。流石の俺も……あれには一人では勝てそうにないからな」


「どっかの一匹狼さんが、ベソかいて戦いとお無い言うとるさかい……俺らがやるしかないんやこれが」


「誰がベソかいているんだ? 誰が戦いたくねぇつった? 勝てる筈がねぇって言っただけだろ。諦めつもりなんざ俺もねぇよ」


「なんや、めっちゃ元気やないかい」


更にエリルの隣に立つケヴィンに向けて、エリルは冗談めかして茶々を入れた。


「あのデカい龍は俺とケヴィン、そしてエリルで受け持つ。……他の皆はあの取り巻き共を頼むぞ」


「……本気でやるんだな?」


確認する様にグランが言葉を掛けて来る。


シアンは彼に視線を向け、強く頷いた。


「……分かった。一体は俺に任せろ。絶対にお前達の元へは行かせない」


言いながら、まだ一キロ近く離れているレッサードラゴンの一体に、グランは鉄球投げつけるのであった。


そしてグランの放った鉄球が対象のレッサードラゴンへと見事に命中した時、ロキの名付けたゲリラボス戦が始まった。


一体のレッサードラゴンが急速に接近を早め、自分へと鉄球を投げたグランへと一直線に飛び込んでくる。


正面に立ったリアムがそれを引き付ける様に盾を構え、両足の鋭い爪を防ぐ様に受け止める。


自分よりも何倍も大きな龍からの攻撃を受け、体が大きく後ろへと引きずられるが、地面を抉りながらもリアムはレッサードラゴンの動きを止めた。


異能強化2によって脚部にレガースが装着される様になったディムが、硬そうなドラゴンの足をお構いなしに蹴りつける。


身体強化2による相乗効果で爆発的に威力の上がっていたディムの蹴りにより、レッサードラゴンの足は大きく跳ね上げられバランスを崩していた。


その一体目のレッサードラゴンはグラン、ディム、リアムが受け持つ事となるだろう。


前衛で盾役のリアムと攻撃役のディムに後衛のグラン。


理想の振り分けと言うべきか。


となるともう一体のレッサードラゴンは。


「おみいですなしかし!!」


「そのまま抑えてるッスよ! 俺っちがこれで……おらぁ!!」


マーロンの念力によって動きが抑制されていたレッサードラゴンに対し、落下の異能によって落とし穴へと叩き落とすネイサンの攻撃。


一瞬でもそうやって隙を作る事が出来れば、ジェシカが力任せに金棒を叩きつける。


元々ネイサンとマーロンの相性は非常に優れている上、強力な一撃を放つ事の出来るジェシカがいるのであれば、彼方側もなんとか戦う事は出来るであろう。


非戦闘組は……。


等と最初から全く期待しない様子で後ろを振り向いたエリルだったが、当然と言うべきかこの場から一目散に退散していく様が見える。


何か言いたげな表情で体を震わせながら俯いているカーラと食事券を渡した例の男がその場に残っていたのだが、はっきり言って戦う度胸が無いのなら守ると言う行動を取る事さえ死活問題となる。


要するに邪魔になるくらいだったら同じ様に逃げて貰っていた方がマシだと言う事だ。


「戦えないのなら下がってろ! そこ居たら死ぬぞ!!」


それが見えていたのか、シアンが大声で叫んだ事によって漸くカーラ達も動き始めた。


……仮にここで、彼女達に手伝ってくれと言えば……彼女達は手伝ってくれたのだろうか。


そんなある筈のない展開が脳裏に過りながらも、エリル達は自分達が迎え撃つキングドラゴンの接近へと備えた。


目の前まで接近したキングドラゴンは、大きく翼を羽ばたかせた後大事へと両足を突く。


自分達を死に追いやったあの大災害を彷彿とさせる程の大地の揺れを感じるが、不思議とエリルがバランスを崩す事は無い。


シアンとケヴィンは身体強化2を持っている事からそんな事で足を取られたりしない事は分かっているが、何故自分迄?


不思議な感覚ならもう一つある。


先程大きく羽ばたかれた筈の翼による風圧を一切感じなかった事。


あれだけの面積を誇る翼が一度振るわれれば、自分達の様な小さな存在等簡単に吹き飛ばされる程の突風が巻き起こる筈だ。


ただでさえ50メートル近くの巨体を浮かべる事の出来る程の翼を備えているのだから、それが作り出す風圧は途轍もない物になる。


しかしこちらにはそよ風の一切すら届いていない。


自分達と魔物の間には何かそう言った壁の様な類いでも存在しているのかと思える程に、キングドラゴンから発せられる現象の数々が無効化されている様な状況であった。


「ケヴィン……『風の道』は作れるか」


「大きさに限りがあるからそこを外れたら吹き飛ばされるが……ま、お前なら大丈夫だろ」


極自然とエリルの理解が追い付かない会話を繰り広げたシアンとケヴィン。


だが……無理やりに理解をしようとするのであれば、まるでキングドラゴンが起こす突風の中でシアンが通れる分だけの追い風を作れるのかどうかと言う質問を投げかけた様に思える。


……なんとなく理解した。


キングドラゴンが着陸した時に起こった振動も、羽ばたきによって巻き起こる筈の風圧も、殆どそれらの影響がこちらに無かった理由は……『ケヴィン』がエレメントの異能によって全てかき消していたからと言う事。


風の膜によってあちらからの突風を無効化し、大地の操作によって振動を掻き消した。


そしてそれをシアンは知っていたからこそ、作戦の立案をケヴィンへと頼んだのだ。


いや、さらっと予想をしてみたがそれが事実であるのならばケヴィンのその技術は『異常』と感じざるを得ない。


いくら魔法に精通している世界が有ったからと言って、しれっとその様な事が出来る存在なんて適応能力がどうとかそう言う問題では無いように思える。


ケヴィンの世界ではそのレベルが普通なのだろうか?


……いや、彼は彼の世界で魔王を倒した事がある存在だ。


恐らく頭のネジが二、三本平気で外れている様な……ぶっ飛んだ思考回路によって培われた技術の一つなのだろう。


どちらにせよ……味方で居てくれて本当に助かった。


今は彼の技術力に驚くよりも、シンプルにそう言う思いを感じるだけに留めておく。


エリルは確信した。


シアンとケヴィンだったら出来た。


これは裏を返せば……自分達の力は神達に届かせる事が出来るのだろうと。


それを成し遂げる可能性が高い存在が……彼等二人だったと言う事も。

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