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王龍

発破かけに来ただの、鼓舞しに来ただの言ってるが、実際にはこれは『脅し』なのだろう。


全員で戦わなきゃ生き残れないぞと、だからいつまでも引きこもってないで、全員で力を合わせて戦えと。


……いや、もっと言えばこうなのかも知れない。


お前達役立たず共が犠牲になってでも、シアンやケヴィンの様な存在を生かせと。


考え過ぎなのかも知れないが、お気に入りと役立たずの扱いの差が激し過ぎるロキの立ち振る舞いを顧みれば、その様な思考を持っていても可笑しくはないとも思えてしまう。


……中々自分も『浸食』されて来たのではと思う程に、残酷な考え方を想定してしまう様になってきた。


「毎回さぁ、かなりの高確率でこの定期的に訪れるゲリラボスによって、初回で全滅するファミリーが存在してるんだよねぇ。君達みたいに沢山のファミリーが残ってる影響でボスが強くなった所だったりぃ、そもそもそれまでにファミリーが壊滅的に減り過ぎてまともに戦えずに止めをさされてしまうかの様に終わってたりぃ、色々なんだよねぇ。どうせシアンやケヴィンが負けたら、君達も死んじゃうんだからさぁ、ちゃんと手伝いなよねぇ。一定以上の貢献度が認められたら援護ポイントだってかなりの量付くんだから、今回が稼ぐチャンスだよぉ?」


以前のスケルトンジェネラル戦の様に、戦闘に貢献した者はみんな援護ポイントが付く。


スケルトンジェネラルの時でさえそのポイントは破格の量だった事から、手に入れられなかった非戦闘組からは大層後悔にも似たご立腹の声が上がっていたのだが、今回も再びそのチャンスが舞い込んできた。


しかもシアンが言った通りボスが取り巻き達も合わせて仮に合計ポイント5000程引っ提げて来るのなら、下手をすれば……いや下手をしなくとも援護ポイントだけで十分に強化2がもらえる程のポイントが付与される事となるだろう。


本来であればこの様なチャンスを逃がす手は無い。


誰だってそう考える筈だ。


だが……非戦闘組の脳裏には、恐らくポイント異常に先日のライアンの死に様が目に焼き付いている状況だろう。


それにより恐怖の方が先だってしまい、こうやってロキが発破かけたのだとしても誰もそれに乗る意気込みを見せる筈が無かった。


「うーん困ったなぁ。……まぁいつも通りシアン達の化け物染みた強さで頑張って今回も突破出来る事に期待しておくべきかぁ」


ロキからしても、シアンとケヴィンの強さは別格扱いとしているのだろうか。


しかし以前に彼は戦闘中の様子を見ていない様な反応をしていた。


獲得ポイントだけを目にして言っているとかそう言う所だろう。


「ほらぁ、君達役立たずがうじうじしているから、ほとんど会話も出来ないままミッションが始まっちゃうじゃん~」


ロキがそう言うと、彼の言う通りミッション開始時間へと差し迫ったのか、徐々に視界が歪み始める。


「言った通り、本当に今までとはレベルの違う魔物が現れる可能性があるからぁ! 幸運を祈るよぉ! 今回のミッション終了後にもう一度現れるからさぁ! 今日の分の質問はその時に回してねぇ!」


意味不明な所が律儀と言うか、ファミリーハウスに現れた時には質問に答えると言う約束も、後回しにはするが守る気がある様な発言をロキが繰り出す。


ほぼ完全にミッションの為のエリアへ移動が開始されていた事により、ロキの声が段々と遠のいていったが何を言っていたのかだけは耳に残った。


ミッションが終わった後にもあいつと会わなければならないのかと思うとゲッソリするが、だとしても情報だけはなんとしてでも欲しい。


……どちらのせよ、まずはロキが『強敵』と表した相手の確認を行うのが先だろう。


視界が開け、平原の様な空間に躍り出る。


視線を泳がせればあちこちに雑木林が生い茂っている程度で、特に今迄のミッションで使われていた様な草原とは殆ど変わりがない様に見える。


しかしいつもと少し違うのは、いつもの様にミッション内容を告げるシステムメッセージが現れると同時に、警告音の様な物が鳴り響き『ボス出現』のメッセージが流れる。


警告音自体が不気味である為に、何が起こった訳でも無いが自棄に焦燥感に駆られる様に感覚に見舞われる。


「……有り得ねぇ……」


続いて登場するボスの名称がシステムメッセージとして刻まれた時、『グラン』では無く『ケヴィン』が焦った様な声を上げた。


いつもであれば魔物に詳しいグランが、その現れた魔物の名称に対して詳しい説明を行ってくれるのだが、それよりも先にケヴィンが反応してしまう程に動揺を見せている。


今迄見なかったケヴィンの動揺振りに一抹の不安を覚えながらも、エリルは目の前に表示された魔物の名称へと目を通す。


そこで見たボスモンスターの名称に対して、エリルはその存在を知らなくても何やら『ヤバそう』と言う感覚だけは感じ取れた。


『キングドラゴン』


はっきりとシステムメッセージにはその名前が刻まれており、それを目にしたと同時に平原の奥から耳をつんざく様な雄叫びが響き渡った。


大地を揺らし、音が強い風圧の様に襲い掛かって来る。


目を凝らしながらそちらへ視線を向けると、白と言うよりは少し黄色掛かっている様な、しかしどこかグレーや銀色にも見える様な、そんな不思議な鱗の色をした巨大な『龍』が大きな翼を広げてこちらへ向かってきている。


「キングドラゴンだけじゃない……二匹の『レッサードラゴン』も引き連れている!」


その光景に続いて叫んだのはグラン。


魔物を知る二人が同時に警戒する様を見て、一同は事態の異常さを再認識せざるを得なかった。


「そんなヤバいんか……あのドラゴンっちゅう奴は」


「ヤバいなんてもんじゃねぇ……俺が魔王を倒した時の様に『全盛期の強さ』を持ってたらなんて事ねぇが……今の俺達の強さから想定すると『神獣クラス』の魔物なんて勝てる筈もなければ、両脇に抱えてやがる下位ドラゴンにすらまともに戦えるか怪しい所だ……」


「ケヴィンの言う通りだ……ドラゴンと言う存在は例え下位だとしても、相当腕の立つ冒険者が束になって漸く勝てる様な化け物クラスの魔物だ……。先日のジェネラルスケルトンやシルバーゴーレムなんて比にならないレベルだぞ……。本当にこいつらは5000ポイント程度の相手なのか? 正直に言うが……勝ち目なんてない……」


魔物の存在を良く知っている二人が、いや……良く知っているからこそ弱腰になっているとでも言うのか。


「デカいな……」


まだ数十秒程は接敵まで時間がある為か、唯一と言って良い程落ち着いて居る様に見える存在のシアンがポツリと呟いた。


確かに、ここから見てもあのキングドラゴンのサイズは全長4、50メートル程有る様に見える。


骨の巨人や銀色の巨人と比べれば十倍以上も差が有る程のサイズだ。


だからこそ余計に勝ち目がない様に見えるのだが。


「……どっちみち勝てるにしろ勝てないにしろ……ここにあの魔物が現れた以上、俺達は応対しなければならない。あれがどれだけ強く……どれだけ無謀な事だとしても、戦うと言う事実は変わらないんだ。……なら、出来る限りの事はやってやる。俺はそう思っている」


「……」


何故そこまで冷静なんだ。


喉辺りまでその言葉が出かけた。


だがエリルは気づいてしまった。


シアンの握った拳が小刻みに震えている事に。


震えを止めようと強く握りしめていても、それが止められない程に恐怖している事に。


しかし彼はリーダーであり、この場で誰よりも諦める事が許されない立場にある存在だ。


自分が諦めず、味方を鼓舞し続ける使命を与えられた存在だ。


その為に、己が恐怖している事に気付かれない様に、必死になって虚勢を張り……仲間たちを立ち上がらせようと言葉を発しているのだ。

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