これが最後
「お前のその無駄に伸びた髪を燃やしてみるのも面白そうだな」
「笑えへん冗談はほんまにただのいじめやからな」
言いながらケヴィンが手から出現させているのはただの氷だ。
思えば……このデスゲームの戦いはこの三人から始まったと言えるのかもしれない。
……ポイント自体はジェシカの物となったが、初めに魔物の集団へと立ち向かったのはシアンとケヴィン……そして自分だった。
そこからこのファミリーは始まったのだ。
誰もが認めるリーダー格のシアンに、遊撃部隊とし単独行動を唯一許されている最強の一角であるケヴィン。
そんな二人に比べれば自分には何もない。
出来た事と言えば一緒に異能の使い方を考えて行って、失敗はあったものの自分の意思で勝手に育って行ったグランとジェシカの存在。
シアンが仕切る事で、恐怖心を描きながらも早い内から魔物と戦う決心をしていった元シアンチームのネイサン、ディム、リアム、マーロン。
ロキがこの施設を『ファミリーハウス』と名付けた事と……タイミングこそ最悪だったが『カーラ』が発言した自分達は『家族の様な物』と言う言葉があった事で、仲間達の事をいつの日か『ファミリー』と呼ぶ様になっていた。
死線を共に潜り抜ける仲間。
それは友情をも超えた盟友の様な……共に背中を預け、命を預ける事で信頼を築いていった存在達だ。
彼らの役に立ちたい、彼らの迷惑にならない様にしたい。
それを叶える為なら何をすべきか……。
……人のポイントを消費すると言う事は本当に忍びないが、やはりここでポイントを分けてもらい身体強化を手に入れるべきじゃないだろうか。
受け入れるべきなのだろう。
少なくとも……自分はそれをする事を許されるだけの関係性は気づけているに違いない。
今は何故かそう確信出来ている。
「一番手はこの天才的に最強のイケメンである俺に努めさせてもらおう」
「出来るんやったら俺の愛するケヴィンに一番手はやってみたい所やな」
「この浮気者が! 俺との大事な20年間は一体何だったんだ!?」
「あんたはさっきから何言うてんねん。俺らまだ出会って八日やで」
意味不明なナルシスト発言から、さらに意味不明なボケをかまし始めるシアンに対して、ツッコミ慣れしている地方に住んでいたエリルでさえ何か疲れを感じ始める始末であった。
「……まぁ、ほんまに軽くで頼むで。あんたらは皆身体強化持ってんねや、普通の生身の俺が本気の攻撃食らったら簡単に死んでしまうで」
「漸く諦めたか」
「俺の一世一代の愛の告白があんたにスルーされてもうたからな」
エリルが勝手にケヴィンを巻き込んだ事によって、シアンとエリルとケヴィンによる三角関係が勃発している様に見えるが、勿論すべて冗談で成り立っている。
多分。
「よし、そのままリアムは抑えておけ。誰か『エリクサー』の用意を!」
「殺す気満々やないかい」
アイテム欄に表示されているポーション系統の最高消費ポイントとして存在している『エリクサー』と言うアイテム。
ゲームによく出て来る事で知っている者も多いだろうが、恐らくそれが齎す効果は『完全回復』の様な物だろう。
ファミリーハウスに戻る事さえ出来れば、例え四肢が千切れていても元通りになる様な仕様によりあまり回復アイテムの重要性が理解されていないが、それらの回復系アイテムは戦闘中に関して非常に重宝される類のアイテムだろう。
先日、ジェシカが怪我を負って戦線離脱した時の様に、ああ言ったタイミングで使う事がベストなのだ。
エリル自身もジェシカにポイント消費してもらってハイポーションまでは確保している。
本当は万が一を考えてエクスポーションやそれこそエリクサーが欲しいのだが、ポイントが破格なので簡単には手に入れられない。
エリクサー入手の為の必要ポイントは5000である。
身体強化3や異能強化3、そして謎の商品???と同じポイントだ。
それに伴うだけの効能が期待できるアイテムなのだろうが、勿論現在で誰一人入手出来てる者など存在しない。
それだけのダメージを与えてやるぞと捉える事の出来るとんでも無い発言をシアンはしていたのである。
「……どうだ?」
トスっと腹部を殴りつけるシアン。
確かに当たった感触はあるが、流石に弱すぎるだろう。
「でえへんな」
システムメッセージが表示されない事を確認した後、シアンは少しだけ困った表情をしながらも再び右腕を引いた。
「少し強める。やばかったら言ってくれ」
言いながらある程度力を込めたのか、確かに痛みを感じる程度には拳の勢いが上がった。
「……もうちょいちゃうか? 流石にまだ怪我せえへん程度やろうしな」
「そうか……難しいが、もう少し強めるしかないようだな。怪我させてしまったらすまない」
エリルとしては、それくらいの勢いが無ければ攻撃判定にならないのではと思っている為、どちらかと言えばむせる程度の攻撃を試して欲しい所だが。
そして三度目の正直と言うのだろうか、シアンが放った拳がエリルの腹部へと深くめり込み、エリルは食事を食べる前にしてもらうべきだったと多少後悔した。
「かはっ!!」
「エリル!!」
自分で殴りつけておいてその対象の心配をすると言う一見謎めいた行動に見えるが、状況が状況だから仕方ない。
この場面だけ切り抜けばDV彼氏の様にも見えるかもしれないと、こんな状況でも変な想像をする自分に少しだけほくそ笑む。
いつの間にかリアムも拘束を解いており、蹲っている自分の背中を摩る様な体勢となっていた。
「えらい硬い拳やないか……俺やなかったら漏らしてたで」
「エリル、手遅れだぞ」
「なんやて!?」
言いながら尻を抑えるエリル。
だが、それがケヴィンなりの冗談である事をその時初めて知ったのだった。
「無事な様だな……だが……」
こちらの反応を見て、大した怪我ではない事が分かった為に安堵の溜息を吐くシアンだったが、それでも互いの前に全くといってシステムボードが現れる気配が無い為に、愕然とした表情へと変わる。
「もしかしたら……『悪意』が無ければダメなのかもしれないな……」
その状況をみていたグランがポツリと言葉を発する。
シアンからの攻撃は相当な痛みだったのだが、それでもシアンは加減しており、何より大事にならない様に心掛けての行動であった。
明らかに暴行を加えようと、痛めつけようと言った悪意が存在しない事により、暴力行為としてシステムが認めなかった……と言う事なのだろうか。
「なんやねん……殴られ損かいな」
「まさかの罠だな……」
舌打ちをしながら、ケヴィンの怪訝な表情を見せる。
折角戦闘組が集ってエリルの為に何とかしようと行動を起こしたのだが、その様な行動が全て無駄になった状況だ。
「……」
流石にこれは堪える。
最期の希望とも言えるペナルティによるポイントの譲渡だったのだが、それすらも叶わずただただ絶望が増しただけだ。
掛ける言葉が無いのだろう、周り者達も何も声を発せないでいる。
どこまでもポイントの入手制限に徹底している様に、いい加減に嫌気を感じ始める。
まるでシステムが自分にポイントを取らせるつもりが無い様に組まれている様な……そう言う意味での『悪意』を感じる程の理不尽さである。
「すまなりエリル……力になれなそうだ……これ以上試すのは……お前の体的にも……」
「ええねん。……十分やでシアン、謝らんといてくれや」
出来る事はやってくれた。
自分の為に何か出来ないと常に気を使ってくれていた。
……今は……この絶望の淵に居る状況では……その気持ちだけでも十分すぎる程嬉しかった。
しかしエリルは数日後……ここでポイントが入手できなかった事を激しく後悔する日がやって来る。
思えば、このメンバーで笑い合えた時は、この日が最後だったのかもしれない。
――――……。




