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殴りたい

「一先ず殴る事は仕方なしに置いておいて」


「仕方なしってなんやねん」


「だとしても俺以外からポイントを減らしてしまうのもそれはそれで忍びないと感じてしまうな……エリルにポイントを渡そうと考えたのは俺の独断だ。その俺の考えを他の者達に押し付ける事は気が引けると言うものだ」


「立派にリーダー気取ってるところわりぃが、それは自惚れだぞシアン。お前は一人で抱え込み過ぎだろ。頼られる立場だからと言って全部自分だけで背負う必要なんかねぇ。お前に頼られてぇって思ってる奴は意外と多いぞ、少しは後ろ振り向いてみろよ」


確かに……ケヴィンの言っている事はもっともだ。


少なくともエリル自身、迷惑を掛けたくない、負担になりたくない、足を引っ張りたくないと言う思いこそあるが、それよりもなによりも彼らの『役に立ちたい』と言う気持ちの方が確かに強い。


それは結果としてケヴィンの言う通り、シアンに頼られたいと言う意味も含まれているのだろう。


確かにシアンはリーダー気質では有るのだが逆に人に頼る事が下手くそだ。


と言うよりも、本人の実力が高すぎるがあまり、恐らく今まで頼る必要が無かったと言う事が事実なのだろう。


しかし若さが故に非戦闘組の大人達をまとめ切る事が出来ずに、無駄に飴ばかりを与えてしまう結果となった事でそれを補うように鞭となるグランやケヴィンが現れだした。


その上彼自身が上手に立ち回ったのか、生存本能としてなのか分からないが、非戦闘組の纏め役だったライアンを手懐ける事にも成功していた。


ライアンの様にとは言わないが、助けてくれる存在はいるのだから頼ればいいのに、彼は結果的に全部自分でやろうとしてしまう癖がある。


良い所では有るのだが悪い所でも有るのも確かだ。


自分が有能だと思える人物に、信頼に置けると思える人物に頼られると言う経験は、その人物からしたら幸福を感じる事だと言うのを恐らく知らないのだと思う。


「後お前もだエリル」


「ほあ?」


我ながら間抜けな返答をしてしまったと思う程の素っ頓狂な返しだ。


矛先がシアンに向いていた筈なのに、一瞬にしてこちらへと言葉を向けて来たケヴィンに驚きも交じって返事を返してしまったのだ。


「シアンも別に情けをかけてお前にポイントをやろうとしてる訳じゃねぇ。期待してるからとか、強くなったら頼りになるからとか、確かにそう言う理由も有るだろうが一番はお前の為になりてぇって思っての事だ」


「そう思われる程の事はしてへんやろ」


「馬鹿かお前は。なんでグランがお前を信頼してるか、ディムが補助してくれるのか、リアムが前に立つのか分からねぇのか?」


「いやぁ……ケヴィンが俺の事を好きで好きでたまらん言う事ぐらいしか分からへんわ……」


「殺すぞ」


「俺の愛は伝わってないとでも言うのか!」


「それはいらんねん」


ツンデレケヴィンとナルシストシアンの組み合わせを茶化しながら、自分もこの数日で照れ隠しが上手くなったものだとエリルは思った。


実のところ全然隠せてないのだろうが、ケヴィンに言われて初めて自覚した事もある。


グランが向けてくれる信頼は、最初の頃の面倒を見たからだと勝手に思っていた。


しかし気づけば異能が使えず戦力にならない筈の自分を、今でもずっと信じてくれている様子は見てわかる。


ここ数日……確かに気づけばディムがフォローしてくれているのも分かるし、リアムは異能によって守る事が強制されているだけかと思ったがケヴィンの言い方からすればそうでも無いのだろう。


異能が使えないから、ポイントが取得できないから、迷惑を掛けているから力になりたい、助けになりたいと常々思っていた。


正直……理由こそは分からないが、自分はそれなりに人の役に立っていて、信頼を向けられるだけの立場が築けている事に驚きが隠せないでいた。


「お前の行動で救われてる奴が何人も居るって事だ。感謝はいずれ尊敬となり信頼と化す。……お前がそれに足る人物だったから結果がついて来てんだろ。俺が言いてぇのは、お前にポイントを分けてやりてぇって思ってんのはシアンだけじゃねぇって事だ。そうだろ『グラン』」


ケヴィンがグランの名を呼んだ時、食事場所から繋がる通路の角からグランがゆっくりと姿を現した。


何故か右手には鉄球が握られている。


「これ以上つべこべ言う様だったらこいつをエリルの顔面に投げつけようかと思っていた所だったよ」


「なんであんたらはそないに暴力的やねん」


異能を使ってまで鉄球を生み出している辺り、グランは本気でやりかねないとはエリルも感じて少々……いやドン引きした。


「なら私はエリルに当たってバウンドした鉄球を、もう一度蹴り飛ばしてエリルに当ててみせましょう」


「今のグランの力で顔面に鉄球投げられてもうたら、俺の頭部はその瞬間吹き飛ぶから意味無いで」


「したっけわっちが固定するべさ」


「そろそろちゃんとした日本語を学んだ方がええんとちゃうか?」


「ほんまそれ」


「せやから何でこっちの言葉だけ完璧やねん……」


続いて現れたのはディムとマーロンだ。


……こうやって目の前にしても、何故彼らがこうやって好意的な態度を取ってくれるのかは理解できない。


シアンが何か特別に有る事無い事吹き込んでいたりするのだろうか。


『こいつ』が感謝していると言うのなら理由は何となく分かるのだが。


と、ケヴィンはその後にやってきた、最近何やら垢ぬけた様に見える女性とチャラ男風のあんちゃんに視線を向ける。


「……私はまだエリルさんに渡せてないポイントがあるので、寧ろその分が渡せられるならと思ってるくらいです」


「流石に俺っちの落とし穴は針とか出てて危険だから、俺っちの愛の籠ったパンチで許してくれい!!」


「いい加減俺が殴られる前提の話はやめてくれへんか」


エリルはジェシカとネイサンにそう返しながらも、自分がほんの少しだけ笑っている事に気づく。


嬉しかったのだろうか。


何も役に立てない、役に立ちたいと願っている足手纏いの自分を、これだけ慕ってくれている人物が居たと言う事実を喜んでいるのだろうか。


突然背後から太い腕が巻き付いて来る。


一瞬にしてスリーパーホールドを決められた形となり、それを繰り出してきた人物の腕力を考えればそう簡単には抜け出せない状況に立たされている事をエリルは感じた。


「エリル!」


その状況で何とか顔だけ後ろに回してみれば、スリーパーホールドを掛けて来た張本人であるリアムの顔が近くに有り、何を意味しているか分からないが真剣な表情で強く頷いてきた。


「なんやねんその、覚悟を決めろみたいな意味ありげな頷きは。ほんまにあんたらで勝手に話進め過ぎやで」


要するにこのリアムの行動は、こうやってリアムが力任せにこちらの行動を抑制する事で、周りが殴りやすい体勢を作り出したと言う事だろう」


「これで八人だぞエリル。大体一人頭60ポイント近くで済む話だな」


「いや見ようによっては今この光景はただ集団暴行の現場みたいになっとるからな? なんであんたが一番嬉しそうにはしゃいでんねん。せやから腕振り回すんはやめえって」


自分が最初に行くぞと言わんばかりに腕を振り回しているシアン。


今までで一番生き生きとした表情なのは、ただポイントを分け与える事が出来る事が嬉しいだけなのだろうと信じたい。


流石にこの見た目と性格で人を殴る事が好きではしゃいでいる等とは思いたくないのだ。


……まぁ、そんな奴では無いと言う事はもうとっくに分かっている。


それこそ悪戯好きだったり、冗談を言う事が好きだったり、そもそも自分大好きのナルシスト野郎だが、信頼がおける存在である事には間違いない。


本気で自分の為に色々と考えてくれて、結果として自分一人で500ポイントを失っててでもポイントを分け与え様としてくれたのだ。


もしかしたらここに集った人物達は偶然じゃなくて、皆がそれぞれ同じ様な思いで遅くに食事をとっている自分の元に来たのだろうか。


それは流石に自惚れ過ぎか?

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