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50回

「だからあかん言うてるやろ」


「良いから50回くらい殴らせろ」


「あんたその言葉だけ切り取ったら大分やばい事言ってるで」


何故か腕をぐるぐる回しながらエリルに殴り掛かろうとしているシアン。


「50回耐えればお前に50ポイント入るんだ。そうすればお前だって十分に戦える様になる筈だ」


「せやかてその為にはあんたが500ポイント消費せなあかんねんで、めっちゃ大事なポイントやろ」


「500ポイントぐらいなんだ。お前が身体強化を手に入れたら500ポイント以上の活躍が見込めるだろう。それだけの価値がお前にはある」


シアンがやろうとしているのは、エリルが以前一瞬だけ考えた事のある、人からワザと攻撃をしてもらって身体強化分のポイントを入手する方法。


暴力行為をシステムが検知する事によって、暴力を行った側が10ポイント取り上げられ、慰謝料の様に暴力を受けた側が1ポイント入手するシステム。


ポイントが無ければ生きる事の出来ないこのデスゲームの中でそのポイントの価値は非常に高く、特に非戦闘組の中には未だに強化系の報酬をゲットする為の50ポイントすら入手出来ていない人物もいる程だ。


このシステムの影響で今となってはファミリー内で暴力行為で争う事は殆ど無く、だからこそ先日エリルがモンスターのいる場所へ誘導されて事故を装った攻撃で殺されかける状況が作り出された程だ。


ファミリーの生き残りが多い事によって魔物が強くなるのならファミリーを減らせばいいと言う馬鹿みたいな考えは持つが、大事な自分のポイントを消費してまで人に暴行を加えたくないと考えているのだろう。


それに暴力行為を確認するだけで10ポイントマイナスされるのだ。


それが仮に『殺人』になってしまった場合には、どれだけポイントが減らされるか分からない。


ただの暴力と殺人行為が同じマイナスポイントで済むとは思えないのだ。


それを分かっているのか偶然か、直接殺そうとする者こそは現れないが、間接的に何かを仕掛けようとする者は居たと言う事だ。


「それにお前は異能の発動条件が分からない分先日の様に殺されかけたら何も出来ない。お前が懸念していた通りミッション中は味方への攻撃が普通に通ってしまう可能性だって有るんだ。身体強化を得ておくに越した事は無いはずだ」


シアン達には先日、ライアンがアレクシアを殴り飛ばした時にペナルティが表示されなかった時の疑惑を伝えてある。


彼等はその可能性は大いに有ると直ぐに納得し、少なくともエリルは確実に人から狙われた状態にある事から警戒する為にも、絶対に非戦闘組にはその情報を明かさない様にと戦闘組の中で箝口令の様なものが展開された。


そもそもシアン達にはミッション中の暴力がペナルティとしてカウントされない可能性について、以前から考えていた事があるらしい。


明確に他人への攻撃がペナルティ判定となる事が判明したのは四日目の事だったが、二日目あたりに元シアンチームがシアンと共に行動していた際に、リアムの前へ突然魔物が出現した事によりシアンがリアムを強く突き飛ばしてしまった事があったらしい。


咄嗟の事であり、その行動心理としては勿論リアムを庇う為の行動だったのだが、ディムが地面に手を付いた際に少しだけ捻ってしまった事で怪我をしていた事が有った様だ。


勿論ディムもシアンが守る為にそう言った行動を取った事を理解していた上、ファミリーハウスに戻れば怪我が治る事は知っていた事から責める事等せずに問題にもならなかったのだが、その後でシアン達は暴力によるペナルティの存在を知った。


例え守る為の行動であったとしてもシアンがディムに怪我を負わせたのは事実であり、だがあの時にシアンにはペナルティが与えられたなかった事を考えれば、やはりミッション中の暴力行為はある程度緩和されていると言う結論に辿り着いたのだった。


「いやあかんで、そのポイントはあんたが誰よりも前に立って危険を顧みずに集めたポイントや。後ろの方でただ守られてるだけの俺がそんな大層なもん貰えられへんねん。俺の為にポイントを無駄にするよりも、あんたは早く次の強化ポイントを貯めるべきや。俺が身体強化を得る事で俺の活躍が見込める言うても、あんたが身体強化3を手に入れた方がもっと活躍するに決まっとるやん」


「ここでお前に500ポイント渡しても、それこそ俺だったら直ぐに取り返せる。そしてお前も500ポイントなんてすぐに稼げる様になる」


「せやからもし本当の為に500ポイントを犠牲にしても良いと思うんやったら、それは5000ポイント達成してからにしたらええねん。その時でも遅くないやろ?」


「いやそれだとお前の方が遅くなるかもしれないだろ。俺の場合はせいぜい5000ポイントに達成する日数が一日遅れる程度だ。だがお前は毎日危険と隣り合わせの日々を送る事になる。お前にここでポイントを分け与えなくて、仮にお前に何かあった場合は俺は一生後悔する事になるんだぞ」


「それもおんなじ事が言えんで。あんたが一日でも早く身体強化3を手に入れたら、どんなえげつ無い魔物が現れよってもあんさんが倒せる様になるやろ。それが結果的に俺を守る事になんねん。俺はそれで充分やねんて」


どうしてもポイントを渡したいシアンと、どうしても受け取ろうとしないエリルの言葉の往復が『八日目』の夜に遅くまで続いていた。


スタンピードのミッションを乗り越え、八日目のボス討伐ミッションも乗り越え、ライアンとアレクシア以降再び死傷者0のまま八日目の夜を迎えていたファミリー達。


ポイント0の自分が堂々と非戦闘組の前で食事をとっているとやっかみを言われる為、わざと時間をずらして食事をとっていた所、そこへシアンがやってきて今の話の流れになったのである。


「つまりシアンが一日も早く身体強化3を入手出来る状況が作れるんなら……あんたは有難く殴られてくれるって事だな?」


そんな中、二人の元へ『ケヴィン』が何やら物騒な物言いをしながら来訪してくる。


「なんやねん。そんな素晴らしい裏技みたいなんが有るんかいな。あと俺は別に殴られたくはないで」


「裏技なんかじゃねぇ。単純な『計算』の話なだけだ。シアンに500ポイント消費する事を億劫に思ってるんだったら、単純に『分母』を増やしたらいいだけだろ。そうすればシアンも殴れるし俺も殴れるで一石二鳥だ」


「あら、なんや翻訳が間違ってるんかもしれへんが、さっきから殴る事自体に重きを置いてへんか?」


「なるほどな……俺だけじゃなくケヴィンやグランにも殴って貰えれば、皆一緒にスッキリ出来ると言う事か……」


「聞けや」


ケヴィンは攻撃をする事でポイントが減少する事を懸念しているのなら、それを一人に集中するのではなく多人数で振り分ける事で一人頭の負担を減らそうと言う発言をしている。


あくまでポイントの譲渡はついでと言わんばかりに『殴る』事ばかりで話が盛り上がってしまっているが、さすがにこの状況であれば彼らが冗談を言っている事は分かる。


「今の殴り心地をちゃんと覚えておいて、身体強化3を手に入れた後にもう一度殴って差を把握するのも有りだろ」


「殴る事から離れんかい」


冗談……であって欲しいと願うエリルであった。

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