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耳に残る

「す……すまなかった……ついカッとなって……」


「はやひえ!!」


ライアンがアレクシアに駆け寄り介抱しようとするのだが、そのライアンを押しのけて悲劇のヒロインぶるアレクシア。


そんな光景に、周囲から呆れの声が出始めようとした時である。


アレクシアが吹き飛んだ先、ライアンが介抱しようと彼女へと近づいた箇所の付近に自然と存在していた大岩……その大岩が大きな音を立てながら振動と共に動き出し……そして拳の形状を作り出した『ゴーレムの腕』がアレクシアとライアンを殴りつけた。


「な……」


エリルもその光景を目の当たりにし、思わず驚愕の表情を浮かべる。


ここら一帯のゴーレムは、先程エリルが近づいた時に現れた小さなゴーレム以外皆呼び起こした存在の筈だ。


そもそもあの大岩も既に一度調べており、ゴーレムでないと判断したもので、そもそもジョナサンが索敵を使っている為にあの岩がゴーレムである筈が無かったのだ。


「そんな……馬鹿な……」


ジョナサン本人がこの様に魔物の出現に困惑しているのだから、やはりこのゴーレムの事をジョナサンも把握出来ていなかったのだろう。


このゴーレムが特別に索敵に引っかからないタイプの魔物なのか、そう言った特異な力を持った存在なのかは分からない。


ただ……確かに良く見ればシアン達が戦っている他のゴーレムよりも色味が違う様に見える。


「離れろ! そいつは! 『シルバーゴーレム』だ!!」


そう叫ぶのはグランである。


未だに大量のゴーレム達との激戦を繰り広げながらもこちらの様子を確認していたのか、遠くからだが魔物の種類に対して警告を促して来た。


経験上、グランが危険視する様な言葉を発した時は本当に危険な状態が多い。


それを分かっているのかどうかは分からないが、比較的自分よりもライアン達の近くにいた元非戦闘組は、蜘蛛の子を散らす様に逃げ戸惑う。


「私の索敵に……ひっから無いなんて……」


腰を抜かしたジョナサンはその場に倒れこむ様に尻餅をつく。


これも想像でしか無いが、彼の索敵には恐らくだが『制限』の様な物が有るのだろう。


魔物を発見する事に特化した異能だが、それは全ての魔物を把握出来る訳では無く、一定レベル以下の魔物を捉える事が出来る物なのだろう。


実際彼の言葉的にも、はっきりと魔物として目の前に現れた今の状況でも索敵に引っかかってない様子が伺える。


そしてグランの言葉からこのゴーレムは他のゴーレムと一味違う個体。


今迄の流れで言うと『ボス個体』に近い存在なのだろう。


だからこそジョナサンの索敵には引っかからなかった。


ジョナサンが異能の強化を行っていればこうはならなかった可能性がある。


それでなくても今迄その異能を駆使して貢献していれば、索敵の欠点にも早い段階で気付いて、索敵自体が完璧な物では無いと理解出来たかもしれない。


何れにせよもはや後の祭りだ。


恐らくだが……先程の攻撃で確実に『アレクシア』の方は死んでしまっただろう。


問題はライアンだ。


彼は身体強化を持っている存在だ。


そう言った場合、ある程度の攻撃には堪えれるだけの肉体強化が入っている筈だが果たして……。


そしてそんなエリルの心配を知ってか知らずか、シルバーゴーレムは腕を叩きつけた辺りの地面をごそごそと探り出し、何かを掴む様な素振りを見せて腕を上げた。


「う……うぅ……」


そこには少しだけ出血しているものの、シルバーゴーレムの攻撃の直撃を受けた割には形を保っているライアンの姿があった。


ただダメージ自体は大きいのか、ほぼ抵抗出来ずに足を掴まれたまま逆さ吊りの状態で荒く呼吸をしていた。


エリルは咄嗟に動き始める。


ライアンが馬鹿な事を考えて殺そうとしたからと言って、こっちが見殺しにして良い理由にはならない。


自分に出来る事なんてたかが知れているがなんとか助けなければ。


そう思い駆けだしたのだが、シルバーゴーレムはとち狂った様に暴れ始め、足を掴んだままのライアンを乱暴に何度も何度も地面へと叩きつけ始めたのだ。


振り上げては振り下ろし、もう一度振り上げては地面へと叩きつける。


凡そ人の身体が奏でてはならない音を響かせながらライアンは何度も地面へと接触する。


その度に彼は声を漏らし、悲鳴の様な声を上げていた。


さらにシルバーゴーレムは大きく振りかぶってからライアンを投げ飛ばし、硬い岩の地面に激突したライアンがその勢いでバウンドした所を逆の腕で掴むと、今度は顔面を地面へと接触させるように押し付け、そのまま彼を引き擦る様にゴーレム自体が走り始めたのだ。


「あがあぁぁぁぁあああああああっ!!」


ゴリゴリと鈍い音を立てながら、まるで削られているかの様に地面を平行移動するライアン。


容赦の無いシルバーゴーレムの動きに、エリルはほぼ何も出来ずに呆然としてしまうのであった。


『今』でも耳に残っているあのライアンの悲鳴。


引きずられ続けている間ずっと叫び続けていた事でこびり付いてしまっているのだ。


生半可に身体強化を得ていたが為に簡単には死ねない体を手に入れてしまった。


本来なら最初にシルバーゴーレムに殴られた時点で即死だった筈なのだが、身体強化による頑丈さがそれを許してくれなった。


だが掴まれてしまったが故に反撃さえも許されない状況で、ライアンはシルバーゴーレムに好き放題弄ばれた上で殺されてしまったのだ。


シアン達が援護に入った時には既に遅かった。


とっくに絶命していたライアンが、人の形は保っては居たのだが全身が削られており、内部に至っても骨が粉々に砕けている事でもはや関節の存在しない、粘土で作った人形の様に柔らかくなってしまっていた。


エリルはただその光景を眺めている事しか出来なかった。


助けようと前進をしただけで、その後の行動を取る事は出来なかったのだ。


はっきり言ってただの恐怖映像だ。


目にした者の戦意を喪失させるには十分過ぎる光景だっただろう。


エリルが現在ジェシカにレイピアを作り出して貰って、それを振るっているだけでも奇跡に近い。


戦える力が無い、抗える力が無い状態でこのまま魔物と戦い続けるには、もはや勇気や度胸と言った精神論では追いつかない事態になっている。


あくまで仲間が傍に居るから辛うじて動けているだけだ。


シアン達が自分を守る様な陣形を取った上で、自分が動いた方が確実に魔物が倒せる状態でのみエリルが動く。


そう言った形でなければ正直言って今でも怖くてたまらない。


それが昨日起こった事件の一部始終であった。


もはや元非戦闘組が、元が消えて再び非戦闘組になるのは無理もない状況であった。


あの様な光景を見せつけられてしまえば、エリルでさえもそれでも戦えなんて口が裂けても言えない。


シアンでさえもう戦わなくていいとさえ口にしてしまいそうな程の状況だと言っていた程なのだ。


何より犠牲になった存在が『ライアン』であった事が一番の問題であった。


元非戦闘組から数人、率先的に戦う意思を見せ始めた者達の中で、一癖も二癖もあって扱い辛い存在であったライアンだったが、それでも彼は一応は元非戦闘組のリーダー格と言っても良い存在だった。


徐々に彼の発言力が下がっていたのも事実ではあるが、それでも一定の抑止力として彼は機能しており、何より彼自身がシアンを認めている素振りを見せていた事からシアンの言う事は聞く存在として、ある意味で彼のお陰で非戦闘組と連携が取れる様な形が作られていたのだ。

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