無能探し
つまりエリルは『嵌められた』ということだ。
チラリとジョナサンのシステムボードに視線を向ける。
彼はバレて無いと思っているのか、自分が開いているマップがエリルの位置からでも見えている事に気付いていない。
そしてエリルはジョナサンのマップから情報を読み取った。
今自分とジョナサンが居る場所から少し前方、先程ジョナサンが自分への待機場所として指示した場所に『赤丸』が付けられている事を目撃した。
……そこに『魔物』がいるんだな。
エリルはそう確信したのだ。
となれば先程から向けられていた非戦闘組の視線は、全員がこの状況を『知っていて』の行動だったと言う訳だ。
ロキが先日に言った、ファミリーの生存者が多い事によって魔物の数やレベルが高くなっていると言う事実。
それを打開する為にはファミリーの数を減らさなければならない。
そして彼らが選んだその口減らしの対象が……『エリル』だった訳だ。
本当に下らない。
彼らは大事な事に気付いていない。
確かに今は自分がファミリーの中で一番の無能に見えるのだろう。
異能力の使い方が分からない事から、いくら裏では活躍していようと今後強化等で強くなる見込みはない。
まだ強く成れる可能性の残っている元非戦闘組と比べても、その結果だけ見れば無能の烙印を押されるのは目に見えている。
しかしだ。
今仮にここで自分が魔物に殺されたとする。
少し考えれば分かる事なのだが、29人の生存者が28人になった所で……果たして魔物の強さは大きく変わるのだろうかと言う事に。
十中八九ほとんど変わらないだろう。
ただの予想でしかないが、少なくとも10人近くは減らなければ体感的に相手が弱まった様に感じる事は無いのではなかろうか。
そうなればどうなる?
エリルが死んでも変わらない魔物の強さ。
であるならば生き残る為にこの馬鹿達は次の犠牲者を探し始める。
そうなればその対象となる人物はどう考えても元非戦闘組の中の誰かなのだ。
自分達が生き残る為には元々戦闘を行っている者達の援護は必要不可欠。
戦力として存在しなければならない立ち位置を作り上げている事によって、シアン達からその犠牲者が選ばれる事等決してない。
要するにその後始まるのは次の『無能探し』だ。
そしてそれらは魔物が弱くなるまで終わらない。
下手をすれば日にちが経過する事で体感的には一生魔物が弱く成らないまま、無駄に仲間の数ばかりが減る現象だけ起こりえるだろう。
結果的に生き残るのはシアン側の者達のみで、自分達非戦闘組は誰一人残らない結果となる。
そんな事も想像できないのだからこんな馬鹿な発想を思いついてしまうのだろう。
さぁどうした物か。
エリルはあまり残されていない時間の中で対策を考える。
このままジョナサンがマーキングした場所に向かわずに逃げ出したとしても、ジョナサンがやろうとした事に対して罪に問う事は出来ない。
彼がそれをやろうとしたという証拠が無い為だ。
今糾弾した所でマップからマーキングを消されたらそれまでだ。
では敢えてジョナサンが指定した場所へジョナサンを向かわせるか?
いや、最悪それを彼が奇跡的に受け入れたとして、もしそれで彼が死んでしまったらそれも自分のせいにされてしまうだろう。
……そうだな、一番のやり方はこうだ。
エリルは最大限の警戒を行いつつ、ジョナサンが指定した場所へと近づく。
馬鹿なのか演技する気が無いのか、後ろのジョナサンから生唾を飲み込む音が聞こえる。
彼は今、自分が人殺ししようとしている自覚はあるのだろうか。
どうせこれの発案者はライアンなのだろうが、実際に手を下すのはジョナサンと言っても過言では無い。
彼にその覚悟があるのだろうか。
何方にせよ……エリルはこんな所で死んでやるつもり等無い。
先程数回に渡りシアン達とゴーレムが戦っている姿を見て、ゴーレムの動きは大体分かった。
このただの巨大な岩に見えるゴーレムが突然起き上がり、起き上がりざまに大きな腕を振り下ろして来る。
それがゴーレムの最初の攻撃行動だ。
出てくる場所も、出てくる存在も、行動パターンも分かってさえいれば……まだ自分でも『回避』出来る。
エリルはその自信があったからこそ堂々とゴーレムが居るであろう場所へと近づいたのだ。
しかし、エリルの行動は殆ど意味も無く終わる。
確かにゴーレムは存在した。
エリルが行こうとしていた場所でゴーレムは起き上がった。
しかし……それはあまりにも『小さすぎた』のだ。
「……」
手のひらサイズの意思人形とでも言うのか、届く筈もない腕の振り下ろしを、ゴーレムは小さな手でその場へと叩きつける仕草を見せる。
恐らく硬いから倒す事は出来ないだろうが、この程度ならエリルが蹴り飛ばす程度で退ける事が出来る。
ほら雑魚ども。
こいつが何ポイント持っているか知らないが、小さくともゴーレムはゴーレムだ。
ポイントとして欲しい奴はさっささとこいつにしがみつけ。
等と思いながらエリルは足元で何かやっている小さいゴーレムを蹴り飛ばした。
そして直ぐにジョナサンへと振り向く。
「……っひ」
小さい悲鳴を上げるジョナサン。
作戦が失敗した事に焦っているのか、エリルを見ながら青ざめ、少しずつ後ずさり始める。
別に何かをするつもりは無いが、エリルはただゆっくりと彼に向かって歩き出す。
彼の異能は索敵。
フィールド上にいる敵の位置を補足する事が出来る能力。
そしてその敵の位置を自分のマップ上に映し出す事で『マーキング』を行う事が出来る。
マーキングを行った敵に対しては、現時点ではジョナサン本人の攻撃のみ倍率が掛かり、以前に挙げた『弱点』の異能を持った女性……『アレクシア・ウィンディ』と同じ様に対象に効率的にダメージを与える事が出来る様になる。
あくまで急所を的確に突けるアレクシアの方が攻撃力は上だろうが、ただこう言った擬態モンスターを探し出す際にはジョナサンの異能の方が有用性があるだろう。
それは分かっている。
しかしメリットは今の所その程度だ。
これから彼がその異能を鍛え上げ、仲間と敵の位置を共有出来たり身体強化によってより対象にダメージを与える事が出来る様になれば非常に優れた異能となったかもしれないが、今現在その異能の明確な欠点が露出する。
魔物の位置は分かったとしても、その対象の詳細が索敵の異能越しでは分からないと言う事だ。
例えるなら今正にエリルを罠に嵌めて、ゴーレムの餌食とする事で殺そうとしていたのだろうが、その大事なゴーレムがどれ程のサイズなのか、どれ程の能力を持っているか等はジョナサンには全く分かっていなかった事だろう。
恐らくそもそもが発見した魔物がゴーレムかどうかすら分かっていない可能性だってある。
だからこそ偶然にもエリルが警戒して近づいた指定箇所には、もの凄く小さなゴーレムが存在していたと言う結果を生み出した。
予めそこにいるゴーレムがあれだけ小さい個体だったと分かっていたのなら、それを罠に使って自分を殺そうと企てると言う馬鹿な判断をする筈が無い。
そしてこの時、ジョナサンは自分のその索敵の異能の最大の弱点をまだ知り得ていなかった。
人の能力だからと言うのも有るが、エリルでさえその可能性は予想していなかった。
普段から彼が戦闘に参加していれば気付けた筈の弱点とは、正にこれから起こる現象の事だったのだ。




