索敵
先日、6日目に参加したミッションの内容は今日とほぼ同じで敵全滅系のミッションであった。
ただし少しだけ趣向が違ったのが、一定のエリア内に擬態した魔物を時間内に見つけ出して倒す事が目的とされたミッションであった事。
三日目のミッションでレアモンスターとして現れた擬態スライムの様に、自然や背景の中に溶け込んでいる魔物を見つけ出して倒すと言う、簡単に言うのであれば『かくれんぼ』の様なミッションだったのだ。
一度に数体の魔物が隠れている草原で魔物を見つけ出し、全ての魔物を見つけ出して倒す事が出来たら次は森林のマップに入れ替わり、そこをクリアすれば今度は鉱山エリアに……と言った様子で、複数回移動を挟んで複数体の魔物を制限時間以内に全滅する事が目的のミッションであった。
出て来る魔物の殆どが擬態系であった事から、総合的な魔物の数は少ないが一体一体が持つポイントは非常に多く、それこそミッションの最初でマップとなった平原に現れる擬態スライムだけでも、三日目のミッション同様50ポイントものバトルポイントが手に入る可能性があった事から、元非戦闘組の中で軽い争奪戦が起こる程の乱獲が起きていた。
乱獲と言ってもそこまで多い訳で無く、かつ今回に至っては岩に擬態するだけでは無く緑色の迷彩柄になって草むらに溶け込んでいたり、透明化を利用して池の中に潜んで居たりと中々厄介な隠れ方をしていた事から、非戦闘組が必死になって探しても後半からシアン達が参加しなければ間に合わない程に時間が足りていなかった為、非戦闘組が満足にポイントを手に入れられた訳では無い。
しかしその中でも全体で10匹居た擬態スライムを、たった一人だけ『三体』も討伐を完了させていた人物がいた。
その人物は二日目にライアンが癇癪を起していた時、唯一非戦闘組の中でライアンを宥めていたスーツの人物だ。
名は『ジョナサン・ミール』、異能は『索敵』だった。
非戦闘組の中でも特に大人しく今迄何も反発を起こさなかった人物だった為に、彼の異能を覚えている存在は極一部の者達だけである。
実際にはほぼシアンとケヴィンが覚えていただけで、エリルも何となくそんな事を言っていた気がする程度の認識しか無かったのだ。
寧ろ非戦闘組の者達の中では彼の事すらあまり印象になかった様で、後になってそう言ったかくれんぼ的なミッションでこのジョナサンの異能が非常に役に立つ事が判明したくらいで、その場で彼の多すぎる討伐数を目の当たりにしても、殆どの者が『運のいい奴』程度にしか捉えていなかった。
だがその中でも、『ライアン』は一早くその人物の異能に目を付け、次のエリアに移動するまでに彼を手懐ける事でミッションを容易に進めようと模索し始めたのである。
シアンも同様の事をあくまで『協力』と言う形で頼もうとしたのだが、私利私欲の為に行動するライアンへ先を越されてしまった形となっていた。
二つ目のエリアは森林マップ。
主に擬態する魔物は『キラートレント』と言う正に木の見た目をした魔物であり、近づけばそのまま弾力のある硬い鞭の様な枝を利用して対象を捕獲。
そのまま自分の身体の中へと引きずり込んで養分となる様に取り込む様な性質を持っていた。
確かに木を隠すには森の中と言うことわざもある様に、木の見た目をした魔物が森の中へ存在すれば本物と殆ど見分けが付かない状態になっているだろう。
ただし、片方はあくまで魔物である為絶妙に本物の木と違う部分があると言う。
キラートレントの見分け方であれば場数を踏んでいるグランが得意としていた様で、ジョナサンの索敵が無くともグランが次々にキラートレントを見つけ出してたいた為、ライアン達だけがトレントを狩りまくる様な状況は起こらなかった。
それでも結果としては沢山のキラートレントをライアンとジョナサンが狩れた事で、彼等はホクホク顔になりながら次のエリアへ移動を開始していた。
問題が起きたのはその三つ目のエリアである『鉱山マップ』であった。
先程のキラートレント戦で味を占めたライアンは、次も同じ様にジョナサンへ索敵をさせようと目論んでいたのだが、二回連続大量の魔物を討伐したジョナサンを非戦闘組が怪しみ、何やらそこに秘密があるだろう事を感じ取った事でライアン達の悪事……とは行かないまでも、魔物を二人占めしようとしていた事がバレてしまった。
この世界に来てから暫く、自分の威厳が早くも通用しない事を悟り始めていたライアンは、これ以上求心力を失う事を恐れていたのだろう。
仕方なく自分だけが利用していたジョナサンの索敵の異能を使う事で、元非戦闘組達にも恩恵を与える事を考えたらしい。
今迄ジョナサンがその異能を使っていれば楽に突破できていたミッションはいくつかあった。
何より彼の索敵は自分が発見した魔物に目印を付ける事が出来る者。
自分だけであればシステムボードの機能として存在しているマップ機能にも、雑魚モンスターでさえ赤丸を付ける事が出来ていたのだ。
おそらく異能強化を手に入れる事が出来たのなら、その赤丸を皆で共有出来たりと言った効果だって発揮できていたかもしれない。
しかし、今迄その有用性を分かっていてもシアン達に協力せず、ただただ戦いに巻き込まれる事を嫌い非戦闘組で居続けた結果、遂に今日のこの日まで異能強化を行う事は出来なかった。
出来ていれば恐らく結果は違っていたのかもしれない。
それだけでなく今迄なんどかその異能を試していれば、異能の弱点に気付けた可能性だってあった。
だがその鉱山エリアで現れた擬態モンスターは少々厄介な存在だったのだ。
そもそもグラン曰く擬態系の魔物は己の能力の低さから、擬態して対象に不意打ちを掛ける事で有利に立つ様な性質を持っているらしい。
だからこそ初めて戦う新種のトレントで合っても実際に異能を駆使して叩けば、大して苦労する事も無く討伐を行う事が出来た魔物だ。
しかし鉱山に至っては別段『擬態』しなくとも風景に溶け込む様な魔物は多数存在している。
そしてまさにその代表格が現在シアンが戦っていた『ゴーレム』系統だろう。
様々な大きさを誇るゴーレム系統は、そのサイズによって討伐難易度が変わる為に冒険の中級者であっても中々気が抜けない魔物であると言う事。
既にシアンとケヴィンであれば難無く倒せるレベルには至っているのだが、一度も強化を入手していない元非戦闘組からすれば人間と同サイズ程度でも苦戦するレベルには強固で殺傷能力の高い魔物であるらしい。
その為にシアン達も鉱山に出て来る擬態モンスターが、擬態している訳では無いが鉱山内部ではすこし分かりにくいゴーレムだと判明した時からは、出来るだけフォロー出来る様に非戦闘組の近くで探索を行う事にしていた。
都合上エリルもその近くで辺りを見回し、一早く魔物を発見出来る様に務めているのであった。
そんな状況で、戦闘の余波に巻き込まれない様にシアン達が戦っている最中に、軽く距離を離れて彼らを見守っていた時の事だ。
エリルは突然ジョナサンに話しかけられ、どうにもエリルが待機している辺りの周辺に索敵が反応しているのだが、どうにも発見できずにいるのだが危ないから念の為もう少し離れていたはどうだと提案されたのだ。
非戦闘組でライアンを唯一宥めていた存在でもあり、今回のミッションで索敵の効果を遺憾なく発揮していた彼の言葉を、エリルは全く疑わずに指示に従ってその場を離れた。
少しだけ一同から距離が離れ、ジョナサンが確実に安全圏だと言う場所まで誘導されるエリル。
何やら他の者達から妙な視線を感じるのだが、どうせ自分が他人に親切にされている状況を良く思っていないが為の視線なのだろうと思い放置していた。
壁際ギリギリで待機する様に指示され、どうにもここまで大きく距離は取る必要は無い様な気もし始めた頃、不意にライアンが視界の端へと収まった。
彼からも視線を感じた事で、咄嗟に彼に向かって顔を向けた時……何故か彼はニヤけながらこちらを見つめていたのだ。
そこでエリルは気づいたのである。
『そういうことか』と。




