グループの亀裂
二日後、七日目にあたるミッションの日の事だ。
「エリルさん!」
「よし来た!!」
エリルはディムが蹴り飛ばしたアースウルフの『ボス個体』の脳天を『レイピア』で突き刺した。
「次がくるでござんす!」
「マーロン! 数が多すぎる! 数体止めてくれぃ!」
複数の魔物が徒党を組んで襲い来る様が、まるで『波』の様に見える。
先頭に立つリアムが『異能強化2』によって手に入れた『大盾』を構えて、相当な数の魔物を一心に受け止めているのだが、あまりにも数が多すぎる事から身動きが取れなくなっている状況だった。
マーロンが複数体同時に念力によって足止めをする事でリアムの負担を軽くする。
「落ちるっすよ!」
リアムの背後近くから地面に手を付いたネイサンが、リアムの前方に大きく穴を広げる。
深穴ではない事から本来なら魔物へのダメージを期待出来る状態では無かったのだが、彼も異能強化2により落下で作り上げた落とし穴の中に、まるで『剣山』の様な無数の刃が処狭しと設置されていた。
更に落とし穴の範囲に入った魔物は皆落下の効果により重力加速が入り、僅かな高さでも相当な速さで穴へと落とされる状況になり、硬い魔物達の肉体でも剣山がそれらを貫いていた。
「はい!」
更にその落とし穴の範囲に向かって、金棒をもったジェシカが複数の魔物を吹き飛ばす事で次々と叩き落としていく。
魔物は生命力が高いのか、体中から刃が突き出ていても尚急所が外れている事で命を落としていない存在がかなり数存在している。
しかしだからと言ってその状態から魔物が自力で穴から這い上がれる筈も無く、ケヴィンがトドメを差す様に穴の中へ業火を放っていた。
「準備万端だす!!」
「はぁっ!!」
再びマーロンが複数の魔物を念力によって誘導し、縦一列に並べたてた所でグランが投擲を放った。
身体強化2と異能強化2の両方を取得しているグランから放たれた鉄球は、もはや音速を越える速度を誇っている事は間違いなく、その上大きな鉄球だった物が投げ出された瞬間に変形を起こし、三角錐の様な形状となると真っすぐに並んだ魔物達を次々と貫いていった。
もはやあの威力は現実世界の対戦車ライフルをも超えているのでは無いかとケヴィンは錯覚を起こす。
そんな代物を本当に見た事がある訳では無いのだが、そう言った印象を受けたのは事実であった。
ケヴィンの炎の威力もそうだが、グランの攻撃はやはり次元が違ってきている。
もとよりシアンとケヴィンが二強の様な存在だったのだが、昨日のミッションによって再び大量のlポイントを手に入れたグランは、続けて異能強化2を取得し三人目のダブル強化2を取得した存在となった。
もっと言えばジェシカ自身も四人目のダブル強化者なのだが、今は己の能力の変化を掴むべく過剰な武器は扱わない様にしている様子だった。
それも伴って今回ジェシカはエリルへと武器召喚の残りのリソースでレイピアを渡していた。
魔物のレベルが上がり過ぎて、ボス個体レベルも普通に出て来る様になっている為、前回までの様にエリルが単独で戦える様な状況には無いが、それでも今の様に複数人で戦う場合はまだ戦力になれているつもりではあった。
単独で戦うと言えばやはり『シアン』か。
リアムよりも更に前衛で迫りくる敵を片っ端から殴りつけ、効果範囲と殺傷能力の広がった切断を次々とお見舞いする。
自分の体躯よりも遥かに大きな『ゴーレム』に対しても一切怯む事無く、次々と切断をお見舞いしてはその体を削り取って行った。
単独最強は間違いなく彼であり、名実ともにリーダーとしての立ち位置を確保していた。
しかしあくまで単体としての実力は高いが、やはり体は一つしかない為に一度に対応出来る魔物の量は決まっている。
そんな時には全体攻撃が可能なケヴィンの出番だ。
肉弾戦も十分に熟せる上に、その実力を持った上で自然魔法を操る彼を止められる者はもはや存在しないのでは無いだろうか。
それこそ『神にも届く』と思わせられる程の力である。
先日彼がロキへと呟いた『いつか必ず殺す』と言う言葉も叶うのではないか。
北欧神話に因んで、『トール』が放つ様な雷を迸らせるケヴィンの姿は、それ程神々しく見えた。
今回のミッションは、グランにとっては少しだけトラウマを誘発させる様な物だったろう。
実際に彼は今回のミッションが開始した際、普段からは見られない冷や汗を大量に流していた程だ。
何故グランがその様な事になったのか。
ミッションの目的自体は『魔物の全滅』と設定されている。
何方かと言えばそれ自体は『いつも通り』と言える内容なのだが、討伐の仕方に問題が有ったのだ。
今迄の全滅ミッションと言えば初日のクロウラビットの団体を纏めて相手する方法と、マップ中に散らばった魔物をしらみつぶしに探して全滅させる方法であった。
何方かと言えば初日の様に魔物を纏めて相手する方向性が近いミッションだっただろう。
ただ、今起きている現象は、現世でグランが『死に追いやられた』要因である『スタンピード』と言う物である。
地球出身の者にはあまり聞き馴染みが無いが、グランが口にしたそれをケヴィンは直ぐに理解していた事から、魔物が存在する様な異世界では一般常識の出来事なのかもしれない。
全滅系のミッションで魔物側の方からこちらに向かってくれる状況は、ある意味では楽と言えるのかもしれないがそれは量が少ない場合に限る。
今回はあからさまにこちらを殺しに掛かってきていると錯覚してしまう程の圧倒的物量で、次から次に魔物が途切れる事無く一斉に襲い掛かって来ている状況であった。
幸いにもこう言う傾向のミッションであれば、こちらも散らばる必要が無い為にしょっぱなからこちらの最高戦力がこの場へ集っている状況だ。
特に元シアンチーム達のお陰で連携は非常に取りやすく、元々そう言った戦い方で生き残って来たからか仲間の異能の活かし方が彼等は非常に上手であった。
とは言えやはりスタンピードはスタンピードだ。
現世でグランがこれに巻き込まれて死んでしまったと言うのは納得せざるを得ない現象だと言える。
エリルが最初に敵の動きを『波』と例えたのは、一定の間隔で途切れずに魔物が次々に襲い来る事からである。
何よりその一定の間隔で襲い来る波が、段階的にレベルを上げて行ってる事から徐々に徐々に魔物が強くなっているのである。
既に元非戦闘組はついて行く事がやっととも言える状況で、殆ど魔物を捌けなくなっている事からシアンを中心にしたこちら側のチームの負担が増えていっている状況なのだ。
出来る事なら、元非戦闘組とも連携を取って戦っていきたい。
まだまだ優秀な異能は沢山存在している為、使いようによっては異能強化等が無くとも戦闘を優位に運ぶ事だって出来る筈だった。
最強の前衛であるシアンや、鉄壁な存在であるリアムがいる事で殆ど戦う術の無いエリルださえ安全に戦えているのだから、この局面で彼等とは協力体制が取れる形自体は作れている筈だったのだ。
……しかし、この二つのグループには先日、完全に亀裂が入ってしまったのだ。
その大きな理由の一つとして上げられる事柄が……『ライアンの死』である。




