多いから
「今回はびっくりしたでしょぉ。正直割に合わないくらい強い敵が出て来たんじゃない? 下手すれば全滅だってあり得た筈なんだけどぉ、君達は本当に優秀だよねぇ。あんな状況で死者が零なんて立派だよぉ。あ、そう言えば前回スパイクとか言う奴が死んじゃったんだっけ? それを踏まえてもこれだけ犠牲を出さないファミリーも珍しいよ本当にぃ」
「本当にイラつく事しか言わねぇなテメェは。レベルに見合ってねぇ敵をテメェが割り当てて来た癖に、それを乗り越えたら凄いだなんだってふざけてんのか? 死ぬ事前提みてぇない言い回ししてるが、ゲームと言いながら敵のレベルを上手く調整出来ねぇ間抜けの言い訳にしか聞こえねぇぞ」
「いやいやぁ、僕のせいにしないでよぉ。僕だって出来る限り君達には死んで欲しくないからさぁ、頑張ってはいるんだけどぉ。色々有るんだよねぇ」
再び含みを持たせた様な言い回し。
エリル自身も今回のミッションで感じた理不尽さ加減は、ロキの想定していた物じゃない様な発言だ。
魔物を用意しているのがロキでないのなら……一体誰だ?
「君達にはこのまま長寿で居て欲しいからさぁ、ほんとーに頑張ってよねぇ。さぁてそれじゃぁ、今回もぉ、質問コーナーいっとくぅ?」
全ての言葉が嫌味にしか感じられない。
自分でデスゲームの駒と言っておきながら、現世で死んでしまった自分達に対して『長寿で居ろ』等と発言出来るこいつの神経にドン引きだ。
軽々しく質問コーナー等と言い放てる態度に関しても、こちらが一つ一つの質問に対して真剣に取り組んでいる事をあざ笑っているかの様な発言だ。
だがここで腹を立てる事によって思考を鈍らせてはいけない。
今回の質問に関しては既に決まっている。
前回の質問の後にシアンが用意していた物だ。
そして今回に至っても、ファミリーハウスに集う者達の意思はバラバラで有る筈にも関わらず、この時だけは皆シアンへと視線を移す。
……このチームワークが、実際のミッションの際に発揮できればいいのだが。
「それなら質問だ。お前達がこのデスゲームを開催している理由は何だ? 一体何が目的だ?」
そしてシアンが口を開き、予定していた通りの質問を投げかけたのだった。
「あー目的ねぇ。言っても良いのかなぁ? 特に禁止されてなかった筈だからいいよねぇ。うん、答えてあげるよぉ! このゲームでの僕『達』の目的はぁ、自分達の『神格』を懸けて君達に『代理戦争』をやって貰ってるんだぁ! ほらぁ! めちゃくちゃ光栄な事でしょぉ? 喜んでいいよぉ、皆僕の為に戦えるんだからさぁ」
これで確信だ。
やはり自分達と同じ様な境遇の存在が、他にも何組か存在しているであろう事。
自分達の『神格』を賭けていると言う発言から読み取れる事実は、彼らが『神同士』で争っていると言う事。
現代の地球に存在するいくつもの神話の中の一つである『北欧神話』に登場する『ロキ』……。
そんな彼が別の神と神格を懸けて争っているのであれば、その争っている相手の神も恐らく同じ神話に存在してた者達だろう。
そしてその争いに参加している神の数だけ……同じ様な『ファミリー』が存在していると言う事。
色々と無駄に口を滑らせる彼の発言からも、今となれば納得の行くものが多々ある事になる。
己の役に立ちそうな存在に対しては、やたらと上機嫌に接する彼の態度。
その逆もまた然りで、役に立ちそうにない存在には辺りが強いのも、己の神格を懸けているのなら納得が行かないでもない。
要するに自分達の神のランキング様な物を、人間達に代理戦争をさせて決めていると言う事なのだろう。
自分達の戦いの勝敗によって、それらの駒を持った直属の神の立場が決まると言った所か。
となれば、今回のミッションの様なあまりにも過剰な強さを持った敵が現れた理由も……ロキと対決をしている存在が用意した魔物……そう言う事なのだろう。
勝手に集められて、勝手に駒にされて、死にたくなきゃ戦え。
要約するとそう言った発言をロキはしている。
自分達は一度現世で命を落とした。
そしてそれらは自然災害や魔物災害と言う抗い様のない物、不可抗力で死を『強いられた』様な状況にある為に、現世での死自体を受け入れられていない状況にある。
だからこそ、今この世界で導かれた一同は一度死を経験したと言う感覚よりもむしろ『生き永らえた』と捉えている可能性が高い。
いや、寧ろエリル本人はそう受け取っている状況に有り、そうなれば当然『死にたくない』と思ってしまう事も当然の事なのだ。
しかし、このまま生き残り続けるとするのならば、今後も仮に与えられたミッションで活躍し続けるのであれば、それはつまりロキの為に戦う事となり、自分の行動が全てロキの神格を『上げる』事に繋がってしまう悪循環が起こる。
勝手に巻き込みやがった奴の為に行動したくなくとも、生き残ると言う事は彼の為に戦う事と同意語と言う事だ。
「……いつかぜってぇ殺す」
それに気づいたが故のケヴィンの発言なのだろう。
そして今身体強化と異能強化の二つを手に入れてもまだ勝てないと判断した結果なのだろう。
額に血管が浮き出る程に怒りを感じている様子がみえる。
悔しい気分もあるだろう。
それこそ彼は話によれば自分の世界の『魔王』と呼ばれる存在を倒した様な人物だ。
相応に努力して、相応の場数を踏んできたが故のプライドだってあるのだろう。
魔王の強さがどれくらいか等知る由も無ければ、目の前のロキと言う『神』を自称する存在の強さもそれと比べてどれだけ差が有るかは分からない。
しかし分からないからこそケヴィンのプライドを下らない物だ等と言う事は出来ない。
自分はそれを経験していないのだから馬鹿にする権利も無ければ、そもそも自分でさえロキの立ち位置にはむかっ腹が立つ程だ。
「んー、でも考え様によってはぁ、僕を倒せるくらいに強くなってくれたらぁ、きっとこのデスゲームを完全クリアに導いてくれてぇ、僕の神格をガンガン上げてくれる存在になるって事だもんねぇ! 良いよぉ! 僕を殺す……その意気で頑張ってよねぇ!」
なんでもかんでもプラスに捉えるロキ。
と言うよりも……強くなる事ですらそのままロキへと貢献する事となってしまう始末だ。
……だが、今またロキは『余計な事』を口走った様に思える。
『完全クリア』……つまりこのデスゲームには『終わり』があると言う事だ。
それはそうだろう。
いつまでも終わらずに永遠に戦い続けさせられると言う事は、ロキの言う神格のランキングがいつまでも決定しない事となる。
そうなってしまえば本末転倒。
今自分達がここで戦っている意味も全くなくなってしまう事だろう。
だからこそ終わりが有るのは当たり前なのだが……終わりが来た時自分達は『どうなるのか』……そこも考えておかなければ成らない事だろう。
寧ろ次回の質問はそれにするべきでは無いかとエリルは考える。
ただ……その質問に足してロキが素直に答えるかどうかは甚だ疑問だ。
単純に開放して元の世界に戻れるとかそう言った扱いがあるならまだ良い。
現世で死んでいるにもかかわらず戻った場合自分達の存在はどうなるのか等の疑問点はあるが、未来が有るのなら希望は持てるだろう。
問題は『逆』だった場合だ。
つまり、このデスゲームが終わってロキ達神の神格ランキングが決定した後。
その時まで自分達が生き残っていたとしても、用無しとなった自分達があっさりと処分されてしまう可能性だって残っている。
そう言う結果が待っていた場合は、恐らくロキはこの事に対して応える筈が無い。
何故なら、自分達が最後まで生き残ったとしても死んでしまう未来が待っているのなら、どうせ死んでしまうのなら今すぐ死んでしまおうと考える者だって現れかねない。
人々は生きる希望が有るからこそ死に対して抗い続けるのだから、もし仮にそう言う結果が待っているのならロキは絶対に言いはしない事だろう。
「さぁて、今日はこの辺までかなぁ! 質問にも答えたし、早速強化が次の段階行った者達も現れたし、本当に想定以上に生き残りが存在する優秀なファミリー達だとも分かったし、僕はほんとぉに満足だよぉ。じゃぁこれからも頑張ってねぇ! 特にエリルねぇ! あっ! 無理か!! あはははははっ!!」
ロキは頭に被っていたハットを両手に持つと、それをゴムの様に横へと大きく引き伸ばし、何をしているのか理解出来ないが下着を履く時の様に足を入れ込むと、まるでそこが落とし穴になって居るかの様にするりと帽子の中へと入って行ったのだ。
ロキが帽子の中に入り込んだ事によってヒラリヒラリと残された帽子が空中を漂いながらゆっくりと地面へと降り立つ。
彼が手に持ったままの状態だった事からハットの天辺部分が地面へと接触し、被る部分が上を向いたままその場に残っていた。
「最後までちゃんと消えやがれ」
イラつきの収まらないケヴィンが帽子を蹴り飛ばし、ころころと床を転がりながら今度こそ正しい方向で綺麗に止まる。
一同は完全にロキがこの場を去ったと思い、一瞬だけ気を緩めたタイミングだった。
「そうだ!!」
彼が帽子から顔だけを戻した事により、帽子の中から生首が飛び出している様な不気味な光景が作り上げられる。
「君達が戦う敵が強い理由を伝えるの忘れてたねぇ。まぁ、伝えなくてもいいんだろうけどぉ、今後のヒントとして聞いといてくれたらいいよぉ。僕ってば優しいからさぁ!」
一部の人物達がその光景を目撃して悲鳴を上げる中、ロキは構わずと言った形で言葉を続ける。
「あのね? ファミリーハウスに家族が残ってれば残ってる程ぉ、比例して配置される魔物が増えたり強くなったりするからだからねぇ! それじゃぁそれだけ!!」
言いながら、シュッと音を立てる様に帽子の中へと戻っていったロキ。
今度こそは本当に消えたのだろう、先程残った帽子もほぼほぼロキと同時にこの場から消え去ったのであった。
しかし……中々に厄介なヒントを最後の最後に言い放ってくれたものだ。
お陰で元非戦闘組の中から幾人かの者達の鋭い視線が『自分』へと集中される。
彼らが思っている事は恐らく『次の死者』の算段であるだろうからだ。
そして彼らが思うもっとも死ぬに相応しい『出来損ない』は自分であると言う事。
何故彼らが突然そんな視線をこちらに浴びせて来たのか。
ロキはファミリーハウスに家族が……つまり自分達の生存数が『多いから』敵が総じて強くなると言ったのだ。
比例する様にファミリーの数だけ敵が強くなる。
だったらファミリーの数が『減れば』その分敵も弱くなると言う算段が簡単につく。
それなら簡単に頭数を減らす事が出来そうな人物はだれか。
……『俺』なのである。
それらの視線の真意は分からないが、バカな事を起こすんじゃねぇぞと思いながら、何かあいつらが口を開く前に自室へと戻るエリルであった。
――――……。




