依怙贔屓
「……アレクシア、気持ちは分からんでも無いが、アレは確かに『活躍』しておったよ。ワシもこの目で見た事じゃ。それと……あまりその様な文句は言わぬ方が」
「文句じゃないわよ! これは『要望』よ! シアンさんだって要望なら聞くって言ってたじゃないの! 私の要望はあいつへの『依怙贔屓』を止めてって事なんだけど!?」
「それならそんな要望聞く必要はねぇな。誰も依怙贔屓なんてしてねぇんだから止め様がねぇ」
カウンター気味にケヴィンが言葉を連ねた事によって、彼の口喧嘩の強さを理解しているであろうアレクシアは一瞬だけ怯む。
しかし次の瞬間再び口を開いて喧しく喚く。
「じゃあそれはどう説明するのよ!! ポイント0の『無能』が何でそんなにアイテムを貰ってると言うのよ! ちゃんと納得いく説明して!」
「……さっきライアンが言ってたろ」
ため息を吐きながらグランが一言つぶやく。
確かにライアンは説明していた。
『アレ』とか『気持ちは分かる』とかふざけた物言いはしていたが、『活躍していた』と確かに断言しているのだ。
その時点で説明は終わっているのだが。
「仕方ねぇだろ。本当の無能がどう言う存在の事を言うのか分かってねぇ奴が、自分を棚に上げて有能な奴に対して無能とか言ってしまってんだ。きっとあいつは救い様のねぇくらいの馬鹿か、それともただの馬鹿かのどっちかでしかねぇ」
何れにせよ馬鹿と言いたいのだろう。
これは翻訳が間違えている訳では無く、ケヴィンは敢えてそう言う嫌味を込めて言葉のしたのだろう。
「誰がバ――」
「はいはぁーい、皆お疲れ様ぁ。君達の主神であるロキ様の登場だよぉ」
発狂寸前のアレクシアの言葉を遮り、気味の悪い奴が気味の悪い声を発しながら登場する。
それによって室内は一気に緊張が包み、顔が真っ赤だったアレクシアが一瞬にして蒼褪めると言う百面相もびっくりな変化を見せていた。
「テメェには関係ねぇよ」
「もぉー、ケヴィンつれないなぁ。そんなに僕の事嫌いなのかなぁ? まぁいいや、君に聞こう。さっきまで君はなんか騒いでたよねぇ? 何があったのぉ?」
「ひ……あの……べ……別に……」
ロキは再び、魔法か何かで大きくした耳をアレクシアに近づけて彼女に質問を投げかける。
だが彼女はロキに雰囲気に押され、声を上ずらせながらなんとか誤魔化そうとする。
「ねぇ、僕が聞いてるんだけど。なんの話してたのかって言ってんだよ」
しかしそれが気に食わなかったのか、ロキはアレクシアの顔面を掴むと凄む様に言葉を投げかけた。
「ひぃいい!!」
アレクシアは再び恐怖に顔を引きつらせ、ただただ叫び声を上げた。
以前のライアンとの扱いに違いがあるとすれば、彼には身体強化を手に入れていた為か多少暴力的な行為をロキは取っていたのだが、アレクシアに関してはそれが無い事を考慮しているのか、ただ顔を掴むだけに済ませていた。
「ケヴィンがあんな態度取ってもぉ、彼はもう僕の『お気に入り』だからさぁ、多少の無礼は許すけどぉ……君みたいな僕の役に立ってない様な奴には容赦しないって前にも言ったよねぇ。さっさと答えてくんない?」
「はい! はいぃいい! 答えます! あの……エ……エリルと言う人がポイントを稼いでも無いのにその……やたらと他の人達が贔屓している様に感じて……その……」
アレクシアは恐怖心を感じたまま、しかし先程の彼女の言い分をそのまま口にする。
「……」
その彼女の言葉を聞いて、仮面越しの為に表情こそ分からないがただじっと彼女を見つめるロキ。
話の意味を理解する事に多少時間を要するのはロキの癖の様な物なのだろうか。
「そ、なる程ね」
そう言うとロキはあっさりとアレクシアを手放す。
元々傷つけるつもり等無かったのだろう、彼女の顔は特に怪我等を負っている様子は見えず、ただただ本当に顔をロキに覆われていただけである事が読み取れた。
そしてそのままロキは、彼女から聞き取った情報の中にあった人物……つまり自分に向けて視線を向ける。
その瞬間にロキと自分の間にシアンとケヴィン、グランまでもが立ち塞がり、ロキの行動に警戒する意思を見せていた。
「確かにこの状況も不思議だよねぇ。前回が僕が食料の譲渡を一回だけって言う制限をしてからも、唯一エリルだけポイントの変化が内にも関わらず……ポイントだけ見れば完全に足を引っ張てるのは明確なのにこのファミリーの『三強』とも言える君達がエリルを守ろうと僕の前に立つなんてさぁ……なぁんかおかしいなぁ。でもぉ、安心してよぉ。僕はただ質問するだけだしぃ、エリルがちゃんと答えてくれるなら僕は何もしないからさぁ」
それは遠回しに、質問に答えなければアレクシアと同じ様に脅すぞと言う意味を含めているのだろう。
彼はケヴィンを『お気に入り』と発言した。
初日にケヴィンは彼の怒りを買い、いきなりポイントを奪られる程の仕打ちを受けたにも関わらず、三日目になるとケヴィンの活躍に免じて『何かに使ったポイントを差し引いて』、ケヴィンのそれを返してきた。
この心変わりはやはりケヴィンがミッション中に目を見張る程の活躍を見せている事から来ているのだろう。
そう考えれば恐らくロキの中で、『シアン』と『グラン』もお気に入りに入る筈だ。
下手をすればついでに『ジェシカ』もその括りかもしれない。
彼らは単純にポイント獲得ランキング上位の常連だからだ。
ポイントだけを見ればジェシカ含めて、確実にミッション遂行に貢献している者達と言う扱いになる。
そう言う考えがロキに有るからこそ、合計でも恐らく2~30ポイントしか取得していないだろうアレクシアには強い辺りを見せるのだ。
『お気に入り』ではないからである。
そしてその計算でいけば、当然『自分』もお気に入りではない。
あくまでポイントだけでしか判断していないであろうロキの発言を顧みれば、それは間違いない。
「確か君はぁ、初日にはジェシカの異能を借りてかなりのポイントをたたき出してたよねぇ? つまり戦う力は有る筈なのに、自分の異能を使って戦う様な素振りは見えない……『何で』なのかなぁ?」
ここは、無駄に時間を浪費するよりもさっさと答えてしまった方が身の為だろう。
もしかすればそれで異能に関しての何かしらのヒントをロキが漏らしてしまう可能性だってある。
「分からへんからや……俺の異能の使い方が」
「もう五日も経ってるのにぃ? 流石に自分の異能の把握に時間掛け過ぎじゃないのかなぁ? ちゃんと自分で試行錯誤してみたぁ? 努力しなきゃだめでしょぉ」
「アホほどやってんねん。せやけど全く見当もつかへん。『100倍』ってなんやねん。あんたならなんか知ってるんとちゃうんけ」
一抹の不安もとい……僅かな希望に縋りつく様に質問を投げかけるエリル。
しかしロキは『あの仕草』を見せる。
黙って仮面越しにこちらを観察する様な、気味の悪い謎の癖で。
そして納得が行くと、突然ロキは言葉を紡ぎ始めるのだろう。




