バトルポイント
「ふふん、君はとことんチュートリアルに向いた発言や行動を取ってくれるねぇ。僕からしたら説明がし易くて本当にらくちんちんだよ。って事で皆、さっきケヴィン君が言っていた【BP】の数値の所をステータスウィンドウ上でタッチしてみて!」
仮面の男はBPの正式名称らしき名を告げた。
バトルポイント……直訳で戦いの得点?
何となく予想が付くが、さっき目にした『魔物』とやらを倒せばここのBPが手に入る仕組みって事だろうか。
どうせ説明はされるだろうから、今は指示に従って『0』と青字表記された部分を指で触れる。
すると別のウィンドウが目の前に飛び出して、何やら色々な『商品』の様な名称が並んだ文字列が『メニュー表』の様な形で表示された。
例えるなら上から。
飲料2リットル 1P
食料一食分 1P
衣類上下セット 1P
の様なラインナップだ。
恐らくだがこの右側に表記されている数字は、取得したBPの消費量等では無いだろうか。
もう少し下に行けば。
回復薬 10P
異能強化1 50P
身体能力強化1 50P
エリクサー 100P
なんて商品も並んでいる。
回復薬がなんの回復を指すのか、異能強化とは、身体能力強化とはどの様な効果が表れるのか分からない事だらけだが、BPの仕組みは何となく理解できた気がした。
かなり省略して気になった箇所だけピックアップしたが、ラインナップはこれ以上にも無数にある。
中には商品名すら表示されず。
???? 5000P
なんて物も掲載されている。
「なんとなく気付いている人もいるだろうけどさぁ。つまりこのBPと言うのは、この子の様な魔物を倒せば手に入れる事が出来るポイントの事なんだよねぇ。そしてそのBPを集めて貰って、君達はそのメニューの中から好きな物を交換してもらうって訳さ」
言いながら仮面の男は、口の周りを赤く染めた巨大ウサギを撫でまわす。
「つまりテメェにダメージを喰らわすには、BPを溜めてこの『異能強化』って奴を手に入れれば良いって事か」
「んもぅ、ケヴィン君目的が吹っ飛び過ぎだよぉ。まぁ君がマイナスポイント含めて550Pも溜めれたら一考の余地はあるかも知れないよねぇ。中々大変だとは思うけどぉ」
「何が大変なんだよ」
相変わらずイラついた様な乱暴な言葉で質問を投げかけるケヴィン。
仮面の男は表情を変えず、その質問に答えを返す。
「例えばこの子、さっき君達一般人の腕を簡単に斬り割いたこの子だけどぉ、既にわかってるだろうけどこの子ですら当たり所が悪ければ君達を一瞬で狩れる殺傷能力を持ってる。だけどねぇ、この子は魔物全体で言えば所謂『スライムレベル』の雑魚なんだよね。取得できるポイントも1Pだよ」
スライムと言えば、確かにRPGで言えば序盤の魔物で弱いと言う共通認識のある魔物だろう。
その程度と言われる魔物でさえ高い殺傷能力を持つと言われれば、確かに高得点を手に入れるのは難しいと言えるが……。
「じゃぁそのウサギを550匹倒せばいいだけだろ」
「それがそう単純じゃないんだよねぇ。魔物との戦闘にはルールが有るからさぁ」
いまいち要領が掴めない。
さっさと要点を話せと聞いているだけでもイライラしてくる気がする。
「ルール?」
ケヴィンと仮面の男のやりとりを黙って聞いていた他の者達から、疑問点が口に出される。
「そうそうルール。魔物との戦闘はね、ミッション形式で戦ってもらう事になるんだ。段階を踏んで魔物の強さや数を増やしていく流れになっているからさ、例えば初日にこのウサギを550匹も倒すなんて無理なんだよ。限られた少数の魔物が至る所に配置されたフィールドに君達を飛ばして、その魔物達を全滅する事が君達に与えられる一日のミッション。このウサギは100匹も居なければ、戦うのはケヴィン君一人じゃないから550ポイント溜めるのに何日掛かるか分かんないよ」
「だとしても何れ辿り着く筈だ。何日掛かろうがテメェをぶっ殺す事が出来るんならやってやるだけだ」
「んー、もっと柔軟に考えて欲しいんだけどさぁ、例えば君が最短で十日で550ポイントをゲット出来るとしよう。言った通り段階を踏んで魔物の強さや数が増えていくから、最初よりは後日の方がポイントも稼ぎ易いから不可能じゃない。だけど、君はどうやって十日間も生き残るの?」
仮面の男の言った言葉の意味を考えた場合、魔物が段階的に強くなっていくのに勝ち残れると思っているのか。
と言う問いに聞こえない事も無い。
だがエリルは自分のウィンドウに刻まれているメニューの中に、重要な項目が存在してる事に気付く。
「……『飲食物』か」
この空間に来てからやっと二度目になる発言を言い放つエリル。
その言葉に一同の視線か此方に向いた事を感知する。
勿論ケヴィンや仮面の男からの視線も。
「そうだよ! エリルだっけ? 君も頭がいいねぇ、その通りだよ。メニューに記載されている通り、この空間での生活は全てBPに左右される事になる。人は食事を取らなきゃ動けないし水分補給しなきゃ簡単に死んじゃうよね。それを回避する為に飲食物を手に入れるしかない、そしてその飲食物を手に入れる為の手段がBP消費してそれらを手に入れる事。つまりBPはこの空間での仮想通貨なんだよ。さてケヴィン、ここまで聞いた上でもう一度聞くね? マイナス500ポイントもある影響で最低でも10日間ぐらいは満足にポイント取得が出来ない君が、食事も取らずにどうやって10日間も生き続けられるんだい?」
ぶん殴ってやりたい。
そう思うのは決してエリルだけじゃない筈だ。
少なくとも言われた張本人であるケヴィンはそう思っているだろう。
自分から500ポイントも奪ったにも関わらず、煽る様な態度で発言を続けた仮面の男。
ただここで暴力に訴えたとしても、恐らく仮面の男にダメージを与える手段を今の自分達は持っておらず、更にはケヴィンと同じ様に無駄にマイナスポイントを与えられてしまう可能性だってある。
その事実がある為に、ケヴィンの代わりに彼をぶん殴りたくても出来ない現状にあった。