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それでも出来る事

「……受け取り方ミスっとったら指がちょん切れとったやないかい」


ズシリとした手応えの有る重さを両手に感じながら、口角を軽く上げてグランへ嫌味を言い放つ。


暫くケヴィンといたせいで、礼の言葉を嫌味で返す癖が移ってしまったのだろうか。


でもその立場になって初めて分かる。


誰にも頼らずに自分の力だけでどうにかして足掻こうとしていた矢先に、それでも仲間が自分を信じて力を貸してくれた時、彼らからの信頼や自分の不甲斐無さが入り混じって言い訳の如く嫌味言が出てしまうのだ。


しかし本当に感謝している事だけは間違いない。


先の言葉だってきっとグランには聞こえていない筈だ。


「どういたしまして!!」


聞こえていた様だ。


ケヴィンの参戦で巻き返し始めた戦況だが、その矢先にジェシカが不意を突かれてしまった。


スケルトンナイトの数は確かに減り始めているが、それでもまだまだあちらの方がこちらの倍近く存在している。


ジェシカと言う、間違いなく仲間内での主戦力化している存在が倒れてしまった今、猫の手も借りたい状況で下地さえ整えれば一瞬で戦力へとなり替わる自分がここに居た。


グランはもしかすれば元からそう言った考えがあってジェシカの方へ近づいたのかもしれない。


だが結局は武器の形状を変える判断をしたのはジェシカ自身の意思の筈だ。


いずれにせよ、二人が現状で最も効率的だと思える行動を取り、それが自分へ武器を渡す事だったのだからこの期待には答えなければならない。


異能強化によってただの槍よりも遥かに殺傷能力の高そうな武器へと生まれ変わった薙刀。


勿論槍とは完全に使い勝手は違うが、それでも自分は『無形影棍流』の師範代だ。


様々な武器術を取り入れて作られたこの流派出身の者に、扱えない武器等存在しない。


突くよりも振るう事に特化した武器だが何も問題等ない。


寧ろ今回の敵であるスケルトンナイトの様に、骸骨独特の隙間だらけの体は突くよりも切る方が圧倒的に命中率が高くなる事だろう。


それをジェシカが分かっていて作り出したかどうかは不明だが、武器の選出としては大正解だと言える。


エリルは得物を容赦なく振り回した。


リーチと言う圧倒的アドバンテージが出来上がった事で、武器持ちのスケルトンナイトですらもはや遅るるに足らない。


やはり異能で作り上げられた武器は切れ味が別格なのか、スケルトンナイトの硬い骨に接触してもまるで抵抗を感じない程に刃が通っていく。


薙刀の重さは遠心力で誤魔化す。


薙刀自身のその重ささえも利用して攻撃力に変換する。


頭上から頭蓋骨を叩き割り、肋骨を縦に切り裂く。


向う脛を正面から切り上げながらスケルトンとすれ違い、振り向き様に背骨を切り裂く。


身体強化を得ていない事から高速で行使は出来ないが、多少隙が出来たとしてもケヴィンがフォローしてくれている。


何より攻撃範囲が広い為に、スケルトンナイトが接近する前に体勢を立て直す事が出来る。


ここへ辿り着いた時は四方八方から攻め込んでいた仲間達だったが、気づけば互いの距離は徐々に接近していた。


大きく広がっていた魔物達の頭数が減り、こちらと同等の数まで減って来た事で戦いの範囲が狭まったのだ。


エリルは最後に対峙したスケルトンナイトへ薙刀を振り下ろした。


悲鳴を上げる事も無く、しかし骨同士がぶつかる音を立てながらスケルトンナイトは崩れ落ちていった。


逆転だ。


情勢は完全に覆った。


役に立った……そう言っても良いのだろうか。


「ジェシカ、大丈夫かいな」


木陰に避難していたジェシカの元へエリルは駆け寄った。


胸部から腰辺りに掛けて広く傷跡が残っているが、幸いにも出血は止まっている様だ。


「うん。ごめんなさい……ミスっちゃいました」


「謝る事やあらへん。俺もあんさんが身体強化を取ってからほったらかしにしてもうたからな。ちゃんと立ち回りも確認するべきやったわ」


と、自分の反省点を彼女に述べるが、ジェシカは複雑そうな顔を見せながら軽く俯いていた。


どちらにせよ、言葉が発せられるのなら一先ずは安心だろう。


ファミリーハウスに戻れば傷だって治る。


それなら今暫くは彼女の代わりに自分が戦っていても問題ない筈だ。


「もう少しこれ借りててもええか? まだごっつい敵が残ってんねん」


言いながらエリルは後ろへと振り返る。


スケルトンナイト達の奥には、全長3メートル程の大きな人骨がファルシオンと言う短刀の巨大バージョンの様な武器を持ち、いっちょ前に丸盾と角の付いた兜を被った格好で存在してた。


あれが間違いなく今回のボスであろうスケルトンジェネラルの筈だ。


身体強化も持っていない自分が太刀打ちできるかどうかは分からないが、やらないよりはマシだと考えている。


しかしそれをするには彼女からこのまま薙刀を借りられる事が絶対条件だ。


「大丈夫です……お願いします」


「分かった」


許可は得た。


そしてそのタイミングでスケルトンナイトの最後の一匹が、ケヴィンの放った雷撃によって倒れこんだ。


途端にスケルトンナイトの群れの奥を陣取っていたスケルトンジェネラルが動き出し、大きく口を開けて空高く何かを叫んでいる仕草を見せた。


もしかすればそれがスケルトンジェネラルなりの『咆哮』だったのかもしれないが、声を発生させる構造が存在していない為か、奥歯がこすれ合う事でカラカラと言った音が鳴り響いてるだけである。


しかしその重圧だけは本物で、スケルトンジェネラルが一歩踏み出した瞬間に周囲の大地が震える。


あれ程の重そうな己の骨組みと武器を軽々と振り回している様を見て、筋肉が無くてもそれが出来るのなら声帯が無くても声を発しろよ等と言う意味不明な突っ込みを、エリルは心の中で思い浮かべるのであった。


「警戒しろ! さっきまでと同じだと思うな! 危険だと思ったらすぐに下がるんだ!」


先頭に躍り出たシアンが叫ぶ。


率先して己が一番危険なポジションへと向かう彼を尊敬しながらも、いつでもフォロー出来る様に彼の言った通り警戒を行うエリル。


自分は他の者達と違って強化がされていない生身の人間だ。


軽く触れただけでも致命傷を負う事となるだろう。


だがそれでも……自分が出来る事をやるまでだ。

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