何か
「ジェシカ!!」
エリル達が辿り着いた方面の反対側からネイサンが叫ぶ声が聞こえる。
戦いの合間に視線を向けた時、倒れこんでいるジェシカと彼女の前に立ちはだかり地面へ大穴を開けているネイサンの姿が見えた。
彼女の横には、一見女性が扱える筈の無い大きな金棒が転がっている。
律儀にエリルの言った戦い方を模していたのか、身体強化が有ると言えどあのサイズを振り回すにはかなりの力が必要になるだろう。
異能強化によって武器召喚のリソースが増えた事で、エリルが確認した時のそれよりも遥かに大きなサイズになっている事からジェシカが相当無理をしていた事が伺える。
ネイサンと一緒だから大丈夫だろうと甘い考えを持っていた自分の判断に後悔するエリル。
視界の端で彼らの元に駆け寄るグランが見えた。
軽く飛び跳ねながら、まるでハンドボール選手の様な投球フォームで目前のスケルトンナイトへと鉄球を喰らわせる様を見て、誰もがグランの様に器用に応用出来る訳でない事を余計に痛感させられる。
とにかく彼がフォローするのであれば、ジェシカが死んでいない限り一旦は安全が確保されるだろうと信じ、殆ど力になれていない状況だが目の前の魔物を討伐する事に注力する。
ケヴィンがトドメを差したスケルトンナイトからこぼれ落ちたサーベルの中から、見た目だけはしっかりと形状を保っているそれを持ち上げる。
魔物が扱っている武器ならば、もしかしたら木の棒よりも使えるのでは無いかと思った為だ。
しかし。
「……なんやねん」
思わず卑下するエリル。
彼が手に持った瞬間、先程までしっかりと形状を保っていたにも関わらず、そのサーベルはボロボロに崩れ落ちていった。
「……『魔力付与』だ」
その光景を見ていたのか、ケヴィンが魔法を放ちながら口を開く。
「なんやて?」
「魔力付与。俺達の世界では人間も魔物も武器を扱う際には己の体内に存在する『魔力』と呼ばれる物を得物に付与して戦っていた。魔力付与の恩恵は主に武器の硬度を遥かに上げる物だ。魔力付与が出来れば鈍刀でも鋼鉄を切り替える程に硬く出来る。……恐らくこのスケルトンナイト共も、ボロボロなサーベルを魔力付与によって固めて使っていたんだろうな」
そのスケルトンナイト自身が絶命した事によって魔力付与とやらが途切れ、エリルが拾い上げた時にはなまくらと称す事も烏滸がましい程に朽ちていった……そう言う事なのだろうか。
「にしてもそれ程ボロボロなのは俺も初めて見たが……徹底して自分の能力以外では戦わせない意思の様な物を感じるな」
「ほんまやってられへんわ」
地団駄を踏んでも状況は変わらない。
今すぐにでもこのスケルトン軍団を蹴散らしてジェシカの安否を確認しに行きたいが、それをする力が自分には無い。
「くそったれやなぁ……」
自分の不甲斐なさにイライラが積もり始める。
魔物の隙を作る。
そんなもの、ケヴィンであれば自分が居なくとも一人で出来る事だ。
寧ろ隙なんてなくとも一方的に狩りつくす事が出来るだろう。
「はぁ!!」
三体のスケルトンナイトを同時に吹き飛ばしているのはシアンだ。
ケヴィンやグランと同じく、身体強化と異能強化両方の保持者である彼は、ここから見ても単騎無双の強さを見せている。
自分はこの状況で役に立っているのか?
必要とされていないのでは無いか?
……それらは事実だろう。
確実に自分は今この場で一番必要ない。
お情けでケヴィンが拾ってくれたが、本来なら彼も一人で行動していた方が明らかに狩り効率も上がっていた事だろう。
恐らく先日彼が倒れた時に助けた事で、必要のない恩義を感じている事でケヴィンは助けてくれているのだろうが、それが無ければ今この様に共に戦ってくれる事等無かった筈だ。
……力が欲しい。
せめて彼らの役に立てる程度の力が。
100倍を示す意味を少しでも良いから知りたい。
一体のスケルトンが空中に浮き上がる。
その謎の現象を目の当たりにしながら、それを『行使している人物』へと視線を向ける。
元シアンチームの最後の一人、『念力』と言う異能を与えられた『マーロン・フィラデル』が発動している力だ。
対象を『念動力』によって動かす力を持つ異能で、『落下』の異能を持つネイサンとの相性が非常に良い。
彼が浮かせてネイサンが落下させる事で効率的に魔物を狩る事が可能だからだ。
赤黒い肌を持つ短い黒髪の男性で、年齢は30前後だろうか。
身長は160程と小さいが、それでも流々とした筋肉が目立つ。
太い鼻と唇が特徴的で、クリクリとした丸い目を持つ。
何かグラップリング系統の格闘技をやっていたのだろうか、耳が腫れているのもまた特徴的だ。
彼の様に名称からも分かりやすい異能を自分も手に入れていればと何度願った事だろうか。
隣の芝生は青く見えると言うが、異能の使えない自分からすればそれらが使えるだけで羨ましくも思ってしまう程だ。
あれほど敵対していたライアンだって、慣れない動きで拳を振るっている。
怯えながらもその後ろでカーラも必死になって戦っている。
何か……何か出来ないか。
自分にも……簡単な事で良いから何かが……。
そう思っていた時であった。
「エリル! 七時の方向!! 少し上だ!!」
グランの叫び声が届く。
ほぼ反射的だった。
今自分が向いている方向から、グランの指示通り七時の方向、少し上辺りに腕を振り上げる。
そして風切り音と共に飛んできた『それ』を自然と掴み、急接近してきたスケルトンへと力強く振り下ろした。
形状や槍に非常に似ているが、先端に取り付けられた刃は刀の様に反りあがっている。
エリルが手に持ったそれは、グランがやり投げの要領で投げた武器は、『薙刀』と呼ばれる日本由来の武器であった。
この瞬間、ジェシカの生存が確認できたと共に、今この場限りではあるがエリルが『役に立てる』条件が整った。




