ポイントの手に入れ方
「ライアンはそれを良く理解してるから今の状況で何も手出ししてこねぇんだよ。いや、出来ねぇって言った方が正しいかもな。聞けばライアンはさっきのミッションをシアンとチームを組んで攻略していた時、我先にとやたらと暴れていたみたいだが、シアンの言う事だけはちゃんと聞いてたって言うじゃねぇか。自分の権力が及ばない世界で、腕力が全てとも言える世界に来てしまった時、自分達の常識で物事を図るのは止めろ。いつまでも他人に頼ってねぇで、テメェ自身の力で生き残れる様にとっととこの世界に順応していかなければ、次に死ぬのはテメェだぞ」
「うぅ……」
ケヴィンは特に圧を掛けた訳でも、脅し文句を言った訳でも無い。
淡々と事実のみを述べ、現実を彼に叩きつけただけである。
それを彼がここで理解して行動を改めるか、この忠告を受け入れずに暴走を続けるかで彼の未来は変わるだろう。
男から暴れそうな気配が消えた為か、シアンはゆっくりと拘束を解く。
案の定、彼はもう抵抗する素振りすら見せず、シアンに絡み取られた腕を摩りながらゆっくりと立ち上がり、居心地悪そうに地面へと視線を向けていた。
「ライアン、見ての通り少なからずあんたを慕う者達は存在するし、あんたの現世での権力にあやかろうと擦り寄る人も居る。そしてあんた自身その境遇を利用して多少なりともここでの影響力を掴もうと躍起になっているのも分かっている。俺はあんたのそのやり方を理解しようとは思わない。だが同時に否定するつもりも無いんだ。俺達が纏まる為には、多少なりともそう言った意味での『強い立場』と言う者が必要になる時だってあると思っていたからな」
ファミリーハウスにシアンの声が響き渡る。
元々通りやすい耳心地の良い声である事も相まって、全員に彼の言葉が届いている事だろう。
「ただ、これからもそれを続けるつもりならそれによって起こる問題にもしっかりと責任を持ってくれ。俺達はもう他人では済まされない関係性なんだ。いつ終わるかも分からないこの戦いを、一緒に生き残り続けなければならない仲間なんだ。そんな俺達がいつまでも下らない事で争っていたら一生纏まる事が無いんだ。俺のやり方に問題があるなら見直すし、何か要望が有るなら出来る限り聞く。だから……今後も生き残りたいならあんたも……お前らも俺に協力してくれ。いや……協力『しろ』」
そしてシアンははっきりと命令口調で言葉を投げかけた。
十分に優しい言葉で、それこそ甘さの目立つ言い回しだが、だとしても命令口調に変えた事で要望する立場では無くこちら側が『譲歩』する立場である事を明確化させたのだ。
タイミングを見計らっていたのだろうか。
それとも自分では冷静を謳っているつもりでとっくに堪忍袋の緒が切れていたのか。
何れにせよ……リーダーらしくなったのは言うまでもない。
「……分かった」
これにはさすがのライアンも頷くしか無いだろう。
その命令には拒否が許されない圧力が存在している様にも思える。
恐らくだがケヴィンが言い放った『腕力が物を言う世界』と言う、正に現状を揶揄した言葉によって互いの勢力図を顧みる事にしたのだろう。
先のミッションも含めれば、身体強化や異能強化を入手した者達の合計は九人となった。
最初にそれらを手に入れたシアン、ケヴィン、グラン、ライアン、ジェシカを始め、現在は元シアンチームも全員どちらかの強化を入手している。
この合計九人のうち、元非戦闘組と言う所謂『ライアン派』に属している者はライアンだけなのだ。
その他の八人は、迷惑に己の立場を宣言した訳では無いのだが、それでも少なからず全員が『シアン寄り』の立場である事が示唆されている。
勢力図に明らかな偏りがある状態で、逆らえる状況にないと言う事も理由にあるのだろう。
その上で改めてシアンによってこの非現実的な日常が遊びじゃない事を突き付けられ、現状としては彼に従う事が生き残る為に必要な手段であることも理解し始めている状況と言う事だ。
「そう言えば、仲間内での暴力沙汰には何かしらのペナルティが発生するだなんだ言っておらんかったか?」
リアムが思い出したかの様に、先日ロキが発言していた言葉の一部を発する。
「……そうか、今のも暴力判定になるかもしれないな。何か俺自身に変化があった様には見えないが……ペナルティが何を差しているのか分からない以上油断は禁物だな……」
言いながらシアンは体の様子を確かめる様に、獅子を動かしながら怪訝な表情を見せる。
そんなシアンの目前に、突如システムボードが出現した。
シアンが自ら出した訳では無いため、恐らくそれはシステムメッセージが表示されたと捉えるべきだろう。
つまり、シアンに何かしらのペナルティが発生した……と考えるべきか。
「……ん?」
しかしシアンは、恐る恐るそのシステムメッセージに目を通した所、突然不思議そうなを見せた。
「なんや。ペナルティ言うても軽いもんやったんか? まぁさっきのやり取りは明らかに『正当防衛』みたいなもんやったしな。あんなんで思いペナルティ与えられてたらたまらんで」
実際に暴力を振るってきたのは、ケヴィンに襲い掛かった男側だ。
シアンはただそれを制圧しただけに過ぎない。
そんな状況でシアンがペナルティを受けてしまうのであれば、暴力に関しては無条件で受け入れろと言っている様なものである。
「……いや……逆だ。良く分からないが、何故かBPが『1』ポイント増えている……」
「なんでやねん」
反射的にエリルは素で突っ込みを入れてしまった。
軽いペナルティ……いや、ポイントが付与されているのだからペナルティとすら言えない状況を示すその状況は、理解の範疇を越える。
ポイントが付与される事がペナルティだったとしたら、それはもはや殴り損ではなく殴り得なんて言う意味の分からない言葉が生まれてしまう程の事だ。
「……普通に考えれば、その場合『こいつ』がペナルティを喰らってるんじゃねぇのか? つまりシアンは『被害者』判定されたって事だ」
そうケヴィンが言い放った事で、俯いていた男へと一同の視線が集中する。
「うぇ!? まじかよ……そんなぁ……」
へなへなと言った感じで、力が抜けた様にその場へと座り込む男性。
彼の目の前にはケヴィンの予想通りシステムメッセージが表示されている。
勝手に見て悪い気もするが、彼が座り込んだ事によって彼のシステムボードがこちら側に露わになった。
『暴力行為を検知しました。ペナルティを与えます。BP10を消費し、被害者へ1ポイントを譲渡します』
男は先のミッションで丁度10ポイントを手に入れていたのか、BPの項目が綺麗に0表記されていた。
やはりケヴィンの予想通り、シアンのあの行動は正当防衛として認められたらしい。
このデスゲームでのペナルティと考えれば、ある意味で『軽い』とも捉えられるかもしれないが、今の状況での『10ポイント』は正直痛すぎるとも言える。
その程度のポイント等簡単に稼げる上位勢には大したこと無いかもしれないが、必死こいて手に入れたであろう彼に取っては相当な痛手な筈だ。
彼は恐らくそのポイントをまだ食事券等に変えていなかったのだろう。
要するに本日分の食料も水も、先程の行為によって無しになってしまった訳だ。
「あーらら。ドンマイとしか言い様がねぇな。いや自業自得と言っとくべきか?」
軽く笑いながら、それでも尚煽るケヴィン。
「ケヴィンもそこまで言ってやるな。確かに暴力行為は許された事じゃないが、この程度で済んで良かったと考えるべきだな。一食分しか渡せない決まりがある以上一枚しか食事券は渡せないが、今日はそれで我慢しろ」
言いながら、甘ちゃんなシアンはシステムボードを起動して男から譲渡されたポイントで食事券を手に入れ様とするが、不意にそれをグランが止めた。
「……ちょっと考えがある」
グランはそのままシアンに耳打ちを行い、それを聞いていたであろうシアンがこちらへと視線を向けてきた。
何となくだが、その仕草によってグランがシアンへと提案した事が分かる気がした。
ある意味で。
今回のこの一連の問題は、エリルに理由があるとも言える。
エリル自身がそう思っているだけで、シアンの周りの人物は全くそんな風に思っていないかもしれないが、エリルが異能さえ満足に発揮できていれば起こらなかった問題だとも言えなくもない。
実際に男が突っかかってきたのも、無理やりにエリルへと因縁を付けてきた事が切っ掛けだ。
だから今はその状況を『逆に利用して』……エリルはとある行動に出る。
「ほれ、今日の分の食事券と飲料水や。大事に味わうんやで」
言いながら、エリルは食事券と500ミリペットボトル四本を呆けている彼の前へと置く。
自分が突っかかった相手からまさかの施しを受けるという状況。
ジェシカのおかげでまだ暫くは自分の食事に関しては余裕のあるエリルは、白羽の矢が立っている今の状況を利用して敢えての行動に出たのである。
ここでエリルに食事を恵まれた事によって、彼は今後エリルへ文句を言いづらい立場に立たされる。
「……」
一瞬何とも言えない表情でこちらを見上げてきた男は、これまた何とも言えない表情のまま再び顔を下げるのであった。
これでいいんだろう?
そう言う意味を含みながら、エリルはシアンへと視線を送る。
シアンと彼の隣にいるグランはこちらに対してゆっくりと頷き、その行動がグランの考えのままであった事の確認が取れたのであった。
それにしても……暴力行為を行う事で10Pを犠牲に1Pが譲渡出来る仕組みが作られているとは。
これを利用して、自分もポイントを……いや、身体強化を入手する為の50ポイントを手に入れるには、他の人が500ポイントも犠牲にしなければならない状況だ。
この案は無しだなと、エリルは頭の中で整理していたのであった。
――――……。




