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異能

「おやぁ? 君達は開かないのぉ?」


エリルは周囲の行動があまりにも一般常識から逸脱している様に見えていた為、微動だにせずその場に立ち尽くしてしまっていた。


自分と同じ様にステータス画面を開いていない人物が『二人』程存在した。


一人は先程女性の応急手当を実施した紫色の髪の男、そしてもう一人は我関せずを貫き通している様に見える、人々の輪から更に離れた位置で腕を組みながら状況を黙って見つめていた男だ。


茶髪に覆われた端正な顔は、鷹の目の様に鋭い瞳を宿している為に此方を睨みつけている様にも見えた。


「話が進まないからさぁ、君達もさっさとステータス開いてよぉ」


「……ステータス」


渋々、といった感じで紫髪の男がステータスボードの様な物を開く。


やはり彼も周囲の異常な行動に圧倒されてしまったのだろうか。


何せ先程まで腕を失って恐怖に震えていた女性でさえも、目の前に出現しているその半透明の板に目線を奪われている程だ。


「ちっ、ステータス」


腕を組んでいた茶髪の男も、イラつきを見せながらステータスの表示される板を開いた。


ここは流れに身を任せるべきかと判断したエリルも、呟く様にステータスと発言する。


やはり他の者達の目の前に現れた半透明の『システムウィンドウ』の様な物が姿を現した。


そこへ簡易的な自分の情報が刻まれていた為、エリルは軽く目を通した。



エリル・エトワール

17歳 男性

血液型 AB

技能 無形影棍流(槍術)

異能 100倍

BP 0



簡易的な自分の情報と言えどそれらに一切の間違いは存在せず、どうやって調べたのか年齢や血液型、挙句の果てには自らが修めている武術に関しても記載されていた。


だがその中で一つだけ見慣れない、と言うよりも訳の分からない項目が『二つ』存在している。


黒みがかったウィンドウに殆どの項目は白文字で記載されているのだが、その中で一番最後にある『BP』と言う項目の『0』表記だけが青い文字で記載されていた。


BPの意味も分からないが、それ以上に意味不明なのは『異能』だ。


恐らく話の流れ的にこの異能の項目表記されている『100倍』と言うのが、この仮面の男が『与えた』と発言していた能力の事なのだろう。


にしても100倍……何を100倍にするんだ?


「よぉし、じゃぁ早速だけどさぁ、皆ステータス表示の中にある『異能』って項目の所に注目してよ。そこに君達が与えられた力が記載されているからさぁ。例えば――」


「うわっ!!」

「な、何!?」


仮面の男が言葉を連ねている最中である。


突然男の顔の側面が『爆発』したかと思えば、顔面が炎に包まれ炎症を起こし始めた。


あまりにも突然の出来事によって一部始終を見ていた者達でさえ意味が分かっておらず、驚きの声をあげていた。


ただ、エリルは一人の人物に視線を送る。


「……」


難しい表情を見せながらも、左手を伸ばしたまま静かに制止している茶髪の男をエリルは見つめていた。


エリルには見えていたのである。


彼の方向から炎の玉の様な物が真っ直ぐに仮面の男に向かっていった様子が。


彼が何の目的でその様な行動を取ったのかは定かでは無い。


ただ恐らくその炎の玉こそが彼に与えられた異能の一部であり、この様な意味の分からない状況にイラついて仮面の男にそれをブツけた。


と言うのが一連の流れだろうか。


何故その様な素っ頓狂な推論をエリルがしたかと言えば、正直それが事実であったのならエリルからしたら分からんでもないからである。


いきなり意味不明な空間へと呼び出され、意味不明な説明を並べ立てて魔物と戦えと言われても、はいそうですかと素直に従う気持ちにはなれない。


だとすれば憂さ晴らしの一つでもしてやろうと思いはするものの、槍でもあれば別だが今のエリルにそれを出来るだけの力は無かった。


明らかに人間とは思えない風貌と力を持っていそうな仮面の男に、突然殴りかかると言った行動は取れずに居た中で、茶髪の男はそれが出来るかもしれない力を持っている事に気付いた。


一泡吹かそうとしたのか、それとも倒せる見込みがあったのか、兎に角一撃でも何か入れてやらなければ気が済まないと言った状態で、己に与えられた異能を行使したと言う状況なのだろう。


エリルは視線を仮面の男へと戻す。


視線を戻す最中に一瞬紫髪の男と視線が合うが、あまり気にせず頭から煙を出している男の動きを待った。


何故だろうか。


何となくだが茶髪の男が放った程度の炎では、この仮面の男は死なないのだろうと直感で分かった為、どうせ死んでいないのだろうと黙って見守る。


「そうそうこんな風に炎が出せたり、体を固くして魔物の攻撃を耐えたり、仲間を回復する様な異能が君達には備わっているんだ。わざわざ説明の時間を減らしてくれてありがとねぇ君ぃ」


やはりと言うべきか、頭部を黒焦げにしたかと思えば首をブンブンと横へ振るうだけで見事に元通りとなる仮面の男。


何事も無かったかの様に自然な素振りで説明をし始めていた。


「なんだよ。結局テメェが無傷なら俺の能力は大したもんじゃねぇって事か」


茶髪の男は機嫌悪そうに文句を言い放つ。


仮面の男が重症でも負えば満足だったのだろうか。


「そんな事無いよぉ『ケヴィン』君。君の異能は『エレメント』って記載されてるよね? 自然の力を味方に出来るかなりレアな能力だよ。にしても異能の名前から良く炎が扱えるって連想出来たね。君は大分賢いのかなぁ。後僕に効かないのは仕方ないよ。『今』はレベルが足りてないから僕に傷つける事は出来ないってだけさ」


『今』は出来ない……つまりその『レベル』とやらを上げればこいつにダメージを与える事が出来るのか?


……もし自分のこの100倍が他人の異能の力を100倍化させる物だったら、どうなる?


「んー、でもねぇ……効かないとは言ってもやっぱりちょっと痛かったからさぁ、ちょっとムカついたよねぇ。君はレアな異能を引いたから頑張って欲しいんだけど、僕に反抗的なのは許せないなぁ。だから残念だけど君にはペナルティを付与するよ」


えいっ。


と言いながら仮面の男は指を振るった後に『ケヴィン』と呼ばれた男を指差す。


何やら黒い光の様な物がケヴィンに纏わりついたかと思ったが、それを受けたケヴィンは体の調子を確認したものの、何事も無かった為か訝し気に仮面の男を睨み返す。


「君は貴重な戦力になりそうだからねぇ、ペナルティって言っても軽い物にしといたよ! ステータスウィンドウを見てみな」


ケヴィンはしかめっ面を見せながらも、渋々指示通りに視線を落とす。


「……何だよ、BP『-500』ってのは」


どうやらケヴィンのウィンドウには、0と記載されていた筈のBPの項目にマイナスポイントが付与されたらしい。

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