やがて追い付けなくなる
「……それはほんまにすまんと思っとる。俺もビビり腐って何もしてへん訳とちゃうねん。力になりたくても出来へんねん、分からへんねん自分の異能が。せやからもう少し待ってくれ……何とか出来る様に頑張るさかい」
「口だけでは何とでも言えるだろ! 頑張るって言うだけなら誰でも言える事だ! 結果を出せよ結果を! 世の中結果が全てだろ!?」
ならお前はどうなんだ。
喉元まで出てきた言葉をエリルは飲み込む。
この状況での言い争いなんて無駄に時間が食うだけだ。
それにこれから協力していかなければならない状態で、こんな事で仲違いしている暇などない。
「結果なら出してると思いますけどね。少なくとも俺はエリルさんには助けられましたから」
そう口にするのはディムだ。
「あぁ、彼の今までの戦いを見てない奴がとやかく言うべきではなかろうよ」
続いてリアムもこちらを擁護する発言を行う。
非常に有難い言葉だが、結局それはこれまでの自分を『見て来た者』の台詞なのだ。
今後、異能がずっと発揮出来ずに戦いに一切参加出来ない状況が続くと仮定すれば、この元非戦闘組の面々……つまり仲間内の『三分の二』と言う過半数以上の者達はエリルの活躍を見る事は無いのだ。
いくら彼らがあの時は凄かったとか、これだけ彼は活躍した等語ったとしても、先程の男性が叫んだことの様に『結果が全て』なのだ。
むしろそれらの発言はただエリルの過去に縋っているだけに過ぎない言動だ。
確かに功績とはつい最近の出来事だ。
ディムが言った様に、自分が居なければ失われていた命が有るかもしれないと言う自負はある。
だとしても今後このまま何も出来ない存在で居続けるのであれば、それは結果として戦力外と言っても過言では無い。
魔物はこれからもどんどん強くなっていく事だろう。
ロキが何故この様なデスゲームを行っているか理由は定かでは無いが、何れにせよ段階的に魔物は強くなっていき、それに伴ってこちらも強くなっていく必要がある。
ただ一般人と比べれば身体能力が高い方。
今のエリルを敢えて評価するのならその程度に落ち着く。
しかしそんなもの、ここにいる全員が身体強化を手に入れさえすればなんの意味もない評価となる。
それどころか一番の足手纏いだ。
今から自分の力だけで魔物を倒せる程に強くなる鍛錬を行うと言う手も有るだろう。
もしかしたら、長い時間を掛ければクロウラビット程度なら異能を使わずとも倒せる様になるかもしれない。
だがそんなものじゃ何の足しにもならない。
何故かと言えば、今回身体強化や異能強化を手に入れた者達から聞いたのだ。
BPを消費して手に入るそれらの品は、一度だけ入手出来る使いきりの商品であると言う事。
つまり再び50ポイントを手に入れたからと言って、更に身体強化が出来る訳では無い。
しかし、それらを手に入れた事で『更新』された商品が、その者達のシステムボードに表示される様になったのだと言う。
『身体強化2』……そして『異能強化2』……。
いずれも次は『500ポイント』も掛かる高額商品なのだが、恐らくそれを購入すれば今回の強化よりもさらに高い効果が齎される事が予想される。
要するに、エリルが今更鍛練を行っても最初の強化で彼らが強くなった伸び幅にすら追いつける保証は無く、仮に追いつけたところで回りは更に爆発的な力の伸びを見せる状況にあると言う事。
いつクロウラビットと正面きって戦える様になるのかも不明な上、ただの予想でしか無いが今後魔物が強くなっていけばこう言った最下級の魔物は出現しなくなるのではないかとエリルは思っている。
テレビゲームではよくある展開だ。
最初の町周辺に出てきた魔物が、中盤以降では全く出現しなくなるあの現象だ。
エリルは異能の効果が発見できない限り……『詰んでいる』状況なのだ。
「じゃあ今その力見せなさいよ! 本当にそうやって活躍出来るならなんで今やらないのよ! なんで私達を見殺しにしたのよ!」
「見殺しにしたと言うんだったら、それは俺にも責任が有ると言った筈だ。そこでエリルを責めるのはお門違いにも程がある」
「はい、それにその言い方はあからさまな責任転嫁ですね。エリルさんが見殺しにした? 馬鹿な事を。仮に見殺しにした事が事実だったとしましょう。だとそれは、それは私達にも言える事でしょう。そう、貴女も、貴方も。聞き返させてもらいますね? 何故貴女は先程の彼を見殺しにしたんですか?」
グランの言葉にディムが追撃を行うが、はっきり言ってこの状況はまずい。
先日ケヴィンがライアンを煽りに煽っていた時は気にならなかったが、本来協力しなければならない立場の者達がこの様にいがみ合い続けているのは本当に問題だ。
自分が戦えない存在となってしまったからそう言う考えが出て来る様になったのかもしれないが、事実として今後も仲間割れをし続けて生き残れる保証なんて無い。
「何よ偉そうに! あんた達が戦うサポートをするって言ったから私達も嫌々戦ったんでしょ! サポートが有るって信じてたからさっきの人だって多少無理したんでしょ! 結局はそれが原因じゃない! それが有ったから、あんた達が守ってくれるって思ったから死んじゃったんじゃない!」
「だからそれが責任転嫁だと言っておるのだ。確かに責任の比率はこちら側に有るやもしれん。だが……最後尾のグランさんの声は、最前列の俺達にまで届いておった。それを無視したは彼奴だ……そしてグランさん以外全員彼奴を止めなかったのだから、皆の責任だと言っておるのだ」
「皆自分の事で必死だったろうが! 少し戦えるお前らがちゃんと責任を持つべきだろ!? 俺達を勝手に頭数に数えるんじゃねぇ! 俺達は『仕方なし』にやってるだけだろうが!」
「いい加減に……」
「やめえや……皆」
前に乗り出そうとしたグランの肩に手を置いて静止させ、エリルが口を開く。
「俺が悪かった……俺が戦えへんばかりにほんまに迷惑を掛けた。俺が全部悪いねん、せやからあんたら仲間同士で争わんといてくれ……もうこれ以上迷惑掛けへん様に俺はこのチームから離れるさかい……役立たずの戯言と思ってくれたってええから、あんたらはちゃんと協力して……生き残ってくれ。ほんまにすまんかった」
言いながら、エリルは頭を下げる。
「エリルさん……そんな事しなくても――」
「いや、こうするべきやねん。俺が責任を負うべきやねん」
ディムの擁護を遮ってエリルは言葉を連ねた。
このまま彼らが争い続ける状況は絶対に阻止しなければならない。
やっとの事で四日目にして全員が戦闘に参加する意思を見せ始めた矢先に、死傷者が発生して責任の押し付け合いが関係悪化を助長させる。
それは避けなければならない。
仲間の為に、チームの為に。
いや、エリルが『生き残ってほしい』と思う者達の為に。
自分が犠牲になる事でそれが叶うのなら、喜んで自分の身を捧げよう。
「いつまでも元凶の俺がおったらうざったいやろ。今すぐにここから去るから、皆は頑張って協力して……このミッションを生き残ってくれ」
「あんたに言われたくなんかないわよ!」
フン!
とでも言いたげな表情でそっぽを向きながら、その女性は下がっていく。
上手くヘイトを集められただろうか。
最悪な事態は避けられただろうか。
「……エリル……」
「グラン、後は頼んだで。すまんな、全部押し付ける事になってしもうて。俺が役に立たへんばっかりに」
「そんな事言うんじゃない……俺は……」
「ええねん。あんたらの気持ちは分かっとる、ディムもリアムもあんがとな。俺の事は気にせんでええ、何とか生き残ってみせたんねん。逃げ足はアホみたいに早いねんで俺」
その言葉に、悲しそうに俯くディムとリアム。
彼らも分かっているのだろう。
今仲間割れしている場合ではないと。
非戦闘組であった彼等も、長い目で見れば貴重な戦力になる事を本当は彼等も気づいているのだ。
感情のまま動いて行くだけではダメなのだ。
時にはその感情を押し殺す必要があり、犠牲になる存在も必要だ。
そしてその犠牲になる役目が自分だっただけだ。
「ほな……また後でな」
「……生き残れよ……エリル」
「任せとき」
エリルは彼らの元から離れる。
誰も付いて来ない事で彼等が薄情者だなんて思わない。
これはそうする必要が有るから、誰も引き連れずにこの場から去るのだ。
ここで誰かが付いてきてしまえばエリルの行動は全く意味のない物になるのだ。
今後のエリルの目的は二つ。
必ず生き残る事。
そして……己の異能を解明する事だ。
――――……。




