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ロキ

少しだけ俯き気味になっていたエリルは、ふと周りを見渡す。


仮面の男が質問を待っている状態で、何故こうも回りが妙に『静か』なのか気になったからだ。


普通この様な場面ではやたらとざわつく筈だろう。


何を言うべきか、何を問いかけるべきか。


それこそライアンの様な人物が我先にと知りたい事を問いかけるに違いないとさえ思っていた。


しかしエリルが見渡してみれば、何故か一同は揃いも揃って『ある一人の人物』へと視線を向けていた。


エリルも彼らに習ってその視線を辿ってみれば、そこには『シアン』の姿が有ったのだ。


そうか、成程。


先程戦う者達と戦わない者達の中でそれぞれで連帯感の様な物が出来上がっていると感じていたが、それ以上にこの30人のメンバーの中には自動的に『リーダー』はこの人物だと決まっている素振りも確かに有ったのだ。


このゲームが始まってから最初から最後まで常に全員が生き残れる様に、苦労しない様に立ち回っていたシアンこそが誰もが質問するに相応しい人物だと認められていたと言う事だろう。


後は恐らく、自分が質問を投げかける事自体が『怖い』と感じている者も居るのかもしれないが。


シアンはそっと口を開く。


周囲からの視線で自分がそうすべきだと理解しているのだろう。


「それなら一つ目の質問だ……『あんたは何者だ』?」


……それが有ったか。


シンプルだが一つの質問から多くの情報を手に入れる為のベストな質問事項。


エリルはシアンの地頭の良さに感心さえもした程だった。


馬鹿だったからシンプル過ぎる質問が出た可能性も有るが。


……無いか。


「僕ぅ? あぁそっかぁ! 僕ってば自己紹介すらしてなかったんだよねぇ? そうだよねぇ、僕が何者か気になるよねぇ。まぁ普通には簡単には教えられないってのもあるけどぉ……でもそれくらないならいいかなぁ」


後は彼が答えてくれるかどうかだ。


この様な簡単な質問でさえも『答えられない』なんて言われ様ものなら、次からの質問はしっかりと吟味しなくてはならなくなるだろう。


頼むからその程度は答えてくれとエリルは願うのであった。


「いいよねぇ? いっか! 教えてあげるよぉ。僕の名前はねぇ……『ロキ』って言うんだぁ。知ってるかなぁ? 知らない人もいるよねぇきっとぉ」


「ロキ……? あんた……『神』なんか?」


「おぉ凄い! エリルぅ、君は物知りみたいだねぇ。あ、しまった! これじゃぁ認めてるようなもんだよねぇ、質問一回に一個までって決めてたのにぃ。まぁこれはサービスって事にしとくよぉ。エリルの言った通り僕は『神』の一人だよぉ。地球出身じゃない人は知らないかもねぇ」


エリルも実際本当にこのロキと言う存在を知っていた訳では無い。


その名を知っているだけであり、『神話』に登場する存在と言う認識しかない。


地球には様々な神話が存在しており、地方によって色々な神の名がある。


この『ロキ』と名乗った人物の名は、所謂『北欧神話』と呼ばれる物語に登場する存在だ。


通称『閉ざす者』や『終わらせる者』と揶揄され、確か『ラグナロク』を起こした張本人だった筈だ。


歴史学者でも歴史オタクでも無いエリルにとっては、その程度の知識でしか彼を知らなかった。


もはや何でも有りかと思ってしまうが、だとしても彼が本当にその神話上の神である『ロキ』なら、色々と辻褄が合うだろう。


明らかに非科学的要素の詰め合わせの様なこのファンタジー世界に、現世で死んだ筈の自分達を集めて普段は使えない筈の異能とやらを与えて魔物と戦わせる。


この様なデスゲームを作り上げる様な存在がただの人間である筈は無く、だとすればまだ『神』だと言われた方が納得行くと言うものだ。


ロキと名乗った彼が本当に自分の認識しているロキであり、その上で本当に神かどうか等はさておき、それでも異次元な力を持っている事だけは間違いないだろう。


先程、恐らく身体強化を手に入れたであろうライアンを糸もたやすく退けた場面を見れば、それだけでもこのロキと名乗った男が途轍もない力を持っている事も頷ける。


ライアンに腕を引き剥がされた時、あの脆弱な体付きからはとてもでは無いが想像出来ない程の腕力を感じた。


良く現実世界でも『どこにそんな力が』なんて、小柄な人に対して驚く事があるのだが、あれはそれの比では無い。


様々達人とも模擬戦を行ってきたエリルだからこそ分かるが、あれは所謂『人間技じゃない』と言わざるを得ない力だった。


しかしそんな力を持っているライアンを片手で押し倒す事が出来るこのロキと言う男。


手が伸びた事もそうだし、突然現れたり消えたりも出来る上、自分達をファミリーハウスとフィールドを往復させると言う、現実世界では中々想像が付かない現象まで起こす。


もしかすると『魔法』と言う存在が身近にある様な、ケヴィンやグランの様な異世界人からすれば当たり前の事なのかもしれないが、地球人側からすればロキの行動は全て、『神』だと言われれば納得してしまう部分だって出てくる事だろう。


勿論、相当な力を持っている偉大な魔法使い……等と言われても説明は付くのだが。


「君たちぁ、この神である僕に選ばれると言うとても素晴らしい栄誉を受け取ってるんだよぉ? どぉ? 嬉しいでしょぉ? もっと喜んで良いんだよぉ」


「誰が喜ぶかよ」


「んもぅ、ケヴィンは素直じゃないなぁ。まぁ何れにせよ、さっきも言った通りこの時点で『全員生存』しているのは本当に凄い事だからねぇ。これからも僕の気体を裏切らない様にぃ、頑張ってよねぇ。それじゃぁ今後もルールは守ってちゃんとやってねぇ? あ、因みにさっきも言ったけどぉ、仲間同士の喧嘩は禁止だからねぇ。それを破ると手痛いペナルティが与えられるからねぇ。じゃぁねぇ」


「あ、おい!!」


シアンがロキに手を伸ばす様にして呼び止めようとするが、そんな事お構いなしにロキは消え去る。


自分が伝えたい事は伝えきり、これ以上現時点では喋る事が無いからと言う意味での行動なのだろう。


「……また聞きたい事も殆ど聞けないまま行ってしまったな」


「多分やけどあれ以上何質問しても、質問は一つ迄ぇとか言ってはぐらかされるのが落ちやで。それやったらとっと消えてもらった方が精神的には楽やろ」


「次に奴が来る迄に、しっかりとした質問内容を決めておくべきだな。今回はシアンが順当な質問を用意してくれたから有力な情報を得られたが、それを踏まえた上で次はもっと重要になるだろう質問を投げかけた方が良い」


と、ケヴィンが言葉を述べたタイミングで、エリルは彼に視線を送る。


「……なんだ?」


訝し気な表情を見せながら、こちらの視線の意図を問うてくるケヴィン。


「……なんや、えらい協力的になったもんやなぁおもて。さっきも俺らの為に大分煽り散らかしてくれよったからな」


「別にお前等の為じゃねぇよ。思った事言ったまでだ」


「そうでっか。ほなそういうことにしといたるわ」


「あぁ?」


何とも分かり易い男だ。


意外にもエリルは、ケヴィンの態度にそう感じるのであった。

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