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僕って優しい

「よぉし、これで君達はみんな今後暫くの間食料系統の譲渡が一日一回しか出来なくなったからねぇ。やってみれば分かるけど、それ以上に渡そうとしたらアイテム自体が『消滅』しちゃうからやめといた方が良いよぉ」


「な……なんで勝手にそんな事決めてんのよ! そんな事されたら困るじゃない!!」


またもや例の女性が喚く。


だがその声色は恐怖に染まっており、先程までの威勢はゼロである。


仮面の男は再び黙って見つめると言う行動を取る。


一々そう言った不気味さを演出するのは、もしかするとワザとそうする事で相手に恐怖心を描かせる事が目的なのかもしれない。


「あぁ、君は確かぁ……『カーラ』だっけ? 君たちが困るなんて知らないよぉ。言ったでしょ? 君達は僕の駒。だから僕の意思で好き勝手に君達へのルールを与えるんだぁ。なぁんで僕の役に立とうとしないやつの優位になる様な事をしなきゃなんないのさぁ。役立たずは役立たずらしく、もっと慎ましくしてるべきでしょぉ」


偶然の一致か、ケヴィンが彼らに言い放った『役立たず』と言う言葉が仮面の男からも発せられる。


あまり嬉しくない一致だとエリルは感じた。


「僕の役に立ってくれるならさぁ、例え駒だとしてもそれなりの対応を僕は取ろうと思ってるんだよぉ。例えばさぁ、最初に僕にものすごーく失礼な態度を取った彼がいるでしょぉ? でも彼はそれでも総ポイント取得数一位に君臨してるじゃん? さっさと僕に謝罪すればいいのに、意固地になって謝らないから苦労したろうに、でもしっかり結果を残して僕の役立ってくれてるから、特別に許す事にしたんだぁ。それ!!」


言うと、仮面の男はケヴィンからポイントを『奪った時』の様に、指を鳴らしながらケヴィンへと指さしを行った。


その瞬間に、ケヴィンの体は僅かに光を発する。


それをされたケヴィンは怪訝な表情を見せながら、ポイントを奪われた時と同様に己の状況を確認する様に体へ手を当てる。


「……今度は何をしやがった」


「システムボード見てごらんよ。バトルポイントのところぉ」


ケヴィンは男を睨みつけながらもゆっくりとシステムボードを開き、やがて視線を落とした。


「……」


「見ていいか?」


隣に立っていたシアンがケヴィンへと問いかけると、彼は舌打ちをしながらシアンが見やすい位置へとシステムボードを動かした。


「……ケヴィンの『マイナスポイント』が無くなってる……それどころか今は『50ポイント』取得している状態になっている」


若干明るい声で、シアンは皆にそう伝えるのであった。


「ほら、僕ってば優しいでしょぉ? こうやって僕の役に立つ事を証明すれば、ちゃぁんとそれなりの対応を僕もするつもりだから、君達もそこらへん意識しとくと良いよぉ」


「……どういう風の吹き回しだ」


シアンの隣には他にもシアンが連れていたチームの者やグランまでも近くに居て、挙ってケヴィンのシステムボードを覗き込んで、それを自分の事の様に喜んでいた。


戦う側と戦わない側にそれぞれ身を置いている者同士の中では、妙な連帯感が湧き出しているのも事実だ。


しかし、周りが喜んでいる中でその状況を一番『気に食わない』と言う態度を出しているのは他でもないケヴィン自身である。


仲間である筈の周りにいる自分達にさえ頼る事を嫌っていたケヴィン。


そんな彼だからこそ妙な温情をよりによって仮面の男自身から受ける事に嫌悪感を感じているのだろう。


「言ったとおりじゃん。君はぁ僕にとっての価値を見せつけてくれたんだよぉ。だから過去に起きた事には目を瞑ってぇ、相応の態度で君を迎え入れようと思った訳だよぉ」


「せやったら全部ポイント返したったらええやないか。なんしにそないな中半端さやねん」


最初に自分からポイントを奪っておいて良く言ったもんだと感じた為、エリルはついそう言う発言をしてしまう。


少しまずい態度だったかとは思った物の、意外にも仮面の男はご機嫌な口調で言葉を返して来る。


「まぁ本当はそうしたのは山々なんだけどぉ、こう言うポイントって『僕等』から自分の駒に譲渡する事はルール上禁止されてるからぁねぇ。ケヴィンから奪ったポイントは別の事に一部『使っちゃった』からぁ、500ポイント丸々は返せなくて残りの分だけ返したって訳なんだよぉ。ごめんね? でも君の残りのポイントはちゃんと有意義に使わせて貰ったから安心してよねぇ」


やはり彼の発言の言葉の裏には、明確にこの様なゲームに巻き込まれている者達が自分達だけでは無い事が読み取れる部分が含まれている。


『僕等』と言った彼の発言からして、恐らくこのゲームの『主催者側』も彼一人では無い事が裏付けられる。


ルール上禁止と言うのも、彼等主催者側にも何かしら厳しいルールが存在する事で、その中で己の駒を使って何かを競い合っている……そう考えるのが自然か。


「お詫びと言っちゃぁなんだけどぉ、君達の頑張りに免じてこうやって僕が君達の前に姿を見せた時に、一度だけ僕に『質問』するチャンスを上げるよぉ。勿論答えられない事も有るけど、そう言った質問をした場合には僕は『答えられない』って言う返答をしちゃうから、その時の質問権を無駄にする可能性があるから気を付けて質問してねぇ。じゃぁ早速今回一つ目の質問して良いよぉ、何かあるかなぁ? あ、勿論質問は君達が選んだ『代表者』がしてねぇ? 一気に喋られると面倒くさいからさぁ」


言いながら仮面の男は、腰の両脇に両手を添え、軽く前屈みになりながらこちらを見下ろす様に周囲を一瞥した。


誰が質問を投げかけるか、質問するとしてどんな質問をするか。


質問と言う単純なやりとりだが、今自分達が巻き込まれている状況の一切が不明なこの状況では、今後の一つ一つの質問が重要となって行く。


男は答えられない質問には『答えられない』とだけ返して、貴重な質問枠を潰すと言う事も明言している。


恐らくだが先日から気になっていた、自分達の様な存在が『他にも居るのか』と言う質問は、今回もまた『答えられない』とだけ返されて終わりとなってしまうだろう。


前回そう言った意味の質問をケヴィンが投げかけた時に誤魔化されてから、まだ二日しか経ってないのだからそこの状況が変わるとは思えない。


あぁ、クソ。


エリルは頭部の髪を鷲掴みにする。


こうなる状況が予想出来ていれば、予め質問を用意出来ていたのだが、今の状況では『誰』が質問するかさえも決まっていない。


恐らく相談する時間さえも用意してくれない為、きっと一番に質問を投げかけた奴の問いが今回は採用される筈だ。


そう考えれば、今自分が勢いのまま質問をした方が良いかも知れないが、丁度いい質問が中々出てこない。


せめて発言する人物が、自分の思い描いている懸念を理解している者である事を願うまでだ。

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