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「何じゃ突然現れおって! 邪魔するでない! ワシは今からこの生意気なガキ共をあぐぅ!」


「ダメだって言ってるじゃん。聞こえなかったぁ? 聞こえてて忠告を無視したなんて事ないよねぇ? 僕の言う事無視するとかぁ……あり得ないよねぇ? どうなのぉ?」


仮面の男はライアンの顔面を片手で掴むと、そのまま壁へとライアンをぶつける。


男の位置からファミリーハウスの壁までは相応に距離が有るのだが、やはり化け物染みた動きでゴムの様に腕を伸ばしてライアンを叩きつけたのである。


……芸が細かいと言うかなんと言うか、継ぎはぎだらけのカラフルなスーツの袖口までもが、彼の腕に合わせて伸び切っている始末だ。


「むはぁ! くぅ……はぁ……」


仮面の男がそのまま手を離した事により、ライアンは両手両膝を着く様にして地面へと這いつくばる。


ここ数日、彼にとっては災難と言える状況かもしれない。


先日は自分によって顎を掴み上げられ、今日は仮面の男によって顔面を掴まれる。


良いとこなしと表現出来る程度には、結構な仕打ちを受けている様に見える。


ただ……かなりの衝撃で壁に叩きつけられたにも関わらず、ぱっと見彼が傷ついた様子は見えない。


背中から行った事で内臓が潰れる可能性もあるが、吐血をする様子も無く、少し時間が経過すれば上体を起こす程度には回復している様な状況だ。


恐らく奴がBPを消費して手に入れたであろう『身体強化』は、先程の様に『腕力』だけで無く『頑丈さ』まで上げる様な仕組みがあるのだろうか。


「黙って僕の言う事聞いてよねぇ? 良い? 次はないよ?」


顔を上げたライアンに仮面の男がそう問えば、少し蒼褪めた表情を見せながらライアンはゆっくりと頷くのであった。


仮面に描かれた目でしか男が何処を向いているのか把握できないが、それでも恐らくライアンを数秒の間見つめた後、仮面の男はこちらへ振り向いた。


両手を胸元で軽く合わせる様に叩きながら言葉を紡ぐ。


「さて! 一先ずはこの三日間お疲れ様! そして身体強化、もしくは『異能強化』を手に入れる事が出来た人はおめでとう! 無事に人間の力を超越する事が出来て良かったねぇ!」


ライアンに向けた不気味な声とは打って変わって、敢えてそうしているのだろう軽快で親しみやすそうな声で賛美を向けてくる仮面の男。


エリルにとってはどちらも気持ち悪い声と変わらないのだが。


「えぇっとぉ、生き残りはぁ……うわぁ凄い! 『全員生存』だなんてやるじゃぁん。特に『ケヴィン』! 君まで生き残ってるなんて本当に驚きだよぉ! 集まったメンバーの中では腕が立つ方だとは思ってたけどぉ、流石に飲食無しで生き残るとは思ってなかったよぉ。お見事ぉと言いたいところだけど、実際どうやって生き残ったのか凄い気になるなぁ。このファミリーハウスの『仕様上』根性だけじゃきついと思うんだけどなぁ」


仮面の男が言いたい事は恐らく、先日シアンと共に予想していたこのファミリーハウスに掛かっている超回復現象の事を言っているのだろう。


グランの腕が元通りに戻ったり、体の衛生面が常に清潔に保たれている様な状況。


お陰で筋肉痛にもならなければ倦怠感の様な物も起こらない。


怪我等が元に戻っている訳では無く、怪我が魔法によって修復していると言う状況である為に、例えば鍛錬を行って肉体が疲労した時に瞬時にそれが回復し、同時に筋繊維等も通常通り強固となる現象が起こる。


これには相応のエネルギーが使われる為に、しっかりとした体の栄養素が必要不可欠だ。


エリルも感じた事のある、起床時に起こる低血糖にも似た空腹感はこれによる影響だと言う事。


ケヴィンは戦績を見れば一目瞭然だが、誰よりも活発に動いて誰よりも魔物を討伐している状況だ。


要するに本来であれば誰よりも『疲弊している』と言える状況にある。


誰よりも食料が必要だったはずだ。


そしてケヴィンは案の定と言うべきか、一切の食事を自分の責任として拒否し、その結果数刻前に倒れてしまうと言う事象を起こした。


幸い周りに魔物が居なかった事でケヴィンは無事だったが、普通に考えれば彼が今回生き残れたのは奇跡だったのかもしれない。


「テメェが想像できねぇ様な裏技が存在してたのかもしれねぇぜ?」


素直に答える気が無いのだろうケヴィンは、仮面の男へ煽る様に言葉を返す。


「んーそんな事ない筈だけどぉ。あぁ、あれだね。めちゃくちゃ単純に、ただ食料を恵んで貰ったってやつでしょ、ずるいなぁ」


「それも禁止やとか言い出すんか?」


ケヴィンが『裏技』と言った事で気づいたのか、含みを持った様な言い回しを仮面の男がした事で少々気になり、そのまま質問を述べた。


それが禁止であるのなら死活問題と成り得る程に重要な要素だ。


「いやぁそんな事は無いんだけどぉ。でもちょぉっと君達に関してはそれが過剰過ぎるよねぇ。ポイント獲得率見せてもらったけどぉ、上位四人が二日連続変わりもせず、しかもその内三人は初日もポイント相鳥してた人達だもんねぇ。今日の結果を踏まえて言うと21人も未だにポイントゲットしてない人が居るんだけどさぁ、それじゃぁ困るんだよねぇ。君達にはもっともっと強くなって貰わなくちゃなのに、一部の人だけが強くなって他の人は戦いに関与しませーんって言うのは認められないなぁ」


仮面の男はちらりと後ろに居る戦わない者達へ視線を送った。


「それもこれもぉ、ケヴィンを抜いた他の三人がきっと食料を提供してる事で起こってるんだよねぇ? 死に物狂いで生きる為に自分でポイントを獲得するって言う意思が、その行動のせいで持てなくなっちゃってるんだよねぇ? それはそれでちょっと困るなぁ。ポイントを手に入れる意思を持ってて、でも魔物の数に限りがあって仕方なくポイントがゲットできなくて恵んで貰うならまだしもぉ……君達のポイント推移を見る限りはそれは無さそうだよねぇ。最初っからこっちのポイント獲得組を当てにしてる感じぃ」


この仮面の男は、自分でミッションを用意してこちらをそこへ参加させている割には、そのミッションの中で何が起こっているか全く把握していない様な言動が目立つ。


初日にジェシカにポイントを振られていた事に疑問を持った事も然り、今回ケヴィンがどうやって生き残ったか知らなかった事も然り、そして初期値で待機していた21人が何をしていたのかも分かってない様子だ。


しかしポイントの推移だけは把握している様で、そこから非戦闘組の行動を予想して今の言葉を述べているのだろう。


正にその通りだと言いたい所だが、こいつの意見の賛同の異を見せるのは癪に障る為、エリルは静かに状況を見守った。


「決めた! もっと必死にミッションに参加して貰う為に、今後しばらく食料の譲渡には『制限』を掛けよう! 簡単にしなれても困るから完全な禁止にはしないけど、でも動いて貰う為にも個数を決めさせてもらうねぇ。他人から食事券と水を受け取れるのは一日一回限り! 今からこれをルールとして適用させて貰うよぉ!」


言いながら、仮面の男はまるでシステムボードと同じ様な見た目をした、通常のそれよりも三倍近くは大きな半透明の板を展開しながら何かを弄っていた。


あれが仮面の男用のシステムボード……つまり運営側用のシステムボードとでも言うのだろうか。


仮面の男がそこへ何かをタイピングする様に書き込んだ後、視界が一瞬だけ揺らぐ。


システム的に何かしらの改変を加えた事の表れなのだろうか。

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