気のせいか
「こう言う軽い武器だったらわたしにも使えますかね」
ジェシカがゴブリンを絶命させた自分へと言葉を投げかける。
エリルがレイピアを軽々と扱っている様に見えた為にそう言った発言をしていたのだろう。
「んーどうやろうなあ。こう言う武器は確かに槍や剣よりは軽いかもわからんけど、刺突で仕留めるにはそれなりの技術が必要かもしれへんな」
「そうなんですか……」
自分で戦う機会を模索しているのだろうか、三日目となれば流石に初日の恐怖も段々と薄れ、徐々に彼女にもやる気が芽生えた……と言う所だろう。
「提案なんやけどな、俺があんたに技術を教えた所で、こう言うもんは一日で身に付くもんでもあらへん。グランの投げ方はもともと体を動かす事が職業になってたこいつやから出来た様なもんや。せやからあんたにはもっと単純で、もっと『力づく』な方法で戦う機会を作った方がええと思うねん」
「……どう言う事ですか?」
「軽い武器やのうて、逆に『重い武器』を装備するんや。せやなあ……重い棍棒みたいなもん作れるか試してみたらどうや? 『鬼の金棒』でも想像したらちょうどええんとちゃうか」
「やってみます……」
言いながら彼女が少しめを閉じると、エリルの手元からレイピアが消え、彼女の手元に150㎝程の長い金棒が出現した。
正にエリルも想像していた様な、黒く太目のバットの様な金属の周囲に棘が付いた様な金棒だ。
「出来ました……けど……!」
彼女はその金棒を両手に持って思いっきり引き上げようとするが、顔真っ赤にする程力を込めても持ち上がる気配すらしなかった。
「くはぁ!! ちょっと……無理みたいです」
「『今』はそうやろうな。だから『提案』言うたんや。今回の討伐で恐らくやがあんたのポイントは100を軽く超えるやろ。そしたらな、そのポイントつこて『身体強化』をバトルポイントメニューから購入してみたらどうや? 俺の予想やったら恐らくやけど筋力も上がるんちゃうかと思ってんねん」
「あぁ、それは俺も予想していた。俺の世界には魔法によってそれこそ『身体強化』を行う技術があるって言っただろう? バトルポイントメニューにあるそれも同じような効果が得られるんじゃないかと思ってたんだ。そしてもしそれが想像通りの能力なら、恐らくジェシカの筋力でもこの金棒くらいなら簡単に持ち上げられる様になると思う。そしてあのクロウラビット程度の攻撃ならかすり傷で済むレベルにはなるんじゃないかと予想してる。言い過ぎかもだけどな」
「試してみる価値はありそうやな、どやジェシカ。やってみる気になったやろ」
「そう……ですね。エリルさんの言う事は外れた事ないんで、今回の戦い無事に生き残れたら試してみたいと思います!」
「……その意気やで」
エリルは少しだけ目を泳がせてしまった。
『無事に生き残れたら』……。
彼女の言葉によって、多少現実を叩きつけれた気がした。
正直、今の所はとてもうまくいっている。
ジェシカのお陰とも言えるが、自分は上手く戦えているし順応できているとも思う。
しかし、これはデスゲームだ。
容赦なく命を奪って来る魔物達と強制的に戦わせられる死闘だ。
今この時が無事だったからと言って、この後もずっと無事とは考えられない。
ましてや異能の効果さえ見つけられていない自分がこの後の強くなって行くだろう魔物の中で、生き残っていける確証なんてどこにも無いのだ。
少し気を引き締めていかないといけないなとエリルは気づかされ、首を一度横に振った後、D-1の攻略を終えそのまま南に下ってD-2を目指すのであった。
順調……と言える程度には魔物の討伐は進んでいる。
相性もあるのだろうが、新たに追加された魔物であるゴブリンに対しては殆ど脅威にならずに倒す事が出来ている。
グランの言う通り、ゴブリン達がほぼ何も持っていない『装備無し』の状態である為にゴブリン側からの攻撃をあまり警戒しなくていい事も要因の一つだろう。
凶器となる武器一つでも持っていたり、こちらの攻撃を防ぐ様な『盾』等を持っていた場合は、このゴブリンと言う魔物の習性でもあるのだろう『群れを成す』事によってかなりの脅威と成り得た可能性はある。
今後そう言ったゴブリンも出て来る可能性も踏まえれば、やはりこちらの能力の向上を早々に計る必要があった。
エリルはマップを開く。
自分達の居るD-1のエリアが、まだ赤く点滅している事を確認し、完全な討伐が為せていない事を把握すると同時に、今まで討伐してきたエリアに魔物が進出する事は無いかも含めて確認する為、度々目を通す事を心がけていた。
「……ん?」
エリルはマップの端の方で、2、3度赤い点滅が起こった様な気がした。
場所としては『A-1』。
つまり一番最初の自分達のスタート地点で有り、もっと言えば未だに戦おうとしない残りの部隊が集まっている箇所だ。
安全地帯扱いとなっている筈のその場所が数回赤く光った……と言う事はそこに魔物が現れた証拠になるのかもしれないが、その後しばらく見つめていてもA-1は何事も無くただ21人分の青い丸が存在しているだけであった。
気のせい……なのだろうか。
自分の動体視力と反射神経にはある程度自信を持っているエリルが、まさか赤い点滅を見間違えるなんて事があるだろうかと自問自答する。
しかし、マップ全体を見通している中でまだ半分近くが赤く点滅している状況だ。
下手すれば目の錯覚だって起こすかもしれない。
暫く光を見つめた後に視線を動かした際、光の跡が残る事はよくある話だ。
『陽性残像』と呼ばれる現象で、カメラのフラッシュや太陽を見た時に起こるあの反対色の残像だ。
それがもしかしたらマップ上で起こったかもしれない。
そう言った勘違いだって無いとも言えないし、事実A-1に残っている面々は何事も無い様に微動だにしていないのだ。
丸の数もしっかりと21個残っているのだから無用な心配なのだろう。
エリルは意識を切り替え、他の者達の動向へ視線を移す。
慣れてきたのか、シアン達のチームはエリア上を3組に分かれ探索している様子であった。
マップ上で青い丸をスマホの様にタッチすれば、その場所に居る人物の名前が表記される。
エリルは試しに3組に分かれている内一人で行動している人物の青丸をタッチする。
予想通りと言えばそれまでなのだが、やはりと言うべきか一人で行動している人物は『シアン』であった。
実力的に考えれば、シアンチームの中で彼が突出して実力があるのだから、一人行動しても問題は無いと言えるだろう。
彼も恐らく装備無しのゴブリン程度に後れを取る事は無い筈だ。
他の者達が安全マージンを取って二人一組で行動しているのであれば、彼らのその別れ方は正解なのだろうとエリルは思った。
「……」
エリルは眉間に皺を寄せる。
彼等の行動以外で、エリルはマップ上で気になる状況を視界に収めた。
対象の人物の青丸を確認する様にタッチし、その人物が間違いなく『ケヴィン・ベンティスカ』と表記されている事を把握すると、エリルはグラン達へと振り返る。
「すまん……ちょっと離れても問題あらへんか?」
「いきなりどうした? 用でも足したくなったか?」
少しだけ笑みを浮かべながら冗談を言い放つグランに普段ならこちらも冗談で返したのだが、真剣な表情を崩さず言葉を続ける。
「……ケヴィンが『動いてへん』ねん」
エリルのマップ上では、C-3のエリルに入ってすぐの所で立ち往生している様に見えるケヴィンの青丸が表示されていた。




