ゴブリン
「調子ええんとちゃうか?」
エリルは投擲によって、緑色の人型の魔物……『ゴブリン』と呼ばれる新たに現れた魔物の頭部へナイフを突き立てたグランを見ながらそう伝えた。
「あぁ、『盾持ち』じゃないゴブリンは基本的には簡単に倒せるからな。俺の世界のゴブリンは『冒険者』から剥ぎ取った装備を持つ程度の知能があるタイプだったから、魔物自体の強さは弱くてもある程度の知能があるし中々厄介だったよ」
言うとエリルはよそ見しながらでも自分へと襲い掛かってきたゴブリンの頭部を『レイピア』で貫く。
斬る事を主体としている剣でも突く事は可能なのだが、基本的に槍を扱っていた自分からすれば刺突と言う動作の方がやはり合っているらしく、グランにナイフを使ってもらう為にも自分はジェシカの残ったリソースで片手剣では無くレイピアを作ってもらう事にしたのである。
「エリルに関してもゴブリンは初めて対峙するんだろう? だけどやたらと慣れた手つきで倒してるじゃないか」
「俺ら武術家はな、結局は人体の構造を理解するプロやねん。どこの部位がどう動いたら結果がどうなるか、って言うのを熟知した集団やねん。せやから四足歩行の様な獣タイプよりも、こうやって二足で立っている人型の魔物方が戦いやすいねんな。動きが分かり易いんやわ」
とは言いつつも、最初にゴブリンと対峙した時には一瞬だけその『人型』である事に躊躇した。
今ではウサギやスライムと言った到底人ならざる生物と対峙していた事から、狩りの一端だと思えてはいたのだが、人型となるとほんの少しだけ倒す事に躊躇が生まれたのも事実だ。
ほんの一瞬だけ躊躇っただけで、一体目を倒した所でタガが外れた為に今は全く気にしていないのだが。
「成程なぁ……俺達の場合は剣術等を習う場合にも、対魔物が想定されているから、基本的には対人としての考えは持ち合わせていなかったんだよな。有名な冒険者にもなると対人もやたらと強かったりはするんだが」
「正にそこは世界観の違いやろうな。その有名な人らが対人も強いんは、結果的に戦いに対する経験値の差やろうな。俺らの世界でも国から許可を得て狩猟を行ってる人らがおるけども、そんな人らやって常人よりは圧倒的に強いで」
エリル達はその日も先日とほぼ同じ様なチーム分けで散策を行っていた。
今回はボスの様な魔物がいる訳ではなく、初日と同じく魔物の全滅がミッションとなっている。
ただ初日と違うのは、ミッションの流れがどちらかと言えば『二日目』と同じである事。
つまりフィールド上に散らばっている魔物を見つけ出して、全ての魔物を倒す事が目的となっている。
その中での出現モンスターがクロウラビット、スライムに加えて今回の『ゴブリン』が追加された状態での戦いとなっている。
今回のミッションである『全滅』は少々厄介だなとエリルは感じた。
先日の様に『一定数』の魔物を倒す事によってボスが出現する様なミッションでは、フィールド上の魔物を全滅させる必要は無かった。
その上最終的に出現したボスは特別にフィールドマップに所在地が現れる様な仕組みが出来ていた為、そこまで必死に魔物を探す必要が無くミッションを終える事が出来た。
しかし今回に限っては、魔物の位置は殆ど分からない状態。
大したヒントが無い状態でこの広大なフィールドを隅から隅まで探さなければならない事にエリルは懸念を抱えていた。
このミッションのクリアには想定以上に時間が掛かりそうだと感じていたのだ。
幸い……と言えるのかどうかは分からないが、大まかの敵の位置は把握できる。
と言っても大まか過ぎて参考になるかどうか不明なのだが、正方形のフィールドマップを眺めた時、そのマップが『16マス』の目印によって区画分けされている状況だ。
上から横軸がマップの上にA,B,C,Dと表記されており、縦軸が1,2,3,4と表記されている。
例えるなら一番左上のマスはA-1と解釈する事が出来るだろう。
そしてその区画それぞれが一定の間隔で赤く点滅している所と点滅していない部分に分かれている。
最初自分達は皆ミッションが始まった際に『A-1』に集っていた。
マップを開いた際にA-1は赤く点滅しておらず、その他のマスだけが一定の周期で同時に赤く点滅していた事を確認している。
このデスゲームの厄介な所は、主催者であるあの仮面の男が碌な説明もせずにゲームが進んでいくところ。
16マスに分けられた意味も、赤い点滅の意味も分からないまま自分達はミッションクリアに挑まなければならない状況に追い込まれ、色々と手探りで今回も魔物達と戦っていた。
そして分かった事がこのマップの赤い点滅は、そのエリアにまだ魔物が『存在している』事で起こっていたと言う事。
エリルとグラン、ジェシカの三人チームは先にマップで言う右側、方角で言えば東にあたる『B-1』に進んだ際に、一定時間そこで戦った後にマップを開いた際、赤い点滅が消えた事を目撃した。
赤い点滅が消えた後でそのB-1のエリアを散策していても、一行に魔物が見つからずに次のエリア、『C-1』に赴いた際、いきなり結構な量の魔物が現れた事からその説が有力だと感じた。
システムボードからメッセージ機能を起動し、マップの南側、つまりA-2に向かったシアンにその事を報告した所、彼らもA-2で魔物が現れなくなった為A-3にむかった際、同じ様な現象が起きたと言う。
直ぐにマップを表示してみれば、確かにA-2の赤点滅も消え去っていた事が確認できた事からそれは間違いないだろう事が分かった。
ケヴィンにもその事を報告しておいたのだが、読んでいるのか読んでいないのか、返事が返って来る様子は無かった。
ただ、自分達が同じ様にC-1の魔物を一定数倒した時にマップを開き、C-1が赤点滅が消えている事を確認していた際、ケヴィンが進んでいたB-2の赤点滅が消え、そのタイミングでケヴィンがC-3へ向かっている事が分かった為メッセージ自体は届いている様だとエリルは判断した。
ケヴィンが頑なに一人行動を誇示する事から、彼は一人で南東方向へと突き進んでいるのだが、やはり自分達の様な集団チームよりは殲滅に時間が掛かっている様子であった。
この様にある程度の魔物位置は分かる事から、エリア中をくまなく探す事で先日や初日と比べれば、あからさまに時間を経過させながらミッションを進めていた。




