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距離の詰め方


「今から食事かエリル」


あれからしばらく時間が経ち、あの気持ち悪い言葉を並べ立てる奴らが広場を後にした事を確認してから、エリルは食堂窓口へと立っていた。


勿論自分の腹を満たす為でもあるが、少し試したいことがあっての行動だ。


「せやな。もう俺もいらん気ぃ使うつもりあらへんねん。あんな形になってしまって悪かったなシアン」


「いや、構わない。俺が良かれと思ってやっていた事で、頑張って戦ってくれているあんた達が理不尽を受ける状況になるなんて思いもしなかった。あれは完全に俺の落ち度だ……俺の代わりに悪役になってしまってすまなかった」


言いながら、シアンはこちらに向けて綺麗な姿勢で頭を下げて来る。


年齢は自分とたった三つしか変わらないのにこれだけ人の為に動けて、年下の自分にも頭を下げる事が出来て……あの気持ち悪い大人達と比べる事すら烏滸がましい程に出来た人間だ。


まぁ……この人物が良い奴だからこそ自分はあそこで大人達にキレてしまったのだが。


「あんさんが謝る事ちゃうねん。俺もグランも、謝罪が欲しいのはあいつらからであんたとちゃうねん。さっきも言うたけど、あんたは間違った事してへんのやから謝ったらあかんで」


「いや、もっと考えるべきだったんだ。人を導く側に立つのであれば、相応に憎まれる事も覚悟しなければならない。人に指図をするんだからそう言った厳しい面だって持たなければならないのに、その役目をお前達に任せてしまったんだ。甘すぎたんだ、俺の考えが」


シアンは姿勢を正すと、まっすぐこちらに視線を向けながら言葉を紡いだ。


綺麗な紫色の髪が、シアンの動きに習ってふわりと揺れる。


「ええやんか別に。あんさんが飴で俺らが鞭になったらええねん。かっこつけの優しいシアンのままで居たらええと思うで」


「かっこつけとは何だ。何もしなくても俺はかっこいいだろう?」


エリルは目を見開く。


いきなりナルシスト全開な言葉を浴びせられて驚いてしまったのだ。


だが……何となく分かった。


これは彼成りの信頼の証とでも言うのだろうか。


距離を詰めてくれたと言う解釈で受け取って良いのだろう。


……詰め方は頭おかしいが。


「何言うてんねん。もっとちゃんと鏡見てからそう言う事言わんかい。ちゃんと俺が判断したるからよお見せてみい! ……なんやムカつくほどおっとこまえやんけ」


言いながらシアンの胸元辺りを軽く小突いた。


頭のおかしい距離の詰め方には、頭のおかしい返し方で対応する。


これがエリルの流儀……では無いがそう言う事にした。


二人は一瞬の間の後、ドッと笑い声をあげた。


エリルはその後、『とある品』を念じながら食事券を挿入口に通す。


ある程度からくりが分かり出した事から、自分の体に絶対に必要な栄養素が過度に不足している場合でなければ、今食べたい物が出る仕組みになっている事を利用して、エリルはその食材を選んだのだ。


そしてエリルは出てきた食材の一部をシステムボードの中に突っ込んでいく。


水のペットボトルと同じで、システムボード内にあるアイテムボックスの中には、こう言った食料でさえ入れていく事が可能だった。


エリルが今回試してみたかった事は、アイテムボックスに入れたアイテムの『鮮度』がどうなるかである。


アニメやゲームの世界で出て来る様なアイテムボックス系統は、大抵の場合生物でも入れたまま時間が経過しない付属効果が有る事が多い。


それを確認する為にも、出来立ての料理の一部をアイテムボックスに入れて、日持ちするかどうか試す事にしたのだ。


ついでに一回の食事券で出てきた食材を残したまま、例えばあくる日の朝食で食事券を通した場合、通常の朝食の量が出て来るかどうかも試そうと考えていた。


それが普通の量で出てきた場合や、鮮度が保ったままであったのなら、今後もエリルがポイントを稼ぐ事が出来なかった場合の事を考え、食料を少しずつ確保するべきではないかと思ったのである。


今はジェシカが協力してくれている状況だが、いつしか彼女が一人でも戦える様になれば自分はお役御免だ。


幸いにも21枚の食事券をバラまいた後、彼女が追加でさらに食事券をくれた事で、数日間の食料は確保出来ている状況にはある。


食事券を持っているのなら日持ちなど考えなくとも良いのではないかとも思われるが、いつまでも食事券があるとも限らないのと、どちらかと言えばこの行動は建前で、今手に入れた食材に関して後日とある目的の為に確保しておきたかったのだ。


そんな事よりもと言った様子で、エリルは複数ある食材の一つを口に放り込みながら、広場に設けられている椅子へと腰掛ける。


「さっきあんたの『髪』見て思ったんやけどな。俺らここに来てから『風呂』に入れてへんやん。施設のマップ見てもそれらしい部屋は有らへんから、シャワーすら浴びてへん状況や。その上俺らは二日に渡って結構汗かいた筈やで。ポイントもあんまあらへんから服も着替えてへん。せやけど……なんや俺らちょっと『清潔』すぎへんか? 髪もべた付かへんし体も臭くなってへん。どう考えてもおかしいやろ」


「あぁ、それは俺も思っていたところだ。水洗便所はあるのに流しは無い。歯もろくに磨けないにも関わらず、口内環境が最悪な状態になる事は無い……。そしてエリルの言った通り、俺達は二日に渡って結構動き回っていた筈なんだが……筋肉疲労すら無いんだ」


そう言われれば、とエリルは二の腕辺りを揉んでみたりする。


あれだけ暴れまわれば、翌日には筋肉痛だって出てくるだろうくらいの動きをしたのだが、そう言った疲労感が一切感じられない。


「昨日、グランがあれだけの大けがをしたが、ファミリーハウスに戻った途端仮面の男の力で完全回復していただろう? それに痛めていた手の筋さえも治ったと言っていた。……俺達の体が清潔に保たれているのも、その力の一旦なのかもしれないな。ファミリーハウスに居る限り常に、もしくは定期的に体が万全な状態に戻る。昨日の晩しっかりと食事をしたにも関わらず、朝になった時にやたらと空腹だったのは、体のエネルギーが通常より多く消費されているからじゃないか? だから体が食事を求める様になっている……あのライアン達が一食分の食事が抜きにされる事に妙にイラついて居たのは、そう言った作用の影響も多少は有るかもしれないな」


「あいつらはなんもしてへんねんから体の回復に割くエネルギーなんて知れたもんやろ」


と、笑いながら冗談を口にするが、シアンの言う事は大体当たっているのかもしれない。


朝になったら妙に腹が減る。


低血糖時の様な症状に近い状況を今朝感じたのも事実だ。


水を大量に飲んで空腹を誤魔化した程だから余計だろう。


つまり昨日グランの腕が元通りになった現象や、体の環境が完璧な状況を保たれているこの現象は、この部屋に戻った瞬間に体が『リセット』されている訳では無く、体内にある栄養素等のエネルギーを使って休息に回復していると言う事なのだろうか。


体がべたつかない事や、服まで綺麗になっている理由は説明がつかないが、大体そう言う事なのだろう。


治癒能力に失った腕まで元通りに出来るのはやはり魔法の力だから……と考えるのが妥当か。


シアンがいつの間にか煎れていたコーヒーをこちらに差し出してきながら、近くの席に座り込んでくる。


自分の飲料水さえ使うのであれば、この部屋の施設にある備品は自由に使える状況にある。


用意されているのはティーパックやインスタントコーヒー等の様な、自分の所持品を使わなければ接種出来ない様な物だけで、調味料の様な頑張れば栄養素になる様な品は徹底的に排除されている為、コーヒーもブラックで頂くしかないのだが。


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