ボスモンスター
「それなら、『他人に掛ける』……なんてのはどうだ?」
「……確かに、それは試してなかったな」
自分の何かしらの能力を上げるもの……異能と言う物は自分が発動するのだから、自分に関る物が対象だと思い込んでいたが、グランの言う通りそれ自体を他人に掛けられる事があるのかもしれない。
物は試しだとグランが再びジェシカからナイフを受け取り、二本纏めて現れたクロウラビットとスライムのコンビに投げた所、見事二本とも急所に向かって命中していた。
「どうだった!?」
「あかん。グランが投げたナイフの威力が上がる様に意識してたけども、なんも感じられへんかったな。少なくとも人が投げた物の威力を上げる線は無さそうや」
「じゃあ次は私の!」
言いながら、ジェシカはグランが投げたナイフを回収し、再び目の前へと出現させる。
「せやなぁ……恐らくやけど、人の異能の効果を倍加させるもんやあらへんかもしれんなぁ」
ジェシカが武器を発生させるタイミングでも異能の発動を試みてはいたが、どうにも反応している様子も見えなければそれの数が増える様な効果も見受けられなかった。
「切れ味が……上がっている訳でもないのか」
近くの樹木へナイフを切りつけたグランだが、思っていた効果は見受けられなかったらしい。
あぁでもないこうでもないと言いながらエリルも彼等と共に己の異能に関して実験を行い続けたが、やはりと言うべきか一行に自分の能力を発見出来るには至らなかった。
何かを倍加させる能力であるのはまず間違いないだろうが、直ぐに見つけられそうな異能名の割にはヒントすら掴めていない。
まさかこのデスゲームに全く関係の無い異能である筈は無いだろう事から、特に戦闘面において何かしら倍加出来ないか探していくのであった。
暫く適度に魔物を狩りながら、異能の可能性に関して探っていた最中の事である。
一同の前に突然システムボードが現れる。
こう言った場合に現れるシステムボードは、大抵なにかしら情報が更新された時にお知らせの様に届く場合が多い事がこの二日間で理解出来た為に、皆視線をシステムボードへと移す。
『ボスモンスター:フォレストウルフ出現』
一定数以上の魔物を倒すと言うボスの出現条件を満たした為か、ボスの出現をアナウンスする表示が記載されていた。
「おー、他でもちゃんとやってたみたいやな」
「俺達だけでもかなり倒してるんだ。シアンのチームや単独行動してるケヴィンが活躍してる筈だから、順当に行ってる証拠だろう」
エリルは早速システムボードからマップを開き、フィールドマップを開く事で仲間の場所の確認を行う。
仲間の位置はマップ上に青い丸として表記される。
五人組の団体がマップ中央に向かって移動し始めている事を確認し、恐らくそれがシアンのチームだなと予想する。
彼等が向かっているそのマップの中央位置には、やや大きな赤い丸がこれまた『五つ』存在している。
ボスを出現させるために狩っていた魔物達はマップには表示されなかったが、ボスモンスタークラスになると表示される様になるのだろう。
そう言った攻略上のヒントすらあの仮面の男は通達しない為に、全て手探りでミッションを攻略していかなくてはならない状態になる。
マップの北西の位置から、一つの青い丸も同じ様に中央に向かっている所を見て、それが恐らくケヴィンであると認識したエリルは、自分達も中央へ進む事を決める。
最南端で固まっている二十人近くの青い丸は、今回戦いには参加しなかった仲間達だ。
今は無駄に散らばられるよりも、固まっていてくれた方がこちらとしても助かる。
エリル達はシステムウィンドウを閉じて駆け出し、草原の先にある雑木林の中に入り込むと、少し進んだ先に五体の狼の様な魔物が集団で動いている様子が見えた。
緑色の毛並みの、全長1.5メートル程度は有りそうな大き目な魔物だ。
その場に伏せていた数体が、こちらに気付いたのかゆっくりと立ち上がり、口の先に備わった鋭い牙を剥き出しにしながらゆっくりと唸り始める。
場所的に見た目的にも、目の前のこの魔物達が『フォレストウルフ』で間違いないだろう。
五体全てがこちらに視線を向けていたのだが、ハッとした様な仕草を見せながら数体が別の方向へ視線を向けた。
二つの方向からそれぞれシアンのチームとケヴィンが合流した事で、偶然にもこのフォレストウルフを囲む事に成功していた。
シアンがこちらに視線を送って来ていた為に、ゆっくり頷いて見せた事でシアンもそれに頷き返して来る。
今回エリルはグランにナイフを投げて貰う事を考慮した為、ジェシカに片手剣を作り出して貰う事で前衛へと走り出す。
こうする事でジェシカは片手剣を一本、ナイフ二本を同時に作り出す事が出来た為、グランの援護が期待出来る状況となった。
五体の中のリーダー格とでも言うのだろうか、一体だけ一回り体の大きなフォレストウルフが存在し、そいつが雄叫びを上げた瞬間他のフォレストウルフが一斉に飛び掛かって来た。
「後ろ頼んだで!」
エリルはグランへ言葉を言い放つと同時に前進を始める。
異能による補正があれば、恐らく前でエリルが戦っていてもグランの投擲で敵だけを狙い撃つ事が可能だろうと思っての行動だ。
フォレストウルフが真っすぐ突っ込んできた為に、エリルは駆けながら剣を突き出す。
持っている武器のリーチは把握出来ている為、槍より短いからと言って間合いをミスする事は無い。
しかし四足歩行の魔物の俊敏性とでも言うのだろうか、直前になってフォレストウルフは一瞬で横方向へと飛び跳ねる。
若干足を滑らせながらも、エリルもフォレストウルフを目掛けて方向転換するが、中々に大きな隙を作ってしまった。
だが透かさずその場面でグランの投擲が援護の様に飛んでくる事で、フォレストウルフがこちらへ攻撃を仕掛けて来る状況を免れる。
避けた先に向かってエリルは駆けだし、剣を腕の後ろに隠してフォレストウルフから見えない様にしながら近づき、再び正面衝突しそうになった場面でフォレストウルフが飛び掛かって来た。
剣を危険な物だと判断出来る程度には知能があったのだろう。
しかしそれと同時にただ剣を隠しただけで無防備だと判断する程度の知能しか持っていない事も判明した為、ケヴィンは敢えて地面に滑り込む様にしてフォレストウルフの飛び掛かりを回避。
フォレストウルフの下を掻い潜る状況になった際に、その腹目掛けて剣を突き立てごっそりと肉を断つ。
トドメと言わんばかりにフォレストウルフの脳天へグランがナイフを突き立て、無事に一体のウルフの討伐を終える。
振り向けばシアンが一体、ケヴィンがもう一体対峙している状況で、フォレストウルフの動きを追い切れていないのか、もう一匹のそれに翻弄されているシアンチームの残りの四人の動きが見えた。
援護するのも良いが、折角戦うつもりになったのだから一体は彼らに任せて自分達は残ったリーダー格らしい魔物へと集中する事にしようとエリルは考えた。
シアンとケヴィンも同じ考えなのか、ケヴィンは炎と氷の魔法を連続して放出し始める。
ただ、このリーダー格のフォレストウルフ、他のそれよりも明らかに動きが早い。
高い命中率を誇っていたケヴィンの魔法群が悉く避けられると言う状況に陥っていた。




