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食事の仕組み

「偶然うまくいっただけだ。俺一人じゃどうにもならなかったし、素直に俺の意見を聞き入れてくれたエリルやケヴィンが居てこその俺の活躍だと思ってる。今後もよろしく頼むと言う意味でも、ちゃんと受け取ってくれ」


「……そこまで言うんやったら持っとくわ。せやけど必要になったら言うんやで、あくまで一時預かりやと思っとくわ」


「あぁ、それでいい。……ん?」


システムボードから未だに飲料水の出し入れを確認していたシアンが、突然疑問を感じた様な声をあげる。


それと同時にシステムボードから『一枚の紙きれ』を取り出し、目の前に広げてみせた。


大きさ的には紙幣とまではいかないが、商品券くらいの大きさはあるだろうか。


だがシアンがその紙を開いた事で、それを差している物が何なのか直ぐに理解できた。


『食事券』とシンプルに一言書かれただけの紙。


つまりシアンの先程まで飲料水を出し入れしていた行為は、己のポイントを飲食物へ交換していた際にそれが取り出せるか確認していたものであり、その工程の中で食料(一食分)にポイントを振った際にそのチケットの様な物が出てきた事で驚きの声を上げたと言う事だ。


飲料水2リットルと言うアイテムは直ぐにペットボトルとして返還されたにも関わらず、何故食料は食事券として出来たのか。


「あそこに入れるのかもしれないな」


シアンの行動をみて、グランがフロアの中の一部分を指さした。


そこには『配膳口』と言う看板が設置されている小さな鉄製の窓の様な物が備わっており、その横に自動販売機の様に丁度食事券サイズの紙を入れる為の挿入口が備わっていた。


試しにシアンが窓口へ立ち、その食事券が入れられそうな挿入口へそれを差し込むと、本当に自動販売機の様に小さな機械音が鳴り響き、まるで電子レンジが温め終わった時に放つ音が鳴り響いたと思えば、鉄の窓が開く。


そこにはどこからどう見ても『カツ丼』と思わしき食料が存在していた。


だがそれは……。


「……デカすぎへんか?」


見た目は普通のカツ丼なのだが、シアンがそれを手に取った瞬間、そのカツ丼の異常さがすぐに周りへと伝わった。


どう考えても『キロ』は越えているだろう量の特盛のカツ丼だったのだ。


「……なるほど」


そしてそれを目にしたシアンが、何故か疑問が解けた様な言葉を口にした。


「ジェシカ、お前もここに食事券を挿入してみてくれ」


言われた通り、ジェシカは己でポイント交換したであろう食事券を挿入口へと入れ込む。


すると、先程シアンがやった時と同じく電子音が鳴り響き、窓口が開けばそこには『レバニラ炒め定食』が存在していた。


しかし今度は一般的な量からしたら『少な目』である。


「……食料一食分。この一食分ってのは人によって差が出るって事か」


一部始終を眺めていたケヴィンが分かりやすく状況を説明していた。


至極納得いくものである。


ケヴィンの言う通り、『一食』が指す量としては男性の中でも背が高い方であるシアンと、細身の女性であるジェシカでは大きな違いが存在するだろう。


恐らくだがあの窓口は、食事券を投入した人物に対してそれぞれ必要な一食分の食料を輩出する仕組みになっていると予想できる。


にしてもシアンは大食だが。


「ジェシカ、お前はレバニラは好きか?」


「好物と言う程ではないですが、貧血気味なのでよく食べてます」


「なるほど。俺は体が脂を求めて居たからか好物でもあるカツ丼が出てきた。この配膳口から出てくる食料は、食事券を入れた人物の体調によっても配膳される食料が変わりそうだな。グラン、お前はさっき大分血液を出してたからもしかしたら大判ステーキでもでてくるんじゃないか?」


と、シアンが食事券をグランに手渡し、彼が誘導されるままに食事券を挿入した所、シアンの予想通り特大牛肉ステーキ定食が飛び出してきた。


思わずそれを眺めていた他の者達がよだれを垂らし始める始末だ。


「多分この状況で俺がチケットを挿入しても……」


言いながら再びシアンが挿入口に食事券を入れるが、エラー音の様な物を発生させながらチケットが逆戻りしてきた。


「やはりな。この様にあくまでそれぞれの人物にとって一回分の食料が出てくるシステムみたいだ。俺が沢山食べるから、俺が食事を出して大量の食料を二、三人で分けて食べる……なんて事は出来ないみたいだな。まぁ分けて欲しい奴がいたら俺の分から分けてもいいんだが」


「いや、それはちゃんとあんたが食べるべきだ。さっきエリルも言った通り、あんたが居なきゃ俺達は絶対に死んでた。その量のカツ丼はあんたに今日必要な量として出て来たんだろう? 明日以降もあんたの力は絶対に必要だ。だからちゃんと蓄えてくれ。……そして、俺に食事を恵んでくれてありがとう」


腹の音を立てながら良い事っぽい発言をするグランの言葉であった。


わざわざ食料が直接システムボードの中に存在している、ゲームで言う『アイテムボックス』の様な立ち位置の場所に入る訳では無く食事券として具現化した理由は、この様に挿入した人物によって変更掛かる為の物なのだろう。


そして、もう一つ。


食事券として具現化する理由はつまり……『譲渡』出来る事を前提にこのアイテムが存在していると言う事。


わざわざこの様に挿入した人によって排出される料理が変わる配膳口のシステムにするのであれば、ポイント消費して食料を交換した際に直接その人物に必要な食料をアイテムボックスに具現化すればいい話なのだ。


それをわざわざ食事券として存在させる事で、直接のポイントの譲渡は出来ないがアイテムとしては譲渡出来るシステムがくみ上げられている。


これは仲間同士の救済処置として活躍するシステムと思われがちだが、自分は性格が悪いのかまるで人同士で『争奪戦』が起こる様な事を踏まえてこういったシステムにしている様な気がしてならなかった。


あの仮面の男ならそう言う事をやりかねない。


考えすぎかもしれないが、そうならなければいいなとエリルは思うのであった。


「さぁケヴィン、後はお前だけだ。先に水も渡しておこう」


「……いらねぇよ」


シアンが四本のペットボトルをケヴィンへと差し出した時であった。


ケヴィンは払う様にしてシアンの手を押しのけ、それの受け取りを拒否し始めた。


「……いや、お前はマイナスポイントが有るからさっき手に入れたポイントを使えないだろう? だからちゃんと食事をとる為にもちゃんとこれを受け取るんだ。明日に響くぞ」


「自業自得だ。自分で反抗して自分でマイナス喰らって、自分でそれを受け入れたまま今ここにいる。俺がポイントが使えねぇのは自分のせいだ。逆に俺がマイナスを持ってしまってる事で俺が入ったポイントが全部無意味な物になるんだ。これから協力していこうって言ってる最中にマイナス抱えてる俺は邪魔でしかねぇ。せめてお前らが生き残る為の手段を邪魔しねぇ様に過ごすだけだ」


「それは違うぞケヴィン。何度も言うが、お前が俺やエリルと共に戦ってくれたお陰でこうやって皆食事にありつける様なもんだ。お前が魔物を倒せていなかったら窮地に陥っていた可能性だって有る。お前が手に入れたポイントはお前の物だ、そこに他の奴が文句を言える筋合いはない。だからお前も他の人と同じ様に食事を受け取る権利がある」


先程エリルが考えていた事と同じ意味合いの物をケヴィンへと伝えるシアン。


協調性がなさそうな奴だと思っていたがとんでもない。


しっかりと状況を見据えて最善を尽くそうとする良い奴ではないか。


少なくともエリルは今のやりとりでケヴィンの事をそう捉えた。


「別にお前らを助けるつもりでやったんじゃねぇ、自分が生き残る為にやっただけだ。権利とかどうでも良いんだよ。とにかく俺の事は気にすんな。俺もお前等には極力関与しねぇからよ」


「おいケヴィン!」


言うと、ケヴィンはその場から立ち去って行った。


方向的にこのファミリーハウスに設けられている個人部屋の方だろう。


先程システムボードを弄っていた時に発見した施設マップを開いた時に、丁度三十部屋分の個室みたいな物が存在している事が分かったのだ。


「……あいつが自分で入れてくれないと食事が出てこないんだが……まいったな」


「腹減ったらその内受け取るだろ。ちぃとばかし頑固そうやが、悪い奴には見えへん。俺も気ぃ回しとくから、出来ればあいつの為のそのチケットも残しとったってくれや。俺も残しとくさかい」


「……そうだな、皆で生き残る為には全員の力が必要不可欠だ。……頑張って生き残ろう」


はっきり言って不安だらけだ。


いきなり訳の分からない場所へ連れてこられ、気持ちの悪い男から意味不明なデスゲームについて知らされ、何もわからないまま魔物と戦った。


異能の使い方も分からなければ、いきなり戦闘不能に陥る者だっていた。


だが一つだけ分かる事は……今自分は生きているということ。


視線を下せば某ハンバーガー店のてりやきバーガーが自分の手に握られている。


夢じゃないのだ。


料理のぬくもりも感じられ、それに伴って空腹も感じる。


災害で死んだ筈だが実は死んでいなかった。


これをチャンス取るか……それともただ絶望するか。


この戦いがいつまで続くかは分からない。


ただそれでも……今生きている。


そして、何故かこの戦いを……エリルは確かに楽しんでいたのだ。


この後……自分の見に降りかかる最悪な事態が待っている事も知らずに。



――――……。


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