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ただの保険ではあった。


ツギシーヌなら裏切りそうだなと考えていただけで、実際にそうならないのであれば問題はなかったのだが、事実として彼は堂々と裏切りを見せた。


念には念を入れておいて正解だったと言う事だ。


どちらかと言えば、それを見越していたからこそ、相手が余計にエリルがハンターであると思い込ませる行動を取ったのもある。


では何故全てを隠さず、あえてネイサンの事は本当にハンターである事を伝えていたのか。


これに関してはある意味賭けではあった。


そもそもエリル以外の者をハンターとして偽る事はほぼほぼ不可能であった。


偶然が過ぎるが、役職なしであった存在はエリル、カーラ、テキート、ツギシーヌ。


このメンツを見た時に、現状誰がハンターだと偽れるかと言えば『エリル』しか無理なのだ。


この作戦を完遂させる為の最低条件は、ハンターと偽った存在は決して退場しないことだ。


そして他に役職を持っていてはならない。


持っていない存在でしかそれを演じることは出来ない。


監視員ならまだしも警備員では決してハンターを騙ることは出来ないだろう。


役割が相手にも味方にもすぐにバレるからだ。


監視員ならある程度誤魔化しが効くかもしれないが、結局監視コマンドを使う際には大体全員が集結している状況で使う事が多かった事から、いずれボロが出る可能性があった。


その為にエリルは自分がツギシーヌや相手陣営にハンターだと思われる様な行動を取り、もう一人のハンターは本当にハンターであるネイサンに名乗ってもらっていた。


嘘と言う物は事実を織り交ぜる事で真実味が増す。


ネイサンがハンターである事は事実である為、彼の行動を見ていたツギシーヌは全く疑う事が無かっただろう。


相手陣営にエリルとネイサンがハンターだとばらされた時、相手陣営が一人目のハンター指定をエリルにしたのは運が良かったと言える。


ネイサンが指定されていればこちらはハンターが一人欠け、その上で相手チームはペナルティを食らわなかった事により人数差はほとんどなくなってしまう所であった。


まぁ、毎日の様にあれだけ煽っていれば、感情的にも先にエリルを始末したいと思うのは自然の行動かもしれない。


お陰で次の相手の指定フェーズの際、そのままネイサンを名指しする事も多少は億劫になった事だろう。


どちらにせよ相手は残り五人で後がない事から、一縷の望みの欠けてネイサンをそのまま指定してくるのかもしれないが。


「なんだよ……俺たちはファミリーじゃねぇのかよ……」


「そのファミリーを先に裏切ったんはあんたやで。都合のいい時だけ仲間面してんとちゃうぞ」


「クソが!! 覚えてやがれ!」


言いながらツギシーヌは自室へと走り出していった。


この場合、何を覚えておけばいいのだろうかとエリルは真面目に考えていた。


ただその思考をすぐに放棄する。


現状こちらもこちらで手詰まりなのは変わりないからだ。


確定事項は、予想通りシンディはハンターでは無かったと言う事。


そしてそのシンディは先のミッションで強制退場させられたと言う事。


エリルを初日に襲い、二日目にテキートを襲って三日目にツギシーヌへ談合を仕掛けた人物。


爆発の異能、もしくはコピー系統の異能を持っている筈の誰かが、中々好き放題に暴れてくれているのだが尻尾を掴めないでいる。


残るハンター候補は3人。


風圧と思わしき異能のジョージ、体臭のボブ、飛び跳ねるのヨーコだ。


どうやったら彼らの異能が爆発に結び付くかは不明だ。


既に三分の二がハンターなのであれば当てずっぽうでやっても当たるかもしれない。


幸いにも人数は八対五。


数の差に物を言わせて無理やりハンターを指定しても勝てるかもしれない。


ただ、今後何が起こるか分からない以上あまりリスクをとる行動はしたくない。


確実に次でハンターを指名する為に、何かしら更なる情報が無いかと皆に求めた。


「……そう言えば」


と、テキートが何かを思い出したかの様に口を開く。


「カーラはどうやってハンターを撃退したんだ? なんか相手と急接近したかと思ったら突然相手ハンターが苦しみ始めたんだけど」


「それ今聞いちゃうの? ……あんまり言いたくないんだけど……」


「女性の武器……を使ったとおっしゃってましたよね」


少し聞きづらそうにジェシカがカーラに問う。


女性の勘とでも言うべきか、何かに気づいたのだろうか。


「……仕方ないわね、言うわよ。『毒』を直接噴射したのよ。あのハンターの『体内』に」


カーラの異能は『毒霧』と言う能力で、解説するならば彼女が吐く息や唾液……どころか体から発する液体はすべて毒物と化する事が出来る。


最初は唾液を噴射する事で毒霧を使っていたのだが、相手の体内に直接噴射したと言う事はつまり……そういう事だろう。


なるほど、『女性の武器』か。


……ん?


「まぁカーラから毒を食らうのはぁ……まぁある種のご褒美と言うか……なぁ?」


「俺っちに聞くな」


「え……ネイサン?」


「あでででで!! 何も言ってないってよぉ!!」


リアムが隣にいたネイサンに同意を求めた事で、何故かジェシカがやきもちを妬いて彼の耳を引っ張っている様子が見えた。


「……決まりやないか?」


「えぇ、私もそう思ってましたよ」


エリルが脳内でまとめ終わった後、何の脈絡もなく発した言葉にディムが同意を示した。


「何がですのん」


マーロンが片眉を上げながら不思議そうな表情を見せている。


「……ハンターの一人は男性で確定と言う事。しかもエリルを襲った側ではないハンターの方だ」


「ど……どういう事?」


グランの説明でもテキートは意味が分からないのか、あっちこち視線を向けていた。


「カーラは女性の武器とやらを使ったんやろ? それに『引っ掛かる奴』を考えれば……それは大抵の場合『男』やろ」


「成程……って事はハンター候補は……『ボブ』になるってかい」


「いや……でもあんなに大柄じゃなかった気が……」


リアムが上げた予想の人物に対して、カーラは若干の迷いを見せる。


「その事ですが、これを見てみて下さい」


ディムは辺りを見回して他に傍観者が居ない事を確認した後で、ハンターに与えられた今回限りの衣装に身を包む。


「あ、なるへそ!」


それを見て何かを理解したのか、ネイサンも同じ様にローブを着る。


「これは……」


「一緒……ですね……」


グランとジェシカがほぼ同時に言葉を発する。


ローブを着た二人。


二人は体型も違えば身長も違う。


ディムは背は高いが線が細い。


ネイサンは身長こそ平均的だが、鍛えている為に体型は大きめだ。


一目で分かる筈の二人の特徴だが、ローブを着るとどちらも全く同じサイズに見えるのだ。


更にはエリルが初日に襲われた際に見た相手の人物と全く同じ様な体系だとも言える。


正体を隠すためのこのローブには、見た目的体型まで誤魔化す性能が備わっているらしかった。

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