異世界との繋がり
「……殆ど何も聞けないまま何処かに行かれてしまったな」
シアンが困った表情を見せながらそう呟く。
確かに情報が不足し過ぎている。
仮面の男がゲームと称したミッションの流れは何となく理解できたが、そもそも何のためにこのゲームが開催されているのか、何故自分達が選ばれたのか、仮面の男は何者なのか。
そう言った重要な部分が聞けず仕舞いだ。
その辺りも『追々』説明するつもりなのか、それとも説明する必要が無いと思っているのか。
どちらなのかどうかも判断できないまま、男に招集された約30人程の人々がこのファミリーハウスに取り残された。
「なんやよう分からへんけども……とりあえず自己紹介でもしとかへんか? 俺ら互いの事も何も知らへんし、これから多分俺らは協力してかなあかん存在や。互いの事を知っておくのは大事やろ」
「エリルの言う通りだ。簡単で良いから……そうだな、連携を取る為にも名前の自分の異能を伝えるところから始めるか。まずは俺からでいいか?」
エリルの誘導に対してシアンが了承する。
提案者はエリルだが、どう考えてもこの状況で一番リーダーに向いてそうな存在はシアンだ。
周囲には大人も存在しており、いや寧ろどちらかと言えば自分達が回りより若い立場にある事から、本来ならそう言った成人組にリーダーを任せるべきなのだが、肝心の大人達は見ての通り先程の戦闘で全く役に立っていなかった。
率先して対峙した自分達や、協力姿勢を見せたジェシカと被害には合ったが真っ先に立ち向かったグランの何れかが今ここで最も発言力が強い状況にあるのは間違いないだろう。
案の定で言うべきか、シアンの発言に反対する者は誰も居なかった。
「俺はシアン・ローゼンクランツ、二十歳だ。俺達の世界とは異なる世界から来た者も居る様だから説明するが、地球と言う星の日本と言う国から来た。現世では『無限一刀流』と言う武術を学んでいたが……お陰である程度戦える力を備えていると思う。与えられた異能は『切断』というものだった。先程のミッションで使ってみたが、どうやら触れている対象を文字通り『切断』する能力らしい。よろしく頼む」
やはりエリルの予想通り、彼は武術を学んでいた様だ。
『無限一刀流』と言う武術は『知らない』が、聞く限りでは刀を使う様な武術なのだろうか?
それにしても成人していたとは少し驚きだった。
何となくまだ十代なのかも知れないと思ったのは何故だろうか。
しかし言われてみればこのリーダーシップや落ち着き様は成人男性だからこそ醸し出せる雰囲気なのかもしれない。
背中まで伸びる紫色の髪は綺麗なストレートを描いており、右目が隠れる程度に流されたその髪から覗く彼の素顔は、男の自分でも端正な作りだと思える程に整っている。
所謂日本人独特のアーモンドアイと称される大きな目をしており、高い鼻に薄い唇とシャープな顎先と、中々に恨めしい程の見た目をしていると感じられる。
彼の横顔を見つめながらそんな感想を抱いていると、突然彼がこちらへ視線を向けて顎を軽くしゃくりあげた。
あぁ、続いて俺に自己紹介をしろと言っているのだろう。
そう捉えたエリルは、軽く頷きを返してから口を開く。
「エリル・エトワール。俺もシアンと同じ星の同じ国から来た。知り合いとはちゃうけどな、そんで俺も一応『無形影棍流』と言う武術を習っとってな、『槍の型』と言われる派生流派やけど師範代を任されてるんや」
「ん……?」
自己紹介中、何やらシアンが一瞬変な反応を見せたが、一端気にせずそのまましゃべり続ける。
「年齢は十七歳、異能は……なんやよぉ分からへんけど『100倍』っちゅうもんを授かっとる。出来ればこの100倍が何を意味しているのか確かめる事に協力したってくれ」
自己紹介を終えた後、エリルは横に顔を向けてケヴィンへと視線を送る。
それに気づいたらしくケヴィンは軽く舌打ちしながらも言葉を連ねた。
どうやらあまりコミュニケーション能力は高くなさそうだ。
と彼への印象を持ったエリルであった。
「ケヴィン・ベンティスカ……『クロイツェン』と呼ばれる星のセントラルアースと言う国から来た。年齢は17……異能は『エレメント』だ」
必要最低限の情報のみの発言。
あまり交流を持とうと言う考えは無い様だ。
しかし発言で分かったのはやはり彼は『異世界人』であると言う事。
彼からすればこちらも異世界人なのだろうが、聞いた事も無い星と国名からそもそもの世界が違う事が判明する。
鷲の様な鋭い目を持っており、顎辺りまで伸びた茶髪から覗くその端正な顔つきは、シアンのそれに勝るとも劣らない美形を誇っていた。
シアンもケヴィンも地球で言う『アジア系』の見た目をしており、シアンがほんの少しだけ白人の血が入ってそうな見た目をしてるのに、ケヴィンに至ってはKPOPアーティストに居そうなとても綺麗な顔付きをしている。
身長は170程だろうか。
やや平均身長よりは低いが、それでも身のこなしからして相当肉体は鍛えられている事だろう事が分かる。
ケヴィンはそっぽを向いてしまい順番があやふやになってしまったが、シアンがグランへと視線を向けた事で彼が頷き、自己紹介を始める。
「グラン・リーバ。『オールガイア』と呼ばれる星の『ジパング』と言う国から来た。年齢は十九で異能は『投擲』だ……先程の戦闘で見た通りあまり効果は望めない異能かもしれないが……迷惑はかけない様になんとかやっていくつもりだが……フォローを頼む事もあるかもしれない。よろしく頼む」
彼自身もかなり大柄な人物だ。
シアンよりも高く体の幅の中々大きい。
190程の身長はあるだろう。
肉付きが良いからか若干の丸顔で、彼もアジア系の見た目をしているが童顔なのか少年の様にも見える。
先の戦いでは散々な目に有った事により若干自信を喪失している様に見えるが、後で彼の投擲は十分に通用する素質がある事を伝えて置く事にしよう。
それよりも気になったのは彼が『出身国』として口にした国名だ。
『ジパング』と言えば確か……。
「ジパングと言うのか? 星の名前からして俺達とは違う世界の人間だよな?」
「あぁ、俺の国の名前がジパングって言うんだ。何か有るのか?」
「さっき説明した俺達の住んで居た『日本』て国名なのだが、この国は昔『ジパング』と言う名前だった事が有るんだ。偶然にしては奇跡の様な一致だと思ってな」
エリルが気になった部分は正にそこであった。
日本が昔『ジパング』と言う国名である事は日本人なら誰しもが知っている事だが、それ同名の国が異世界であろう『オールガイア』と言う星に存在しているとは偶然では片付かない事の様にも思える。
「そうなのか? 他にも一致する国名とか有ったら何かヒントになるかもしれないな。『セルネリカ』や『アルファス』なんてのはどうだ?」
「いや……残念ながらそういう国名は俺達の星には無かった筈だ。歴史に詳しい訳では無いが、そう言った地名は耳にした事が無い。……本当にただの偶然なのだろうか」
「そうか……じゃあ流石に『アトランティス』も無いだろうな」
「アトランティス!?」
再びグランの言い放った言葉に食いついたシアン。
無理もないだろう。
アトランティスと言えば地球で最もポピュラーな『幻の国』だ。
ムー大陸に並ぶどちらかと言えば伝説的な、悪い言い方をすれば『都市伝説』的な大陸の名称だ。
確かにセルネリカやアルファス等は知らないが、ジパングと言いアトランティスと言い、あまり陰謀論等に興味の無い自分でも偶然では無いと言わざるを得ない状況である事は分かる。