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そう言った存在


「おやおやぁ? ポイント配分に大分偏りがあるねぇ。ちょっと僕の予想とは違う展開だなぁ。ケヴィン、君が口だけじゃなくちゃんと優秀なのは分かったけどぉ、でも君も理解したでしょ? このまま繰り返しても短期間でマイナスポイントを取り返すのは無理だってぇ。早く僕に頭下げなよぉ、許してあげるからさぁ」


「黙れクソ道化師が。全部がテメェの思うままになると思うなよ」


「まったくぅ頑固なんだからぁ。ま、結果さえ出してくれたらそれでいいんだけどねぇ。にしても意外なのは君かなぁ、あれだけクロウラビットにビビらされてたのに、28ポイントも取るとかやるじゃん」


仮面の男はジェシカと思われる人物の方へ向きながら言葉を連ねた。


やはり三人目のポイント獲得者であるジェシカと言う名は彼女の物だったらしい。


となればやはり自分が彼女を異能を借りて戦ったことがポイント獲得に繋がったのだろう。


「あ……私は……違くて……」


「んー? なんだぁい?」


男は恐る恐る喋るジェシカの聞き取り辛い声を拾おうとしたのか、左耳に手を添えながら彼女へと近づく。


目の錯覚か、彼が彼女に傾けた左耳がやたらと大きくなっている様にも見えた。


「ひぃっ!」


彼女の表情は忽ち恐怖に染まり、尻もちを付きながら後方へ後ずさりしていった。


先程まで介護されていた投擲の男が、冷や汗を流しながらも彼女を庇おうと右手を彼女の方へと伸ばしていた。


「あららぁ、なぁんか怖がられてるなぁ僕ぅ。こぉんなにお洒落なのにショックだなぁ」


何処から出したのか、手鏡を自分の顔に向けながら仮面の位置を調整する様な仕草を取る男。


「でもぉ、やっぱり君がクロウラビット倒すのは無理でしょ。誰かに手伝って貰ったとかそんなとこかなぁ?」


「……俺や」


何をそんなに事実に拘りを見せているのか、どうしても納得いく答えを出そうとしていた仮面の男に向かってエリルは言葉を投げかけた。


グリンと効果音がしそうな程に、ほぼ真後ろに居る自分に向けて首だけを回して顔を向ける仮面の男。


行動一つ一つが気持ち悪くて鳥肌が立ちそうな気分になる。


「俺が彼女の異能を借りてウサギ共を蹴散らした、それでえぇやろ。なんかあかん事でもしたんか。ポイント取り上げるとでも言うつもりなんか?」


「あーなる程ぉ。そう言うパターンねぇ。ってぇ事は彼女の異能は何かを具現化するタイプの物でぇ、君がそれを借りて戦った訳だぁ。それなら納得さぁ、君は最初からみょーーーに冷静だったからねぇ、そこの頑固なケヴィン君と紫髪のシアン君、最初に魔物の前に立ちはだかった『グラン』君とエリル君。君達四人にはちょーーーっと期待していたんだよねぇ。でもエリル、君もちゃんと自分の異能を使わなきゃダメだよぉ? 自分の力で倒さなきゃ今回みたいに他の人にポイントが流れちゃうから気を付けなきゃだよぉ? 勿論結果的には君達の力で魔物を倒したからぁ、ポイントを取り上げるなんて事しないから安心してねぇ」


ケヴィンのポイントを堂々と取り上げておきながら何を言っているんだとエリルは思ったが、そこは口に出さない。


ただでさえポイント獲得の手段が無い自分が、同じ様に怒りを買ってポイントを巻き上げられたらたまったものじゃないからだ。


……。


エリルは自分のその思考回路に己自身で疑問を持った。


やはり何処かでこの現状を受け入れてしまっている自分が居る。


死と隣り合わせの戦いを楽しんでいた節も見え、自分の知らなかった自分の裏の顔を知った事で軽く動揺していた。


「あんたは俺達の異能力を全部把握している訳じゃないのか?」


と、口にするのはシアンだ。


会話の流れを聞けば、確かにこの『デスゲーム』の様なシステムの運営者的な立ち位置にある彼が、まるでこちらの異能を初めて知ったかの様な言い回しをしている事に多少の違和感を覚えたのも事実だ。


「僕『達』にも色々制約があってねぇ。出来る事と出来ない事が結構はっきりとしてるんだよねぇ。僕が出来たのは異世界で死んだ君達をそのままここに召喚する事とぉ、君達が貯めたポイントを受け取って代わりに景品を与える事とぉ、この部屋と戦闘の会場を行き来させる事と、戻ってきた時にグラン君にした様に君達の体の環境を『最適化』する事がとりあえず出来る事かなぁ。もっと色々出来るけど知ったところでぇって感じだしぃ」


最適化……なるほど、リセットでは無く最適化。


今の自分があるべき最高のパフォーマンスが出来る状態に持っていく様な物なのだろう。


そう言えばとエリルは思い出した様に右手の甲へ視線を向けるが、やはり『グラン』と呼ばれた男と同じ様に、傷ついた手が元通りに戻っていた。


これが最適かの効果であるのなら、確かにグランが口にした『痛めていた左手』のそれさえも消えていた事に納得が行く。


恐らく腰痛を持っていたりする者も、彼の力に掛かればそう言った類の物もきれいさっぱりと無くなってしまうのだろう。


どうせなら自分の『猫背』も直してくれないかとか適当な事を考えるエリルであった。


しかしそれよりもっと他に気になる発言が仮面の男から飛び出した事も見逃さない。


「テメェ……今『達』つったか? こんな訳わかんねぇ事をしでかしてる奴はテメェだけじゃねぇって事か?」


どうやらケヴィンにもそれが聞こえていた様で、自分の代わりに質問を投げかけてくれた。


「あちゃー、しまったなぁ。んー、失言した僕が悪いんだけどぉ、今はまだその情報を伝えるのは『早い』かなぁ」


露骨に隠す訳では無く、むしろ自分以外にも『そう言った存在』が居る事を認めながら言葉を続けた仮面の男。


つまり……このデスゲームに巻き込まれた不幸な存在は……自分達だけでは無いと言う事か。


「まぁ色々とねぇ? 聞きたい事あるだろうけどぉ、時が来たら言える事もあるしぃ、それまでは我慢しててねぇ? 今僕から言える事はぁ、精々僕の為にしっかりと生き残ってよねぇって事ぉ。それじゃまた明日ミッションが始まる時にでも来るよぉ。ミッションは一日一回。ポイントが欲しければその一回を大切にしなきゃダメだよぉ? じゃあねぇ~」


言いながら男の身体は、胴辺りで何かに吸い込まれる様にくるくると回りながら、煙の様に吸収されて消えて行った。


何か人に気持ち悪いと思わせる事が目的でその様な行動を取っているとしか思えない彼の行動に、エリルは幾度目かの嫌悪感を感じるのであった。

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