第7話:オムツ=セイカツの覚悟
ケツは時に万金に値する。
オムツ=セイカツの震える足は、部隊長のケツに、濃い足跡をつけた。
彼の心の中には天秤があった。
自分の中のケツの矜持か、一族の存続か。
オムツはケツの一族に伝わるあることわざを思い出していた。
「出てくるものが糞か屁か分からないならば糞だと思いなさい」
つまりどちらを選んでも悪い方向に転ぶならば、自分だけが損するものを選びなさいという、尊い教えだ。
(糞、か・・・。私はもう糞まみれだな。)
しかし誰が彼を責められよう。屁をすれば下着は汚れぬ。糞をすればケツが汚れる。
彼はそのことを承知の上で、ケツを踏む、つまり糞をすることを選んだのだ。
「よし、次!」
部隊長の怒号がオムツの耳を掠めた。オムツは列に戻りケツ踏みが終わるのを待った。
むにゅっ。ぷにっ。
ケツを踏みつけるむごい音がオムツに聞こえてくる。しかし目を背ければ怪しまれるかも知れなかった。
「・・・・・・なぁ新入り、知ってるか。」
隣の兵が話しかけてくる。
「なにをでしょうか」
「最近ここに運び込まれたっつうお宝だよ、お宝!
「・・・・・・お宝、ですか?」
「ああ、なんでも太陽みてぇにピッカピカの翡翠でできた人形でよ、相当すごいシロモノらしいぜ」
それをオムツは聞き逃さなかった。
(間違いない!!!ケツ毛だ!!)
「それは興味深い。それはここのどこに運び込まれたので?」
「いい食いつきじゃねえか新入り、それがよ、南の方の宝物庫にあるって話だ。噂に過ぎねぇけどな」
「南ですか。」
そこで部隊長の号令が響いた。
「全員気を付け!!この部隊では蛮族の密偵は発見できなかった!諸君は引き続き訓練に励むよう!」
オムツは胸を撫で下ろした。
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やがて日が暮れると訓練は終わった。オムツの目は翡翠を求めて光っていた。
「南の宝物庫か・・・・・・。
しかし検査も厳しくなっておるだろうし、いかがしたものか・・・・・・」
昼間は太陽の光で容易に発見され、夜は門番が増やされる。しかもただでさえ密偵発覚で検問は厳しくなっている。
「いや、待てよ!!!顿克茨秘伝の"アレ”を使えば!!!」
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「う、うわぁぁぁぁ!!!!」
「こ、ここ、こっちにくるなぁぁ!!!バケモノめ!!!!!!」
懐朔鎮南部は混乱に包まれていた。
「妖怪だ!!妖怪が出たぞ!!!!」
(やはりこれは使える!!!さすがケツの知恵!!)
オムツはひとりほくそ笑んだ。目論見は大成功したのだ。
「おい、なんだ!!あの素早く動く光は!!!」
「クソッ、目がやられた!!」
半結。顿克茨秘伝のケツ技である。満月の日のみ使うことができる、潜入における最終奥義。
ケツの一族は生涯ケツを磨き続ける。そのケツは光を反射するほどに輝いている。
半結はそのケツを丸出しにし、腰を高く上げ、月の光を反射することにより敵の目をくらませる技だ。そしてこの技の真価は目くらましにとどまらない。
ケツを高く上げることにより、肛門が直に空気に触れ、より感覚が研ぎ澄まされるのだ。
ケツの一族にとって肛門は第二の耳に等しい。
今、オムツの肛門は風を読んでいた。夜の冷たい風を。
「やや、南東か。好機ッ!」
オムツの肛門が、まるで菊の花が花粉を撒くように開いた。そしてそこからは芳醇ともいうべき香りの屁が放出される!
「今度は屁だ!!」
風向きは南東。その匂いは直接門番の鼻に———
「ぶほぁっ!?」
「ぐぼっ!?」
次々と鼻を押さえて倒れこんでいく。たとえどんなに辛いものを食べようとも、どんなに強く叩かれようともそれは所詮間接的な刺激にすぎない。
しかし、「鼻」という、極めて脳に近い部位に限っては、極限まで濃縮された匂いは凶器となり得るのだ。
バタッ。ドサッ。
「貴様!」
門番の一人が襲いかかってくる。しかしオムツは冷静に跳んだ。
「なんだ・・・・・・?ケツが回転している・・・・・・?」
オムツは空中を舞い、何度か回った。そして。
ぷにっ。
門番の顔に肛門を叩きつけた。
「ケツを舐めるでないわ!!」
牛の角笛のような屁が響き渡った。
真正面から屁を喰らった門番は意識を食らってすぐさま倒れこんだ。
「こうしている場合ではない・・・・・・ケツ毛を探さねば!!」
オムツ=セイカツはまた走り出した。
屁を10秒以上出せる人っていないらしいですよ。




