第五話:モモジリ、絶体絶命
がんばれモモジリ。
「どうされたかな?時間はあるのだ。熟読されればよかろう。それとも・・・速く読まなければならない理由でも?」
破落汗が、重苦しく言う。
モモジリは振り返り、破落汗の怪しげな顔を見た。
一度は収まったモモジリの鳴動が、再び、うねるように大きく、始まる。
「いや、ここの行政記録は大変膨大でして、しかも来たばかりですから、何がどこにあるのか分からないのですよ。それで片っ端から読んでいたと言うわけです。」
破落汗は大仰に顎を撫でた。
そして怪訝な顔をし、モモジリにこう尋ねた。
「書架標が付いているのにか?」
「・・・」
モモジリは押し黙った。
その沈黙を見て、破落汗は続けた。
「昔こんなことがあったそうだ。とある忙しい日。突如役人の異動の旨の書簡が届く。それから数日後、その役人はやってきて、聞き馴染みのない名を名乗る。そして名乗った本人も、あまり言い慣れていないような・・・。
その役人は後日、鞭打ち1000回の上斬首に処されたそうだ。敵国の間者であったそうな。」
モモジリの首筋を、冷たい汗が流れ落ちる。思わず、苦い唾を飲み込む。
「それは・・・大変なことがあったものだな。私は仕事に戻ってよろしいか?」
「まあ待ちなされ。まだ昼ではないか。少し話していくのも悪くなかろう・・・。闕殿。ところで、私は先ほどまで中央の異動記録を閲覧していたのだが、何の怠慢か、貴殿の名が見当たらなくてな。中央の役人には困ったものだ。なあ?闕殿?」
「・・・そうであるな。私は命じられてきたと言うのに。少し苦言を呈しても許されるであろう」
「まったく同感だ。さて、私は昼餉を食べようと思うが、貴殿もそろそろ腹が減った頃であろう。ともにいかがか?」
提案の形を取りつつも、その言葉は鋭利な槍のようにモモジリの首筋を当てがい、断ることを許さない。
「昼餉、ですか。ぜひ私もご一緒したい。この辺りの食事が気になるものでな。」
「それでは着いてきてくだされ」
モモジリと破落汗は扉を開け、橋を渡る。
モモジリの耳に、橋の軋む木の音が、妙に突っかかる。
橋を渡り終え、破落汗が扉を開けた。
「捕えろ」
破落汗がそう呟くと、武装した門番がモモジリを取り押さえた。
「なっ!?これはどういうおつもりか!?」
「北魏の官僚は世襲だ。平民ごときがなれるものか!それに、貴様のその服だ!先ほど挨拶に来た時は前を向いていてわからなかったが、書庫で背後を見て気付いたのだ!貴様のその服、ケツが丸出しではないか!」
ケツの一族の伝統衣装、「コウモンヒクヒク」。そのデザインは、ケツの部分に大きな穴が空いていることが特徴である。
モモジリは、この衣装に倣って、ケツの部分を切り抜いてしまっていたのであった。
「貴様!ケツの一族だな!!」
破落汗が鬼の形相でモモジリに怒気を浴びせる。
「クソッ、ケツ心地が悪いから切ったのが間違いであったか!」
「衛兵!こやつを牢に入れておけ!」
モモジリの桃尻が引きずられ、牢へと連れていかれる。
「破落汗ッ!貴様の計画は必ず止める!我らケツは貴様を必ず切れ痔にする!!我々は決して死なぬ!!」
モモジリはケツと怒りを露にし、破落汗を怒鳴りつけた。
その叫びは、破落汗には届かない。
ただ、牢の中でこだまするだけであった・・・




