第三話:集ケツ
ケツ毛を奪った大国は北魏に変更しました。斉だと遠いので。
「我が君、準備はできておられますか。」
側近となったモモジリが言う。
カレーアジノウンコは、ケツの支族の長や有力者が集まる会議のため、東部、顿克茨にある集会所へ向かうところだった。
そこでは半年前に奪われた、ケツ毛の奪還に向けた作戦や、今後の方針を話し合う予定である。
「正直、ケツから火が出そうなほど緊張している」
「それでは長として対等に話し合えませんよ。ケツの力を抜いて、自然体でいてください」
「難しいな。いつもケツには力を入れっぱなしであったからな。まあ、努力しよう」
「では、馬車に乗ってください」
そう言ってモモジリは、幌の上に壮麗なケツの置物が飾られた馬車を指し示した。
だがカレーアジノウンコは、モモジリの手を押しのけて、厩舎の扉を開けた。
「私はこいつに乗っていくよ」
光沢のある黒毛に、棍棒のように太い足。その馬は———
「ハミケツですか!」
カレーアジノウンコの父、ヘガデタゾの愛馬であった。
「こいつに乗らなば、戦士の名が廃るというものだ」
カレーアジノウンコは、ハミケツの鼻を撫で、言葉が通じたようにその目を見た。
「父上が遺した馬だ。槍を頂いた以上、私が乗らねばならぬ定めだろう」
カレーアジノウンコはハミケツに飛び乗り、大きく拳を掲げた。
モモジリも楽しげに後ろに飛び乗る。
「行くぞ、モモジリ!」
「はっ。どこまでも!」
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顿克茨、集会所。すでに格里の長を除く全員が集まっていた。
「どこにケツ毛があるかもわからんのに、北魏を攻めるというのか!愚かな!」
会議は紛糾していた。怒号が飛び交い、意見は一向にまとまらなかった。
顿克茨の長、ケツ・シリアナチイサイ=ノグソシカシマセンは、カレーアジノウンコを怒鳴った。
「我が顿克茨は無駄死になどせん!ケツ毛の位置がわからなければ顿克茨は動かんぞ!」
顿克茨は北魏と国境を接し、常にその脅威にさらされてきた。北魏の恐ろしさを一番理解しているのは、顿克茨である。
「しかし、戦わなければ、ケツ毛を守って討ち死にした戦士たちに顔向けできますまい!」
カレーアジノウンコは果敢に食いつく。母に誓ったのだ。ケツ毛を取り返し、父の棺に収めると。
「それに、ケツ毛は六鎮の何処かにあるに違いないはず!密偵を遣わし、情報を手に入れればケツ毛は奪還できよう!」
続けて反論したカレーアジノウンコに、顿克茨の長シリアナチイサイはさらなる反駁を交わす。
「六鎮・・・北魏の国境防衛のための拠点か・・・しかしあれらはいずれも強大にして堅牢。密偵を遣わしても露見し、それを口実に大規模な侵略が始まるのが見えるようだわい!」
「密偵とはそういったところに忍び込むものではないか!ケツ毛がなければ我らの儀式は何も成り立たぬ!ケツ毛の居場所を突き止めるには、これしかないのだ!」
「攻めれば滅びると言っておろうが!」
「攻めねば滅ぶと言っているのだ!」
突如、扉が怒ったような音を立てて激しく開いた。二人の視線はその扉に注がれ、口論は中断した。まばゆい太陽の光とともに、一人の少女が現れた。年はカレーアジノウンコと同じに見えた。
「格里の長、ケツ・シャバシャバウンチ=ユルウンチポケット様が到着されました。」
彼女のそばにいた従者がそう告げた。幼さが残りつつも、決意のある顔。女戦士の生き字引きと言っても過言ない、引き締まった顔だった。
「我が父、ケツ・スカシッペ=ユルウンチポケットに代わり馳せ参じました、ケツ・シャバシャバウンチ=ユルウンチポケットと申します。お二方の意見を教えていただけますか?」
少女は美麗な声でそう述べると、近くにあった椅子に腰掛け、出された※ケッ茶を飲み始めた。
(※牝馬のケツで挟んで熟成した茶葉を淹れたもの)
ケツアナチイサイが話し始めた。
「シャバシャバウンチ殿。存じ上げているだろうが、ケツ毛の居場所はいまだ不明だ。この状態で北魏に攻め込むのは自殺行為と言えよう。慎重に行くべきだ」
カレーアジノウンコはすかさず反駁する。
「いや、攻めねばならん。ケツ毛の価値は奴らにはわからないのだから、どんな扱いをされるか知れたものではない。密偵を出して、ケツ毛の居場所を突き止め、すぐさま攻め込むべきだ」
意見がまとまらない。二人はお互いを睨み合った。そして同時に、
「「ケツのためにはこうするべきだ!」」
と、声がぶつかった。
シャバシャバウンチはそんな二人を見やり、話し始めた。
「双方の意見、非常に理にかなったものと思われます。ですが、ケツアナチイサイ様はいささか慎重すぎ、カレーアジノウンコ様は積極的すぎると見えます。ですので、私から折衷案を出させていただくというのはいかがでしょう?」
二人は考えた。この少女がどれほど戦いを知っているのか。どれほど明晰な頭脳を持っているのか。
二人が結論に到達するのは同時だった。たとえ未熟な意見であったとしても、聞く価値はあると。
「申してみよ」
先に口を開いたのはカレーアジノウンコだった。
「密偵は送ります。ですが、ケツ毛がどの六鎮にあるかで、策を変えてはいかがでしょう?強大な六鎮なのであれば、慎重に。勝機が見える六鎮なのであれば、即座に攻撃を。日和見と申されるかも知れませぬが、ケツのためです。」
「なるほど」
とカレーアジノウンコが言った。
「それならば損失も抑えられ、ケツ毛を確実に取り返せる。良い案だ。ケツアナチイサイ殿、異論はあるか?」
「いや、ないな。私もその案に賛成だ。」
「それでは、各支族から2人ずつ密偵を出しましょう。我が支族、格里からは、この者たちを。
「「はっ」」
「名乗りなさい」
「コウモン=ガバガバでございます」
「フンドシ=スケスケでございます。我ら一同、シャバシャバウンチ様には大恩があります。この身を尽くし、ケツ毛を探し当ててまいります。」
「よろしく頼みますよ、コウモン、フンドシ」
「それでは、次は我らが支族、顿克茨だな。我らからは、オケツとオマルの兄弟を密偵に出そう。顿克茨でも屈指の強さを誇る2人だ。密偵にして不足ない」
「では、普利凯茨からは・・・」
密偵。その重要な責務を任せられるのは誰か。カレーアジノウンコは考えた。最も信頼がおけ、実績もある者。
「モモジリ。頼めるか?」
「私でよろしいのですか?」
「いや、お前が望まないなら、いいんだ」
「いえ、ケツのためになるのなら、このモモジリ、喜んでこの大役、引き受けさせていただきます!」
モモジリは感無量といったふうに、大きくケツを突き出した。
「それから、もう1人の密偵は、お前の手で選んでくれ。お前がもっとも信頼できると思うものを、お前の手で。」
「承りました!」
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会議が終わり、扉から外に出る時だった。
「ケツアナチイサイ殿。シャバシャバウンチ殿。少しお時間いただけるか。」
カレーアジノウンコはそう言って、馬車に乗ろうとする2人を引き留めた。
「まずはケツアナチイサイ殿。済まなかった。私はケツを想うばかりに、熱くなり過ぎてしまった。貴君に対し、多大な無礼を働いた。この場を借りてお詫びしたい。」
ケツアナチイサイは少し驚いた表情をした後、そのがっしりとした体格からは想像もできないような、優しい笑顔で笑った。
「良いのだ、カレーアジノウンコ殿。ケツを背負う身なのはお互い同じ。そして熱くなっていたのもお互い同じ。むしろ、故郷のためにそこまで熱くなれる我らを、誇ろうではないか。」
「ケツアナチイサイ殿・・・!かたじけない。貴君はなんとケツの大きい御仁なのだ!我ら両支族、共に高め合って行きたいものだ!」
「全く同感である!」
2人は顔を見合わせて、大きく笑った。
笑い声が、辺りに響き渡った。
「すみません、私は・・・?」
ほったらかしにされていたシャバシャバウンチが、恐る恐る割り込んだ。
「ああ、すまない。シャバシャバウンチ殿。私は、貴君に大変助けられた。あのままであれば、結論はいつまでも出ず、顿克茨と普利凯茨の仲までも険悪なものとなってしまっていただろう。貴君のおかげで、無駄な争いを避けられた。心から感謝したい。」
そういうとカレーアジノウンコはケツをシャバシャバウンチへ向けて最大限に突き出し左右に振り、最大限の敬意を払った。
「ケツを下げてくださいませんか。カレーアジノウンコ様。私は父の代わりを果たしただけのこと。礼は、父になさってください。」
「では、後日お父様にも礼をいうとしよう。そなたのように、美しく、聡明な才女を育て上げたからには、さぞ立派なお方に違いない。
それでは、また会うとしよう。御二方」
「ええ、もちろんです」
「ああ、もちろんのこと」
彼らはそれぞれの馬車に、あるものは馬に乗り込み、守るべき地へと帰っていった。
そして、カレーアジノウンコの心に、桃色の風が吹き始めていた・・・
私のウンチは硬めです




