第一話:ケツ・カレーアジノウンコ=ツイデニオナラーモの誕生
これは普通の軍記物語である。普通の。
日は上りかけ、月が瞼を閉じる。信じ難いほど静かな夜に、産声は響き渡った。
赤子とは思えぬほどにふてぶてとした臀部であった。
母は感動に咽び泣き脱糞し、父は放屁で七色の旋律を奏で祝福した。
子は古ケツ語で「どこまでも響き渡る屁」を意味する"カレーアジノウンコ"と名付けられた。
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「母上、御座いますか」
時は463年、モンゴル西部のケツの支族、普利凯茨にて、快活な声が聞こえてくる。
ケツ・カレーアジノウンコ=ツイデニオナラーモ。普利凯茨の族長、ケツ・ヘガデタゾ=ツイデニオナラーモの息子である。
彼の年はもう15に届き、鋭利な瞳と逞しい臀部は族長の座をいずれ継ぐものとして不足ないものであった。
「折り入ってご相談がございます」
「なんとでも申してみなさい」
「こたびの戦、私に指揮を取らせてはもらえませぬか」
普利凯茨には戦わねばならぬ理由があった。
ケツの一族の中でも最も格式高いこの支族には、始祖ケツ・ゴウモウを模った翡翠の人形である「ケツ毛」が、代々族長に伝えられてきた。
その輝きはまるでケツを拭くのに使う、広葉樹の葉のようであった。武勲をあげ、普利凯茨の長に謁見しケツ毛を一目見ることが、ケツの戦士の生涯の目標となることは少なくない。
そのケツ毛が、大国、北魏により強奪されたのだ。
それは北の支族、格里の長の就任にあたり、普利凯茨からケツ毛を輸送している最中のことであった。
突如、醜い鉄の鎧に身を包んだ兵どもが馬車を取り囲みこう告げたのだ。
「ケツ毛を置いていけば手は出さぬ。しかし渡さぬというのなら、切れ痔になること覚悟せよ」
ケツの戦士は、大きな否を突きつけた。
北魏の兵士の猛攻が始まった。
戦いは苛烈であった。
格里の護衛団たちも、普利凯茨の戦士たちも勇猛果敢に戦った。
彼らは圧倒的なまでに強靭な臀部で、敵どもを次々と片付けていった。
だが、あまりにも敵は多かった。
ケツの兵士たちは両支族合わせて百といったところ。
北魏の兵は二千近くはいただろう。彼らからすれば、ケツの兵士たちなど塵に等しかった。
戦いが終わった時、北魏の兵は四百まで減っていた。おのおのが疲労の表情を浮かべ、もはや立つ気力すらないといったふうだった。
だがそこに、ケツの兵士たちの姿は、ひとつもなかった・・・。
かくしてケツ毛は、北魏の手に渡った。
ケツ毛はケツの一族にとって命よりも、臀部よりも尊ぶべきもの。
カレーアジノウンコの支族である普利凯茨、北部の格里、そしてケツの一族最強と歌われる、東部の顿克茨。
波拉吉诺尔と呼ばれるそれぞれの支族の集落が連合し、普利凯茨主導となってケツ毛奪還作戦を計画していた。
カレーアジノウンコは、その指揮を取ろうというのである。生半可なことではない。
「カレーアジノウンコよ、あなたに務まるとお考えですか。」
母の答えはカレーアジノウンコの想定通りだった。だがカレーアジノウンコは怯まない。
「母上。父上の臀部はもう疲れ切っています。あちこちに切れ痔が見え、血便は日常のこととなりました。私はこれ以上、父上に苦労をさせたくないのです。どうか、どうか。」
カレーアジノウンコは、床にケツを擦り付け、母に懇願した。彼の真っ白で引き締まったケツが、床の絨毯に擦れ赤くなる。
母は逡巡した。確かに、夫はあと2、3回戦に出れば、もう隠居の身。ここらでカレーアジノウンコに経験を積ませなければならぬときかもしれない。だが、こたびの戦は生兵法では務まらぬ、重大な戦。どうするべきか。どうせぬべきか。カレーアジノウンコが尻を桃にして※いる間、母はうんうん唸って悩み、悩みかねた。
そんな時だった。
父が死んだ。
(※ケツの一族の慣用句で、地面にケツを擦り付けて懇願する様子。尻が桃のように赤くなることから)
これはいたって普通の軍記物語である。どこまでも普通の。




