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生と死のはざま~クロアゲハに誘われて~

作者: えあち

クロアゲハという真っ黒なアゲハチョウがいる。クロアゲハは夕暮れ時に活発に飛びまわる。夕日に照らされて明るい空と、陽の当らない暗くなった群青の空の境目を飛ぶという。その習性から生と死の世界を行きかう蝶だと言われている。まるであの世に誘う案内人のような扱いを受けているという。それを聞いた私は無性に知りたくなった。無理やりその暗黒と夕暮れの境目を飛んでいるクロアゲハを捕まえて、そのまま標本にしてしまったらどうなるのだろう。三途の川の案内人や死神を〇してしまったら、ずっとその待機場所に閉じ込めてもらえるのだろうか。現世でも死の世界でもない、そんな間が知りたくて、あこがれて、クロアゲハを捕まえて殺し続けた。標本にし続けた。どれだけ捕まえても、何も起こらなかった。そんなのオカルトだとわかりきっていたけど、やめることができなかった。存在もするかもわからない天国と現世のはざまを無性に求めていた。そもそも天国自体も存在するか怪しいのに。最初のうちは生物サークルの人に虫好きだと勘違いされることもあった。「天国と現世のはざまに行きたいんです」というと、生物サークルの部長に変な人化のように扱われた。なんなら今ではそれは乱獲だとして止められるようになった。何でこんなことをしているんだろう。きっとこんなオカルト普通なら信じることはないだろう。せいぜい、おしゃれなおとぎ話もあるんだなで終わる程度だろう。しかし、私は見たのだ。母が死んだ日の夕暮れクロアゲハが飛んでいく姿を。母は大変な病で病院で何個も機械をつけて、激痛にも耐えないと生きれない身体だった。何度も母親は死にたいと言っていたと思う。だけど、死んでしまったあの日どうしても母親がいなくなったことがむなしかった。もう無に帰したことが悲しかった。迷信くさいけど、クロアゲハが死の、無の世界に運びきってしまった気がして寂しかったのだ。母親が死ぬのは悲しかった。かといってそのまま生きさせるのは酷だった。じゃあ素直に「天国に行ったときにまた二人で会える」なんてよくある信仰を信じればよかったのに、なぜか死んでしまったらもう終わりなきがしたし、また会えるって気がしなかった。だからよく分からないけど、生と死の間なら信じられる気がした。それなら母親は激痛に苦しむこともなければ無になってしまうことはない。三途の川なんてのはいい表現で、生と死の間なんて無機質な空間かもしれない。それでもよかった、何もなくてもよかった。母親が痛みに悶えずに私と話してくれるだけでよかった。どんな狭い白い何もない空間でも耐えれる気がした。だから何回も案内人を夕方に捕まえて、殺して、標本にした。壁じゅうクロアゲハの標本で埋まっていて不気味になっていた。ある晩夢を見た。クロアゲハの夢だった。殺してきたクロアゲハが語り掛けてくる夢だった。「私たちを殺めたところで、人は歩むのです」「生であれ、死であれ人は最後には決断するのです」「あなたのお母さんは天からあなたを見守ることを決めたのです」「あなたのお母さんは言ってましたよ、あなたもそろそろはざまにいないで前を向いてほしいって」「死んでしまったらそこで待ってるから歩みを止めないでって」無数のクロアゲハは夢の中で話しかけてきた。そこは三途の川ではなく、真っ白の立方体の狭い空間で、扉が二つあった。クロアゲハは右の扉に私を誘った。目を覚ますと私は病院にいた。私は首吊りをしようとしたのだ。死ぬつもりなんてないのに。はざまに行きたいがためだけに。クロアゲハに囲まれて。でもクロアゲハはお母さんは生きろと私に伝えた。そのまま前を向いてあるけと私に伝えた。クロアゲハは案内人なんかではなくて、前に進むのをためらっている人に歩みを進める勇気を与える存在なのかもしれない。その日から私はクロアゲハを採るのを辞めた。

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