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05.

作業をしている葬儀屋の持っている花は、アンスリウムではなかった。

祭壇の穴を埋めようとする度に、色がどんどん不規則になっていく。

葬儀屋の顔はますます青くなる。




釆原(うねはら)は、二階で放られた花が、束であったことに思い当たる。

束が抜けたあとになったこの花祭壇と、関係があるのだろうか?




釆原は葬儀屋――彼は小柄だった――その小柄な葬儀屋に声を掛けようとした。

だが葬儀屋は、釆原の存在を感じ取るなり、逃げ出さんばかりだった。

飛び上がったところを、菊壽(きくじゅ)が押さえつけた。


落ちる名刺。九十九(つくも)社。

定金春弦(さだかねしゅんげん)というらしい。




「何の用だ私に! お前ら記者だろう! なに勝手にうろうろしているんだ、離せ!」


じたばたする定金。


「ちょっと、花祭壇についてお聞きしたいだけです!」


菊壽が言った。定金は負けじと。


「足りないんですよ、見りゃ分かるでしょう!? お上はおかんむりだ、沢山なんだよペナルティは」


釆原は千円札を束で取り出した。


「情報料です。少し落ち着いてください。自分らパパラッチとは違います。ただ話をお聞きしたいだけですから」


定金は落ち着いた。

落ちた名刺を拾い、札束を受け取る。

三人は花祭壇の裏へ回った。






「祭壇用に、白いやつが千五百本。注文の本数だよ。全て揃っていた。それなのに、見たろう?」


「ええ」


「お上……美野川(みのかわ)の御夫人は、おかんむりだよ。九十九社としても今日の偲ぶ会は大きいものだった。祭壇を作るだけでも社員の四十三パーセントを動員したってのに……」


定金(さだかね)は顔を伏せたが、続けた。


「てっきり私は、追加注文が入ったんだろうと思ったよ。あのご夫人は無茶振りが多いって、最近入ったばかりの社員も嘆いていたからな。あんたみたいにホラ、札を渡してきたんだ。数登(すとう)がね」


「数登?」


釆原は尋ねた。


「うちの社の人間だよ。そういえば、数登とその新入社員も見当たらないな。とにかく数登が渡してきた金で、都合をつけるよう別の社員を向かわせた。支店が近くにあるんだ、葬儀用の花を取り扱う専門店だ。だが、追加注文は入っていなかったと。それだけじゃない、有り様がこんなになっちまって。追加どころか足りないんだよ」


数登と新入社員。なるほど。

釆原はピンと来た。




「でも、色の違う花があるじゃないですか」


菊壽が言った。


「足りない分はこうして埋めなければならない、が、生憎と白いやつのストックはなかった。だから、これは臨時だよ。数登の金はそれに使わせてもらった。当人はいないがな」


「自分、先程白い花束を見ました。大きさもそこそこありましたよ」


釆原が言うと、定金は眼を丸くする。


「どこでだ?」


「ドーム内二階です。白いのは、その数登さんが持ち出したと考えられませんかね」


「た、確かに数登が花を持ち出したと、別の社員も言っていたんだ。だが、本当に?」


「さあ、実際にその彼を見たわけではありませんので。その、数登さんの特徴など、教えていただくことは出来ませんか」


「特徴、そうだな……。手首に数珠をしていたよ、今日は、虎目石のだ」


「数珠を、いつも?」


釆原は尋ねたが、定金は何も言わない。

菊壽は定金を離した。


「作業があるんでね。あんたの寄越した金額じゃあ、あげられる情報はこんなところだろう」


言って、そそくさと表へ戻って行った。






「大した情報は取れないな」


菊壽は苦笑する。


「だが、お前の勘で言えば『騒動』を引っ提げた葬儀屋は数登と、あともう一人ってことになる。当のご本人はいないしな」


アンスリウムの花束を持って二階に現れ、酒を持って会食場へ現れ。

九十九社としては重要であろう設営の場にもいない。となると


「ドーム内にはもう、いないのかもしれないな」


釆原は言った。

だがすぐ、


「いないだと!?」


と声がして、怒りの形相で定金が釆原の元へやって来る。


「仕事を放って、どこかへ行ったというのか!? あんたら記者だろう、私より数登を追え!」


釆原と菊壽は顔を見合わせる。


「いや、その、自分らにも確証はなくてですね……」


菊壽は宥めにかかった。

釆原は財布を取り出す。


虎目石の情報で千円札の束を渡してしまったことに、半ば後悔していた。

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