04.
菊壽作至がいた。
「おはよう」
「おう」
「何だそれ」
菊壽は釆原の手にあったピッチャーを見て、言った。
「レブラの件で、ちょっとね」
釆原はそう返した。
手短に、これまでの経緯を説明する。
スキャンダル、これは五味田の件、それから酒の件。
「レブラよりネタになるのは、その葬儀屋かもしれないな」
菊壽は笑った。
「で、そいつを追うのか」
「男女だからな。単独ではないらしい。ただまあ、レブラとしてもさ、追っかけの多い場所に行くよりは、『騒動』を引っ提げた葬儀屋の方が、面白いんじゃないかと思う」
「野生の勘か、馬鹿かってところだな」
厨房の中を、二人は覗いた。誰も彼もてんてこ舞いのようだ。
「その実透さまって坊主は、起きないんだろう? 料理、どうするのかな」
「食べていないのか」
「お前は?」
「残りだよ、昨日の。それよりレブラだ」
釆原は言って、ピッチャーを二つ、そっと置いた。厨房の台、その隅に。
そそくさと廊下へ戻る。
葬儀屋の気配は、厨房にはないようだ。
釆原と菊壽は共に歩きだす。
しばらく歩いているうちに、にわかに騒がしくなってきた。
とりあえず、流れに乗ってみることにした。
釆原と菊壽は再び、アリーナへ戻る。流されて。
設営は見事だった。度を越えた、豪華絢爛。
やはり金持ちは考えることが違う、偲ぶ会というレベルじゃないな、と釆原は思った。
偲ぶ会にふさわしくないもの、ピンとくるもの、今の場合は『騒動』を引っ提げた葬儀屋ということになるのだが、中はどこもかしこも白と黒。
葬儀屋連は当然ながら黒い。
騒がしくなったのは、警備員の数が増えたことによるものかもしれない。
何やら物騒な気もするが、と釆原は思う。
スタンガンを一応持ってきてはいる。
でかでかとした故・美野川嵐道氏の顔は笑顔、印象に残る歯並び、白い歯の好々爺といったところか。
枠の縁取りが黒いのが目立つ。
今はもういないということを、残酷に明確に言い放つような。
白と黒はここでも分かたれているということかと、釆原は思う。
ただ好々爺というのは言い過ぎか、たしか五十過ぎということだったから。
しかし長年の苦労が皺となって顔に刻まれているからか、『年輪』に似ている。
焼香台、そして実透さまたちが使用するのであろう、起きてここに来ればの話だが、色とりどりのあまりお目に掛かれない品々が置かれていた。
空間と色の対比。
絨毯の赤、漆の黒、座布団の金。
釆原はあまり詳しくないものの、曲彔、経机、木魚などの見分けはついた。
どれも豪華絢爛。猫足なんかがついている。
赤い木魚は泥酔状態の、大月の師匠に似ている、皮肉だが。
続いて眼に入ってきたのは、多様な花々の群れ。
釆原は少しピンと来て、菊壽は眼をぱちくりした。
どうにもしっくり来ない、他は申し分ないはずだ。といっても設営が完全に終わったわけではないのだろうから。
しっくり来ないのは、花祭壇に開いた穴だった。
その傍らで作業している葬儀屋は、青い顔をしている。
釆原と菊壽は顔を見合わせる。