20.
一瞬判断しかねた。腕を掠めたようで、そこが裂けて血が出た。
だが掠っただけのようで。
それでいて、いつの間にか自分はそこへいる人々を見上げている。
僚稀が眼をぱちくりしながらこちらを見ているし、その前には数登だ。
恐らく吹っ飛ばされるか突き飛ばされるかしたのだろう。
体を打った部分が痺れる。
鳴ったのは轟音だったがその後が続かない。
レブラは構えたまま動かない。
弾も出ない。
どこかで銃声。
だがそれはレブラのものではなかった。
僚稀が釆原の方へ体を向けた。
レブラは僚稀に狙いを定めた。
撃つ。
だがカツンと音がして弾が出ない。
「撃つ必要はありましたか」
レブラは眼を丸くする。
「釆原さんに銃を向けた必要は」
数登は言って、スーツから取り出した。
小さな香炉と弾である。
「それは……」
「スーツの下に防弾チョッキとなれば、あなたも何か武器を持っていてもおかしくない」
僚稀は釆原へ駆け寄って起こした。
レブラは無言だ。
捜査員は銃をレブラに向けたまま。
「俺も丸腰ってことか」
レブラは拳銃を床に落とし、数登の方へ蹴って滑らせた。
「使えよ。葬儀屋なんだろう? あんたには俺を葬ることだってできる」
「生憎ですが、九十九社が今請け負っているのは偲ぶ会のご依頼です」
「あんたは今単独だ。てめえでどうにだってなるさ。俺を撃たないならそれでもいい。偽物だっていうのもよく分かったが」
騒ぎが大きくなり、再度ドンという音。
先程の爆発音より激しく、天井から塵が降る。
釆原は立ち上がって数登の傍へ。
僚稀は捜査員に銃を下ろすようジェスチャーした。
「今ドカンと鳴ったのはそれだ。ここ一帯、俺にとっては曰く付きでね。香炉を守るのもそうだが、アイドルやってた時の曰くもどうせなら偲ぶ会と同時に、清算した方がいい。偽物とあっちゃ守るのには失敗したわけだが」
釆原と僚稀は顔を見合わせた。
「いま大勢の人がいるじゃないか。それを……」
僚稀がレブラに言った。
「清算なのかもしれませんが、僕にはここで依頼されている葬儀があります」
数登が言い今度は、レブラの方が眼をぱちくりする番だった。