記憶
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声が、聞こえた。
だが、何と言っているのか分からない。
それどころか、「もう一度言って」と返事をすることもできないのだ。
ここはどこなんだろう。俺は今まで何をしていたんだろう。
ただただ疑問が生まれては消え、生まれては消え、を繰り返す。
周りを確認しようと首を動かすこともできない。
暗闇の中で縛られている、そんな感覚がある気はした。
そもそも俺に話しかけてくる奴は誰なんだ。
俺はこいつを全く知らない。どこかでちらっと見た、というわけでもない。
なのに、ひどく懐かしく感じるのはなぜだろう。
相手はまだ何かを喋り続けている。
俺が見えているのだろうか。全く赤の他人に呼びかけているのだろうか。
だとすればかなり変わった人だ。
それでも相手は話を続ける。
でも、赤の他人に向ける瞳ではないような気がした。
そんな中、唐突に。
俺の思考を貫くように、相手の声が今までよりも圧倒的に大きく聞こえた。
「約束して!」
とても悲しそうな声だった。
そしてそれを聞いた瞬間、激しい頭痛が俺を襲った。
言葉では表せないような痛み。
痛みに悶えながら相手を見ると、なぜかはっきりと見えた。
風か何かで髪がなびき、目からは涙がボロボロとこぼれていた。
それを見ると、なぜか俺も悲しくなった。
何か応えないといけないような気がした。
必死に口を開こうと、叫ぼうとする。
だが、口は全く動かない。
再び相手を見ると、少し小さくなっている気がした。
いや、気がした、ではない。
しっかり小さくなっている。いや、離れているのだ。何かの光に包まれながら。
そして突然、相手に反応するかのように、右手が動いた。
自分の脳による命令ではない。
まるで待っていたかのように、手がしっかりと伸びている。
相手を逃がすまいと、必死に。
それに続くように、カッと目頭が熱くなった。
ボロボロと涙が、とめどなく溢れ続ける。
俺は…泣いているのか?なぜ?
そんな疑問も、今はどうでもいいような気がした。
全然どうでもよくないのに。
そして。
今の今まで全く言うことを聞かなかった口が、突然開いた。
よし話せる、と気づくよりも前に、言葉が舌を通り抜けた。
「約束しよう!そして…またどこかで…もう一度会おう!」
誰の声だろう。俺の声ではない。明らかに俺よりも低い。
だが、俺の口から出た言葉だった。
分かったことは、さっきの返事だということ。
相手も察したようで、涙でぐちゃぐちゃだった顔が、パッと明るい笑顔になった。
それを見ると、なぜかひどく落ち着いた。安心した。
あんなに激しかった頭痛も、今は感じない。
もう一度相手を見る。
相手は笑顔のまま光に包まれて、フワッと消えた。
静寂な暗闇の中。
残ったのは、寂しさと、悲しさと、ちょっとした幸せ。
今のはいったい、何だったんだろう。
分かるような気がしたが、やはり全く分からなかった。
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