第97話 油虫(6)
後日談。
マウアーの結界術により、隊舎の地下室から伸びていた洞穴は、封じられた。
地下室の壁穴は、俺の念力で、塞いでから、あらためて、セメントでペタペタと、新しい壁を作った。
これで、鍾乳洞からのゴキブリ魔獣くんの 侵入もないだろう。
「どうよ!」
マウアー先生のドヤ顔だった。
ちなみに、地上からの鍾乳洞への入り口は、この隊舎より北側に上った岩礁地帯にあった。
この入り口は、もちろん、マウアー先生と賢司の探査魔法で、発見された。
その手法には、俺も感心したほどだ。
……まだ、俺は、魔法の理解していないから、言葉では、説明できないけど……ね。
ごめんなさい。
まぁ……説明できないけど、そのときのやり取りは、これだ!
「マウアー。
あの鍾乳洞から、たどって行けば、簡単じゃないのか?」
「はぁ~?
なにを言っているんだ先輩!
そんな力技的なことは、冒険者たちに任せて、わたしたち魔法使いは、魔法で探すよ!
なんのための魔法だよ!」
マウアーに、豪語された。
「ああ~。そうやね……。
マウアーの………」
俺が感心して、マウアーを褒めようとした瞬間に、賢司が口を挟んだ。
「先輩。
マウアーさんは、ゴキブリ魔獣に、2度と会いたくないからですよ。」
「ああっ!
賢司!
なんでバラすんだよ!」
「だって、ほんとうのことでしょう!」
「う……うっ……。
わ…わたしは、あのゴキブリ魔獣に、会ったら……
間違いなく、魔法でぶっ飛ばすから……
鍾乳洞の被害を………」
モジモジするマウアー。
まぁ……こいつの言わんとすることが、わかった。
こいつは、こいつで、ちゃんと、考えているんだな。
それに、俺の考えを 受け入れてくれているのだ。
はじめは……
あまり他人の言うことを 聞かなかったこいつだけど……。
マウアーも、日々努力している。
いいことだよ。
だから……俺は、笑顔で言う。
「ありがとうな。マウアー。
じゃあ、入り口発見は、まかせたぞ!」
「お……おう!」
……こんなやり取りだった。
まぁ……そんな感じで、部隊もまとまってきたことを うれしく思う俺だった。
それと、地下室の資料に関しては、ザク王の元へと、届けた。
今後のゴキブリ研究に、役立つだろう。
俺たちが、ザク王に報告した、すぐあとに……
ミカ様とフォウさんが、さっそくやって来た。
しかも、ジーク様まで。
もちろん、護衛は、ドレンさんと、レベッカさんだった。
やはり……
こういった発見には、いちばんに参加したがる方々だからね。
俺たちは、ミカ様たちを丁重に、案内した。
案内しながら……
軽く、そのときのことを報告しながら……
ジーク様、ミカ様、フォウさんは、とっても、キラキラした目で、俺の報告を聞いていた。
ほんとうに、みんな……
冒険譚が好きみたいだ。
目標点を目指す……
もちろん、道案内は、マウアーと賢司に、まかせる俺だった。
隊長だからね♪
「ふぅ~ん。
すごいわね~。
こんなものが、ここにあったなんて………。
自然の力は、偉大だわ!」
「うん。そうだね。
ミカの言う通りだよ。
………ん?
この鍾乳洞は、アシ山脈の派生だね。」
「……ジーク様。
そういうことも、わかるんですか?」
俺は、素直に質問する。
「もちろんじゃ!
その、いちばんのヒントは、この水じゃ。
この水は、アシ湖の水じゃからな。」
ふぅん。
ジーク様は、そういうものがわかる能力を持っているんだろうね。
さらに、感心する俺だった。
ちなみに、ジーク様は、ミカ様と、お話しするときだけは……
ちょっと………変わった口調になる。
そこには、ツッコミを入れては、いけないことなのだ。
「おお~。
さすが、ジーク様!」
みなさん、一堂に、尊敬していますよ。
「こんなキレイな鍾乳洞は、初めてですね~。
やっぱり、この地は、ホークさんに、相応しい土地ですね。
わたしも、たくさん遊びに来ますね~。」
すっごい笑顔で……
すっごいことを言うフォウさんです。
……やっぱり、フォウさんは、ここを……
どこかの避暑地と、考えているみたいです。
俺も、そのことは、もう……ツッコまないようにした。
「あははっ。いつでもどうぞ。」
大人の俺です。
そして……
地下鍾乳洞に関しては、完全保存の方向性で、決まったみたいだ。
後々、世界遺産になるだろう(笑)。
鍾乳洞の調査には、「冒険者組合」に、依頼するらしい。
軍部で調査してもいいんだが……
ミカ様は、ティフブルー王国のみんなの財産として、管理したいのかもしれない。
だからこそ、民間に、任せたいのだろう。
(なるほど……
さすがは、叡智の女神様だな。)
ただし、世間には、この部隊の存在は、秘密なので……
間違っても、冒険者たちが、ここに入ってこないように、ミカ様率いる女神様たちによって、ここ一帯に、結界術が施された。
そして、鍾乳洞へ、直接行けるように、鍾乳洞入り口付近には、
マウアー作「ゲート」が、設置された。
やはり……この女……優秀だった。
「さすが、マウアー先生!」
褒めまくる俺。
「ハッハッハ!
苦しゅうない!」
調子に乗るマウアー。
若干、レベッカさんが、冷めた目で見ているが……
気にしては、いけない。
いつもの光景なのだ。
バカは、放っておいて……。
あとは、鍾乳洞の全貌を 冒険者たちが、あきらかにしてくれるだろうね。
……で、いちばん肝心の隊舎地下室は、ダークイメージを払拭するべく、クリーンなイメージでいくために、壁を白く塗り直した。
おかげで、明るい感じになった。
そして、風通しもよくして、清潔にした。
では……
地下という場所を 有効活用しよう。
その活用とは、食糧の保存庫だった。
この隊舎は、へき地にあるため、食糧の確保が課題なのだ。
そこで、気温が1年間を通じて、あまり変化のない地下室を利用することにした。
もちろん、今回は、ゴキブリや、ネズミなどの侵入対策は、抜かりない。
そして、大切なお酒の保存には、もってこいなのだ。
ビール、日本酒、焼酎、ワインの備蓄に、かなり重宝する。
話しは、少しズレるけど……
この世界には、「酒造法」がないので、自分たちで、好きにお酒が造れるのだ。
そして……この場所は、最適だろう。
おまけに、ジーク様お墨付きの「おいしいお水」もあるからね。
楽しみだ!
あとは……
ミカ様から、酵母菌を分けてもらって……
俺たちのお酒を造るんだ!
……もはや、隠密とは、全く関係ないが……日々、楽しく生きて行くことは、必要なことだからな。
……と、こんな感じで、地下室の封印は、解けた。
「禁断の扉」を開けてみれば………
なんでもないことだったけど………
やっぱり、地下室とは、キケンなニオイがする。
今からは………
お酒のニオイ
………が、することになるだろう。
お疲れさまでした。
無事に解決してよかったね~ホーク。
この鍾乳洞は、間違いなく、世界遺産になるよ!
それから…地下室は、酒蔵になるんだね~。
どんなお酒ができるのか、楽しみだね~。
さて、次回は、平穏を取り戻した第6部隊です。
やっぱり、鍛錬は、欠かせません。
……ということで……
出張修行に、行きます!
では、お楽しみに。




