第95話 油虫(4)
PM 7:46
「ここは、ゴキブリの研究を していたようじゃな。」
「間違いないようだな。 師匠。
こっちにも、ゴキブリの生態報告書があるよ。」
「……どうも、ゴキブリのキライなことを……駆除の方法を 研究していたみたいですね。」
「ふぅ~ん。 じゃあ、これは?」
俺は、穴が空いた壁を 指差す。
「……………。」
一堂……沈黙だった。
ひとまずは、現状を把握しよう。
報告書から得た情報としては、この地下室では、ゴキブリの生態研究をしていた。
それは、ゴキブリの有効な駆除方法を見つけるため……と、思われる。
そして、実際に、ここで飼育されていた。
その数は、不明だが……相当数のゴキブリがいたに、違いない。
そして、70年前の大戦が始まったころに、この研究所は、封鎖されたみたいだ。
はたして…その成果のほどは、わからないけど……。
それと、飼育されていたゴキブリの行方も定かではない。
PM 8:08
突入開始。
「けっこう深いな。」
洞穴をのぞくマウアーが、魔法探査を始めた。
「なんの穴か、わかるか?」
俺の質問に、静かに答えるマウアー。
「これは、おそらく魔獣が掘ったものだな。」
「魔獣?
………モグラの魔獣ですか?」
賢司が反応する。
「いや。 獣系じゃないな。体毛などが落ちていない。 たぶん、鱗系かもね?」
「うろこ……? トカゲとか?」
「うん。 もしくは、虫系かも?」
「虫系? ……魔獣って、虫もおると?!」
「いるよ。 カマキリとか、ムカデとかの魔獣化したヤツが、いるよ。」
「ふぅ~ん。」
てっきり、魔獣って、ケモノ類かと、思っていたけど……
生き物全般が、魔獣化するみたいだ。
……ということは………
……ということは、もしかして………
ゴキブリさんも、魔獣化するのでは?
みんなの表情が、固まった。
「いやだ! 想像したくない!」
「気持ち悪っ!」
「この穴……ふさぎましょう!」
「殲滅が先じゃ!」
俺たちの拠点に、こんなものがあるなんて、断じて許容できない!
足元に、正体不明の魔獣がいるなんて、なおさらだ!
第6部隊の名誉にかけて、退治するしかないな!
俺たちは、団結した。
洞穴に入ると、中は、意外にも、広かった。
人間が立って歩けるくらいに……。
言いなおせば……ここを掘ったヤツは、人間くらいの大きさを持つ……魔獣ということだ。
俺たちは、慎重に足を進める。
マウアーと、賢司には、「魔法探知」を全開で、使ってもらう。
油断は、しない。
奥に進むにつれて、ゴキブリの姿が目に付き出した。
まだ昆虫サイズのゴキブリだったけど……
それでも、日本で見たゴキブリの3倍くらいの大きさだった。
(……ちょっと、気持ち悪いけど……。)
でも、大きい分、対応しやすかった。
小さくて、素早く動かれると、仕留めにくい。
「スパーン!」
いい音が、洞穴に響く。
そう……俺たちの装備は、「ハリセン」だった。
なぜか……って?
それは、この洞穴という、特殊環境と、目標物が、うじゃうじゃといることだ。
この狭い洞穴では、刀は、振りにくい。
銃にしても、そうだ。
コソコソとしたゴキブリに対して、弾丸を使うことは、ムダが多い。
予備弾丸も、すぐに尽きるだろう。
魔法も、リスクが多い。
この洞穴では、火系の魔法は、御法度だ。
狭い空間での火系魔法は、俺たちにも、もろ刃の剣だ。
マウアーが得意とする、火炎攻撃は、
「火」=「酸素の消費」だからだ。
俺たちが酸欠で、自滅する可能性が高い。
他の魔法攻撃でも、同じだ。
この洞穴自体を 崩壊させかねない。
魔法とは、それほどまでに、威力があり過ぎるのだ。
なので、「ハリセン」。
洞穴にも、やさしく。
かつ、確実に対象を排除できる。
必要なのは、俺たちの反射神経と、スタミナだけだ。
「スパーン!」
また、いい音が、洞穴に響く。
ちなみに、このハリセンは、ゴキブリ研究報告書の1部を利用していた。
マウアー曰く。
「たいしたことが、書いていないから、大丈夫!」
やっぱり、ゴキブリ退治には、アナログがいちばんなのかしら?
ハリセン攻撃!
しかし…マウアーちゃんのひと言が、気になりますね……。
「たいしたことが書いてない!」
……いったい、なんの研究をしていたの?
さて、次回は、このゴキブリ問題に、ケリをつけましょう。
お楽しみに。




