第94話 油虫(3)
PM6:50
「師匠。あの地下室について、なにか知っていますか?」
俺たちは、聞いてみる。
師匠だったら、なにかを知っているんじゃないかと…?
「ワシも気になって、ジーク様とミカ様に、聞いてみたんじゃが………」
師匠の言葉は、そこで終わった。
要は、それ以上の情報がない……ということだった。
ミカ様たちは、ほんとうに、なにも知らないのか?
もしくは、なにかを隠蔽しているのか?
その真偽は、わからないけど……。
俺たち4人は、決断した。
この「禁断の扉」を開くことを……。
だが…準備は、整えよう。
なにがあっても、対応できるように…。
とりあえず、俺は、マグナムと刀。
賢司は、マグナムに試作中の魔法弾。
マウアーも、同様。
師匠は、神刀「クサナギ」を。
それぞれ、装備して、扉を開ける。
PM7:18 作戦開始。
「ギィィィ~。」
賢司が静かに、扉を持ち上げる。
それと同時に、空気が扉の中へと、吸い込まれるのを感じた。
「どうだ? マウアー?」
「うん。大丈夫。 精神生命体…霊的存在は、いない。」
マウアーのその言葉に、ほっと一安心。
そう…マウアーの探知魔法で、「マズい存在」がいるかどうか、入念に探知してもらっていたのだ。
だって、万が一…もしかして万が一…
ほんとうに、なんかいたら、絶対にイヤだ!
絶対に、扉は、開けたくない!
なので、ポルターガイストがいないならば、なにも怖れることは、ない!
…いや、ゴキブリは、苦手だけど……。
とにかく、俺たち4人は、この地下室に突入した。
「ギシッ ギシッ」
木製の階段を 慎重に降りていく。
もちろん、先頭は、俺だった。
なぜなら…
なぜならば…「ヘッドライト」を持っていたからだ。
……やっぱり、隊長だし……
俺といっしょに無事に、この世界にやってきたヘッドライト。
電池は、不要。
ハンドルをクルクル回すと、自家発電で、LEDが灯る。
スマホも充電できる、ありがたいシロモジだ。
(スマホは、壊れたけど…。)
スイッチを入れると、暗闇の風景が、ハッキリと、見える。
今…ヘッドライトの光量は、ワイドにしている。
なるべく、広い視界がいるからだ。
スポットでもいいんだけど、スポットだと、うしろの賢司たちには、あまり見えないからだ。
なので、多少暗くなるけど、広く見えるワイドにしているのだ。
そして、人類の叡智を 痛感する。
この科学力のおかげで、暗闇を探索できるのだ。
「ほう…。それが先輩のいた世界の技術か?」
マウアーが言う。
「どうだ? すごいだろう。」
「いや。別に。 魔法の方がふつうに明るいぞ。」
「ぐっ……。」
(こいつ…なんて、身も蓋もないことを言うんだ!)
俺たち地球人は、魔法なんて使えないんだって!
…おっと? いかんいかん…
冷静になろう。
隊長の俺が、しっかりしないと…。
「まぁ、そう言うなマウアー。これは、魔法が使えない人間には、重宝するものだから。」
「あっ? そうだったな。先輩は、まだ勉強中だったね。 ゴメンゴメン。」
無邪気に笑うマウアー。
「………。」
(いつかコロス!)
「はいはい。漫才は、そのくらいでおねがいします。うしろがつっかえていますよ。」
賢司がしめてくれた。
このところ、すっかりツッコミ上手になった賢司に、拍手を送ろう。
「スマンスマン。」
俺は、任務に集中する。
地下室に降りると、スイッチを探す。
暗い地下室だ。
必ず、灯りは、必要だろう。
「おっと?」
すんなり、みつけた。
階段の手すりを支える支柱に、スイッチは、あった。
「パチッ」
スイッチを入れると、天井の魔法球に、灯りがともる。
この地下室の魔法も、まだ作動していた。
さすが、秘密基地!
明るくなって、地下室の全貌が明らかになる。
広さは、ちょうど台所と同じくらい。
壁側は、書類棚になっている。
真ん中に、実験テーブルみたいな、大きな机。
テーブルの上には、カラのガラスケースが、いくつもあった。
ガラスケース…なんだか、虫カゴみたいな……。
ガラスケースの上のフタは、網でできていたからだ。
(こんな地下室で、昆虫の飼育?)
とにかく、なんかの虫を研究していたみたいだ。
そして、棚の書類は、その研究報告書だったのだ。
俺は、もちろん、この世界の文字は、まだ読めないので、3人におまかせだ。
俺は、その間に、この地下室を隅々まで探索している。
なぜなら…ヤツらがいないからだ。
それに、気になることがある。
それは…空気の流れだ。
この地下室…空気の流れがある。
…ということは、どこかに、通路があるのだ。
(あった! みつけた!)
階段のうしろにある机の背中側……
壁に穴が空いている。
直径1メートルほどの巨大な穴。
(一体…なんの穴だ?!)
俺は、なんとも言えない戦慄を覚えた。
(絶対に…なにかの………)
ちょうど、そのとき…
「先輩! ちょっと来てくれ!」
向こうも、なにかわかったようだ。
なにかの穴をみつけたホーク。
なんか…やばい穴だよね?
絶対に、やばい穴だよね?
やっぱり、「禁断の扉」だよね?
まぁ、ここまできたら、ハラをくくっているホーク。
こんなものを隊舎の下に、放置しては、いけないのです。
さて次回は、
やっぱり……またまた突入しかありませんね。
気をつけてね。
お楽しみに。




