第93話 油虫(2)
「先輩っ!ヤツの根城は、その地下室だ!」
そう叫ぶマウアーが、なんかの呪文を唱えはじめた。
「ちょ…ちょっと待て!マウアー…!」
俺と賢司は、マウアーを必死に止めた。
マウアーのことだ…絶対に、この地下室を吹っ飛ばすつもりだ。
いや…地下室だけなら、まだいい。
こいつの能力を考えると、隊舎自体が…
吹っ飛ぶかも……。
「なぜとめる? そこは、ヤツの住み家だぞ!」
「落ち着けマウアー! たしかに、そこは、ヤツの住み家かも知れない。でも…そこは、禁断の扉だ!」
「禁断だと? そんなものは、知らない! 私は、ヤツらがここを根城にしている方が 耐えられない! 破壊する!」
「だから、破壊するな! ヘンなモンが出てきたら、マズいだろ!」
「…ヘンなモン? ヘンなモンとは、なんだ?」
「……えっと………」
表現に困った俺だが…
マウアーは、おかまいなしに、暴走する。
「かまわない! そのヘンなモンもいっしょに、焼き尽くしてやる!」
再び、呪文の詠唱に入ろうとしたマウアーの前に、賢司が立ちはだかる。
「ちょっと落ち着きましょう。マウアーさん。 ここはひとつ、隠密らしく、情報収集からはじめましょう。それからヤツらを殲滅しましょうよ。」
ナイスな発言だ…賢司くんよ。
「そ…そうだな……。」
マウアーも、少し冷静になったようだ。
ゴキブリは、たしかに、あの扉の中に逃げた。
ヤツの逃走先には、間違いなく「住み家」があるだろう。
生き物の逃走本能だ。
危険を察知すると、安全な住み家に逃げ込むからだ。
ヤツらの根城があることには、間違いがない。
ただ…この場合…そこが問題なのだ。
「禁断の扉」…なぜ俺たちは、その扉に、触れないのか?
まずは、そこを解明しよう。
まず、第一発見者の俺から。
冷静に思考する。
第3者的立場に立ち…冷静に…客観的に思考する。
「なぜ?その扉をスルーしたのか?」
…初めて、この施設に入ってきて、中を調べているときに、発見した。
そのとき…本能的に…
「マズい! ここには、触れては、いけない!」
…と、たしかに、感じた。
なぜ?…そう感じたのか?
素直に怖いからだ!
だって、地下室だぞ!
絶対に、なんかある!
ホラー映画の定番だ!
あの「死霊の〇〇わた」だって、地下室に入ったせいで、悪霊が復活した。
あの「ポルターガイ〇〇」だって、地下室に原因があった。
古今東西、地下室とは、「いわく付き」なのだ!
そもそも、必要ないのに、どうして地下室を作る?
あのジメジメした感触……
絶対に、いかがわしモノを隠すためだ!
ふつうのモノだったら、風通しのいい、地上の倉庫になおせ!
…と、言いたい。
…ハァ…ハァ……
すみません。
後半は、感情的になりました。
端的に言うと…
「地下室には、得体の知れないモノがいるから怖い!」
…ということです。
次は、賢司。
「ぼくも、ほぼ先輩と同じ意見です。」
それに、ぼくたちの日本では、地下室って、やっぱりいいイメージがありませんよね?
貞子の研究室も、地下にあったような…。
…で、ぼくも、この隊舎に来たときに、地下室の存在に気付きましたけど……
先輩と師匠が、スルーしていたので…
「ああ…やっぱり、そういうことかぁ……」
って、納得しました。
なので、ぼくも、暗黙の了解でスルーしました。
やっぱり…コワイし……。
最後に、マウアー。
「私? 私は、ふつうに「拷問室」か「監禁部屋」かと、思っていたぞ。」
だいたい、地下にあるのは、牢獄だからね。
だから…子どものころは、地下室が怖かったよ。
でも、今は、平気だよ!
なぜか、テレているマウアー。
…今、そこでテレる要素があるのか?
やはり…俺には、まだやつの生態が理解できていないようだ。
反省して、さらなる精進を……
って、ボケている場合ではない!
「くっ! やはり…そうなのか……」
拷問…もしくは、牢獄だから…地下室には、怨念が溜まるのだ。
怨念が溜まって…蓄積して……沈殿して………
「ヘンなモン」になるのだ!
理解した。
だけど今…目の前にある問題は、そういうスピリチュアルなことだけではない。
現実問題だ!
ゴキブリ…ヤツらを放っては、おけない。
ヤツらは、無限に増殖する。
日本でも…
「1匹いたら、100匹は、いる!」
という、恐ろしい言葉があった。
ポルターガイストも怖いけど、ゴキブリの大量発生も、たいがいに怖い!
それに…このまま、この地下室を放置してもおけない現実だった。
いつかは、ぶつかる問題なのだ。
だからこそ……
この機会に、逃げずに……
立ち向かおう!
そうですね……
逃げちゃダメですね…
いつかは、ぶつかる問題ですから…。
でも、さすがは、マウアーです。
実行派ですね。
もし…ホークと賢司に、止められていなかったら、きれいさっぱりと、「禁断の扉」を吹っ飛ばしていたでしょう。
…隊舎も、きれいさっぱりに……
それも、ある意味…解決策ですが…
しかし、やっぱり日本人には、地下室って、馴染みが薄いですよね。
しかも、ダークなイメージが強いです。
地下室…とか……
井戸…とか……
さて、次回は、隠密機動隊らしく、とうとう「禁断の扉」に、潜入します。
どんなことが、待ち受けているのでしょうね?
お楽しみに。




