第92話 油虫
季節は、春真っ只中。
そう…虫たちも活発に、なってきた季節。
そんな中……
恐ろしい事件は、起こった。
4月27日(火) PM6:15
「きゃああああ――――――――――!!!」
夕飯の支度を手伝っていたマウアーの叫び声が、隊舎に響いた。
「なんだ? どうした?!」
俺と賢司は、仕込み中の手を止めて、マウアーを見た。
するとマウアーは、一匹の黒い物体に、硬直していた。
マウアーの視線の先に映るその物体とは……
なんともおぞましい音を立てながら、徘徊する……
言わずと知れた「ゴキブリ」だった。
「カサカサっ」
イヤな音だ!
おまけに、その黒光りしたフォルムは、なんとも、嫌悪感を引き立てる。
俺もはっきり言って、苦手なモノだった。
賢司もいっしょみたいだ。
思いっきり、イヤそうな表情になっていた。
おそらく、昆虫の中では、「キライな虫ランキング」で、常にトップを独走して、
その存在は、もはや「殿堂入り」を果たしているゴキブリくん。
人類が……
いや、世界が滅亡しても、ゴキブリだけは、生き残るだろう…と、言われるほどに、その生命力は、強い。
そんな強靭な生命力を持つゴキブリくんだが、なぜか人類には、嫌われている。
ちかっぱ、嫌われている!!
理由は、多々あるが、いちばんの意見としては…
「本能的にイヤ!」
……だろう。
黒く平べったい体型と、長い2本の触覚。
それに、ちょっと毛だらけで、気持ち悪い足。
それが……「カサカサ」と、音を立てて走り回る姿には、ほんとうに嫌悪感を抱く。
ときには、走り回るだけではなく、飛んだりもする。
飛んだゴキブリなんて、めちゃ最悪だ!
同じ黒色の昆虫は、他にもたくさんいる。
例えば、「カブトムシ」や「クワガタ」。
「カナブン」なんかもいる。
だが、彼らは、人類にそこまで嫌われていない。
特に、カブトムシなんかは、男子に超絶人気が高い。
それなのに、なぜ?ゴキブリだけが嫌われているのだろうか?
それは、我々の間には、長い過酷な歴史があるからだ。
そう…ゴキブリと人類は、太古の昔から…
お互いが、地上に誕生した瞬間から……
敵対関係に、あったのだ!
それは、なぜなのか?
おそらくは、人類とゴキブリの生活圏が同じだからだ。
なので…食糧の奪い合いが原因と、考えられる。
食糧の確保は、生き物の基本だ。
――その過酷な争いに、人類は、敗北した――
人類の知恵と武力をもってしても、ゴキブリには、勝てなかったのだ。
だから、その長い歴史の中で、人類には、ゴキブリに対する「嫌悪感」が、遺伝的にインプットされたのだ。
ちなみに、ゴキブリ対策グッズが世の中には、死ぬほど氾濫している。
それにもかかわらず、ゴキブリは、存在している。
いまだ人類は、ゴキブリに勝てないのだ。
うん。
なかなかの強敵だ!
しかし、ひとつ有効な手段がある。
それは、他力本願なのだが……
「猫を飼う」だ!
我が家では、ネコを飼っていたときがあった。
なぜか、その期間だけは、ゴキブリをあまり見かけなかった。
そして…たまに、ゴキブリの足だけが、部屋の隅に落ちていたことがある。
そうなのだ!
「ネコは、ゴキブリを食べる!」
ちょっと、ショッキングな事実だが…
ネコちゃんにとって、ゴキブリとは、いいオモチャであり、いい獲物だったのだ。
俺は、見たことがある……
ネコちゃんが夜中にひとり…
なぜかエキサイトして、遊んでいる姿を。
観察してみると、標的は、「ゴキブリ」だった。
「ペシッ!ペシッ!」
と、楽しそうに、ネコちゃんは、遊んでいた。
そして…ついに、標的は、動かなくなる。
そうしたら、「カプり」…と。
動物の世界は、弱肉強食だからな。
あと、おもしろエピソードもあった。
それは、ネコちゃんがゴキブリを捕獲したときだった。
その獲物をユリのところまで、持って来たのだ。
新鮮で活きのいい獲物を……
「きゃああああ―――――――!!!」
そのときも、ユリの絶叫が家中にこだました。
ネコちゃんからすると、
「ねぇねぇ~。獲物をつかまえたよ~。
ほめて、ほめて~。」
だろう。
ネコちゃんって、かわいいんですよ。
そんなときは、やさしくナデナデしてあげてください。
…おっと?
話しがそれました。
元に戻りましょう。
……で、
そのゴキブリの行方は…
行方は…………。
この台所の入り口近くにある、地下扉だった。
よりにもよって、そんなところに逃げ込むゴキブリ。
ほんとうに、イヤな敵だ!
だって、その扉は、「禁断の扉」だったからだ。
俺たちみんなが 見て見ぬフリをしていた扉。
決して、触れてはいけない扉。
決して、開けてはいけない扉。
絶対に、見てはいけないモノが存在しているはずの……入り口の扉。
……だから……禁断の扉。
俺が初めて、この隊舎(当時は、幽霊屋敷だったけど。)に、踏み込んだときにも、スルーした扉。
リフォームのときにも、棟梁さんたちも、スルーした扉。
師匠でさえ、スルーした扉。
賢司も、一瞬で悟り、スルーした扉。
マウアーは……
あまりにも、気にしていない扉。
その扉の隙間に、ゴキブリは、消えていった……………。
ふっ。
ゴキブリですか?
そうですね~。
温かくなってきたら、出てきますね~。
イヤ~~~!
わたしも、大の苦手です。
見かけたら、どこかへ消えるまで、固まっています。
…でも、最近は、我が家のネコちゃんたちに助けられています。
(他力本願!)
ネコちゃんの存在は、偉大です!
ゴキブリが恐怖して、姿を見せません。
ゴキブリは、いるんでしょうけど、わたしの視界に入らなければオッケーです。
……スミマセン。
熱くなってしまいました。
さて、次回は、「ゴキブリか?」「禁断の扉か?」どっちをとるのか?
究極の選択です。
お楽しみに。
追申
我が隊のマスコットガールこと「マウアーちゃん」のイラストが出来たので、「みてみん」さんに掲載してます。
興味のある方は、「ラビットアイ」で検索してみてください。
よろしくお願いします。




