第84話 花見(5)
俺がマジマジと、銃を扱っていたら、フォウさんが興味をもったらしい。
「なんですか?それは?」
「ああ~。これは、拳銃といって、俺たちのいた世界にある武器のレプリカですよ。」
「ああ……そうなんですね~。」
なんかもじもじしているフォウさん。
(酔っている?)
いや。違うな…。
たぶん、コレに興味津々なのだ。
武器と聞いて、戸惑っているのだろう。
ドレンさんに、了解を得てから、
「少し持ってみます?」
「…いいんですか?」
「弾は、入ってないので大丈夫ですよ。」
俺は、みんながいる方向とは、逆の方を向いて、フォウさんにマグナムを渡した。
「わあっ! けっこう重いんですね~。
でも、なんかカッコイイです~。」
ちょっと、興奮気味のフォウさん。
俺は、両手で銃を持つときの構えを見せて、
「こんな感じで、狙いをつけます。でも今は、人に向けちゃダメですよ~。」
「はい!」
めちゃ嬉しそうなフォウさん。
そして、構えをとってみせた。
(おお~!なんかカッコイイぞ!)
でも、かなりシュールな図柄だった。
これは、元いた世界の感性だろうけど…
「美女と野獣」みたいな、相反する組み合わせが、妙にハマっているものだった。
「いいですね。めちゃサマになっていますよ!」
褒められたフォウさんは、少し照れて頬をピンクにしていた。
「これだったら、私にも扱えるかも?」
ちょっと過激なことを言うフォウさん。
俺は、少し「ドキッ」としたが…
ドレンさんは、違う。
「なるほど…。もっと改良して、軽くすれば、女性でも扱えるようになるな!」
と。
(まぁ、たしかに…。)
王都やここは、平和だけど、基本的にこの世界は、弱肉強食。
護身用には、いいかもしれない。
しかも、フォウさんは、魔法使いだから、とっさの時には、役に立つかも?
納得する俺だった。
でも、フォウさんたちが銃を使わないでいいように、俺たちが頑張らないとね。
そんなこんなで、お花見も佳境に入っていた。
みると、賢司とマウアーは、すでに撃沈。
レベッカさんとシルビアさんも、ミカ様につかまり、風前の灯火。
ジーク様を中心に、オッサン陣は、異様な盛り上がりを見せている。
気がつけば、俺とフォウさんが、取り残されていた。
「ホークさん。少しお散歩しましょう。」
「いいですね。桜もキレイだし、ちょっと行きましょう。」
フォウさんに誘われて、日本庭園の中へ。
いつ見ても、素晴らしいところだった。
植物たちも、春の息吹を感じて、たくさんの花芽をつけている。
もうすぐお花たちも、満開になるだろう。
新緑の頃に、また訪れたいものだ。
あずま屋にたどり着くと、フォウさんは、縁側に腰掛けて、コートのポケットから、ハーモニカを取り出した。
「だいぶ練習したんですよ~。聴いてください。」
と、フォウさんは、ハーモニカを吹きはじめた。
さすがフォウさん。
演奏する姿は、なんとも優雅で美しい。
奏でる音色は、すごく優しく、シャボン玉のようにはじけていた。
その美しい音色は、俺の鼓膜を刺激する。
すっごく気持ちいい音色が奏でる曲目は……
「さくらさくら」だった。
おそらく、今日の花見のために、ミカ様から教えてもらい、練習したのだろう。
すごくよかった!
すごく懐かしかった!
俺は、すっかり聴き入っていた。
そして、曲が終わる……。
…もう、ほんとまいった。
いや。
まいりました。
俺は、この人に、もう…どうしようもないほど、まいっている!
…そして、たぶんドレンさんたちも、みんな同じ気持ちなのだ!
この優しくて、あたたかい……
この人を護るのだ!……と。
帰り道、ふたりでゆっくりと、歩いている。
「フォウさん。すっごく上手になりましたね。とっても感動しました。」
「ありがとう~ホークさん。でも私こそホークさんに、ありがとうだわ。だって…このハーモニカを教えてくれたのは、ホークさんだもの。」
笑顔満天のフォウさん。
……ほんと、かないません!
「じゃあ、フォウさんに、ひとつ貸しですね。」
と、いたずらっぽく言った。
「あははは~!」
笑うフォウさん。
そして、満開の桜が見えてきた。
もうすぐ、お祭りも終わりだった。
お花見も、終わりですね~。
また、明日から、新しいお祭りが始まるよ。
…なんてね。
「さくらさくら」かぁ~。
フォウの健気さに、ホークは、完全ノックアウトですね~。
この幸せ者!
楽しいお花見も、終わって、明日からは、また訓練に、励む隠密部隊です。
では、次回は、新しい武器を調達したいことを考えているホークです。
賢司とマウアーも、ピコピコですね。
お楽しみに。




