第79話 激練
賢司とマウアーが入隊して、はや1ヶ月。
ここでの生活も、だいぶ慣れてきたようだ。
俺たちは、いつものように、橘さんの指導のもと…修行という名の地獄を味わっていた。
橘さんの剣は、まさに達人剣。
いや…神剣だ。
やっぱり、スゴい人です。
とくにスゴいのが、そのスピード。
マジで、ハンパない!
「抜刀の橘」が「抜刀神」たるゆえんである。
抜刀からの連続斬撃。
それに、対応できる筋力、反射神経、判断力。
俺たち3人は、あらゆる面で、鍛えられていた。
俺は、だいぶ前から、橘さんに鍛えられていたから、なんとか対応できていたけど、賢司とマウアーは、本気で泣いていた。
とくにマウアー。
やつは、もともと魔法使い。
接近戦闘を得意とするファイターではない。
今までの訓練でも、接近戦闘の訓練は、してきただろうが、やはりここの訓練は、レベルが違う。
なんと言っても、教官が橘さんだからだ。
しかも、マンツーマン。
そんな人物に指導されて、強くならないはずがない。
それから、めげないマウアーのメンタルにも、あっぱれだった。
はじめは、スタミナが課題だったマウアーも、おかげで、だいぶついてこれるようになった。
なので、さらにステップアップしたトレーニングに入る。
4人になったので、対人練習も、バリエーションが増えるのだ。
まずは、「1対1」からはじまり、次は、「1対2」の訓練をマスターした。
そして、今日からは、「1対3」の訓練だった。
相手がひとり増えるだけで、危険度は、倍じゃなく、二乗になる。
もし、実戦だったら、「逃げるが勝ち」だろう。
あえて不利な戦闘は、しない……が、これは訓練。
あらゆる事態を想定した訓練なのだ。
それに、精神力も鍛えられる。
あきらめない!
へこたれない!
くじけない!
強い精神が、身につくのだ!
この訓練は、はっきり言うと、俺でもキツい!
しかし、この試練を乗り越えるのだ!
乗り越えることで、さらなる「強さ」が手に入るのだ!
おっと? …熱くなってしまった。
本題に、戻ろう。
「1対3」の戦いで、基本となることは、スタミナとスピードだ。
基本攻撃は、ヒットアンドアウェー。
しかも、一撃一殺が、求められる。
まず、捕まったら、終わりだからだ。
今日の訓練は、素手から始める。
(武器を用いた訓練は、これをマスターしてからだ。)
なので、正攻法を身につけることから始める。
数で劣っている場合は、やはりカウンターが有効となる。
多数を相手にする場合、こちらから突っ込むのは、あまり成功しない。
(相当の実力差があれば、話しは、別だけどね。)
それは、相手側から考えれば、わかることだ。
「3対1」の場合、3人同時に攻撃することは、なかなか難しい。
目標がひとりなので、逆に攻撃が重なり、同士討ちになる場合があるからだ。
だから、まずは、ひとりが先制する。
もし、かわされた場合は、2人目が追撃する。
さらに、3人目が追撃…というカタチが理想的だろう。
もしくは、ふたりで前後から挟んでの捕獲。
残りのひとりが、トドメをさす…のが、順当なのだ。
もしも、相手が突っ込んできた場合は、ふたりで抑え込んで、残りのひとりがトドメをさす。
簡単だ。
なので、数で劣る場合は、カウンターが確実なのだ。
実際には、こんなシチュエーションは、あり得ないけど…訓練だからね。
何度も言うけど…。
だから、このトレーニングは、あらゆる想定をしながら、「生き残る術」を身につけることなのだ。
「ハァハァハァ………。」
なかなか、ハードな訓練だった。
ひとり5分ずつのローテーション。
ひとまわりした時点で、マウアーは、ダウンしていた。
賢司は、かろうじて立っているのが、やっとのようだ。
俺も、ヒザがガクガクだった。
橘さんも、平気な顔をしているけど、微妙に足を引きずっていた。
俺は、ちょっとうれしかった。
(師匠も、この訓練は、キツかったんだ!)
でも、終わらない。
このローテーションを3回こなす!
…………。
もう、終わったときは、みんなフラフラだった。
対人練習は、ここまで。
今から、ランニングだ!
このスタミナが尽きたところから、さらに追い込むことで、スタミナ向上につながる。
そして、へこたれない精神力が、身につくのだ!
「さあ、行くぞ!」
俺は、気合いを入れる。
―――「おうっ!!」―――
最後の気合いを入れる賢司とマウアー。
もちろん、ランニングコースは、この森中を走りまわることだ。
グラウンドと違って、森を走りまわる…ということは、必ずここまで、帰ってこないといけないことだ。
かなりキツいだろうが、力尽きても走るのだ!
(マジで、スパルタ!)
…………。
いや~。
言葉に、なりません。
想像を絶する、ハードトレーニングのようですね…。
でも、みんなわかっているから、頑張っているのです。
「強くなる!」
そのひとつですね。
さて、次回は、少し息抜きしましょう。
ハードトレーニングばかりじゃ、壊れちゃいますよ~。
では、お楽しみに。




