第72話 寄道(4)
なかなか、いい温泉だった。
今度は、師匠たちみんなで、来よう。
そして、豪華な露天風呂を作ろう!
(うん。うん。)
それから、せんえつながら…
俺が、この温泉に命名しよう。
この温泉マイスター「柳 鷹志」が!
ふふふ。
そうだな……単純明快でいこう。
「河原温泉」だ!
うん。
ぴったり。
じゃあ、サッパリしたし、帰るか!
「…マウアーさん。そろそろ帰りましょうか?」
「なんだ? もう、帰るのか? 1泊すると、思っていたぞ。」
いや、いや。
1泊したいけど…それは、今度みんなでね。
「あっ? ちょっと待って先輩。少し遅いけど、お昼ご飯にしようよ。いささか、おなか空いたよ。」
「あっ、ごめん。…そうやね。おなか空いたね~。」
「だろ? ちょっと、まってくれ。」
そう言うと、マウアーは、リュックから、包みを取り出した。
おにぎりだった。
「どうぞ。」
「悪いな、マウアー。ありがとう。」
「いいって、気にするな。では、いただきます。」
「いただきます。」
俺たちは、河原でのんびりと、おにぎりをいただく。
そのおにぎりは、見た目は、アレだったけど、とってもおいしかった。
(…そうだった。)
訓練が終わって、お昼休みなのに、俺と格闘して、その流れで、そのまま出発したんだった。
俺は、平気だったけど、マウアーは、激しい訓練が終わって、おなかが空くのは、あたりまえのことなのだ。
俺は、反省する。
男として……
隊長として……。
これからは、俺が「長」だから、みんなへの気配りも、しっかりしないといけないね。
「気がつかなくって、ごめんな、マウアー。」
「いいって。私が、食べたかっただけだから。」
「ありがとうな。マウアー。」
「………。」
なんか、テレているマウアー。
ちょっと、かわいい…と、思った俺だった。
そして、セリカさんの言葉を思い出す。
「やさしい子」
……たしかに。
俺の分まで、おにぎりを用意してくれていたなんて、けっこう気がきく、やさしい女の子…だと、認識した。
(バカだけど…。)
「ごちそうさまでした。めちゃおいしかったよ。ありがとうな。」
もう1度、お礼を言った。
「………。」
マウアーは、ただ頬を赤く染めて、黙っていた。
(ほんと…こいつって……。)
おいしく、おにぎりをいただいた俺たちは、帰路につくのだが……
どうしよう?
旅立つ前に、
「今回は、絶対にゲートで帰ろう!」
…と、決意していたけど…
こんなところに、ゲートなんて、あるはずもない。
…で、最終手段として、この魔法使いに、頼るしか、方法がないんだけど……。
「マウアーさん。魔法で帰ります? 歩いて帰ります?」
何気に聞いた。
「ん?…もしかして、先輩って、転移魔法が使えないんだ?」
なにかを察知したマウアーが、笑っていやがる。
「ああ…。まだ、魔法は、使えん。…勉強中だ。」
と、ごまかした。
「あっ? でも、あのとき、私の攻撃魔法を無効化しただろ?」
「あれは、魔法じゃない。俺の特殊能力だって。…なんでも、攻撃魔法を無効化できるみたいだぞ!」
「だぞ…って。…なるほど。先輩の特殊能力か! だから、解析魔法に引っかからなかったのか……。しかも、異世界人! うん。うん。」
またもや、ひとり納得しているマウアー。
「…解析魔法って?」
俺は、質問する。
「ああ…。相手の使っている魔法を分析する魔法のことだよ。解析して、相手の魔法に、対抗したり、妨害したり…もしくは、中和したりするんだよ。だから、あのときの力が、特殊能力だった場合は、解析魔法じゃなくって、探知魔法を使えばよかったんだよ。」
「解析魔法と探知魔法は、違うのか?」
「うん。違うよ。 解析魔法は、魔法の解析。どういう属性の魔法とか、どういう系統の反応を起こす…かを解析することだよ。 探知魔法は、人体そのものに反応する魔法だよ。転移魔法で侵入してきた人間とか、相手のオーラの「質」や「強さ」なんかを感知するときに、使う魔法だよ。」
「ふぅ~ん。…で、探知魔法だったらよかった…って?」
「……?。 …先輩って、魔法音痴?」
「勉強中だ!」
「まぁ、いいか。 だから、特殊能力系は、個人の肉体から発生する力だから、探知魔法にしか、引っかからないんだよ。特に異世界人の力は、かなり特殊だから!」
要は、異星界人である俺の力の種類なんかは、ふつうの魔法じゃ、解析できないってことだな。
だから、「デモンズ」なんかのテロ集団が、脅威なんだ。
「ふむふむ。」
マウアーの説明に、感心する俺だった。
さすが、魔法少女!
なんか、オタクっぽいけど、やはり、こいつは、優秀みたいだ。
伊達に、橘さんが推薦したわけじゃないようだ。
「わかった。解説ありがとうな。 それから今度、俺にも魔法を教えてくれよ。マウアー先生。」
「ふふ…そうか。いいよ。私が教えてあげる。 …ふぅ~ん。じゃあ、これは、ひとつ貸しだね!」
マウアーは、笑って言った。
(笑うと、かわいいんだよね。)
そして、魔法杖で、地面に魔法陣を作るマウアーだった。
「ところで、どこに転移する?」
マウアーが言うには、この簡易の転移魔法は、術者が認識できる場所にしか、転移できないらしい。
なので、元の第4部隊か、王都が適切らしい…と。
「とりあえず、ゲートがあるところだったら、どこでもいいよ。」
と、行き先は、まかせた。
「了解。」
魔法陣を完成させたマウアーが、手を差し出してくる。
(…やっぱりか……。)
俺は、緊張を隠すふりをして、手を繋いだ。
なぜか、ニヤけるマウアーだった。
「しっかり、握っていろよ! 振り落とされるぞ!」
その言葉に、「ドキッ」として、
(振り落とされたら、どうなるんだろう? ちょっと、怖い…。)
ギュッと、握った!
いや~。
なかなか、マウアーは、優秀みたいですね。
さすがは、魔法オタクです。
ホークは、ちょっと…ちんぷんかんぷんですけど…。
マウアーから、魔法を教えてもらう約束をしたから、しっかり勉強してね。
それから、マウアーという人物が、少しわかったホークです。
そうですよ。
隊長になったんだから、しっかりね!
女の子には、特に気をかけてあげてね。
では、次回も、寄り道が続きます。
なんだかんだ言っても、仲がいいふたりかも?
お楽しみに。




