第71話 寄道(3)
「いいところだな。ありがとう。 では、さっそく作るか!」
「作るって…なにを?」
「入る場所をだよ!」
そう言って、俺は、足元の石をどかしはじめた。
「なにしてんだ? おまえも、自分の好きなように掘れよ。」
「いや。面倒くさいし! 私は、先輩といっしょでいいぞ。」
「たわけ! 別々に入るんだよ! 男女別々!」
「なぜだ! 私は、かまわないぞ! 他に誰もいないし。」
「おまえが、かまわなくっても、俺が、かまうんだよ!」
まったく。
レディーのたしなみがないやつだ!
おもしろいけど…。
やつは、ムシして、俺は、お風呂場を作る。
けっこう、簡単に、掘れる。
石をどかしたら、下は、砂地だったからね。
掘ると、そこから、温泉が湧き出してくる。
なんか、たのしい!
どかした石を円形の石垣のように、積み上げる。
掘った砂は、石垣を支えるように、盛り上げる。
「できた!」
即席の露天風呂である。
直径2メートルほどの円形露天風呂。
なかなかの出来だ!
(う~ん。 すばらしい!)
自画自賛。
深さは、60センチほど。
掘った底から、温泉が湧き出してくる。
10分ほどしたら、お湯も溜まり、立派な露天風呂が完成した!
「ご苦労! そして、ありがとう先輩!」
いきなり現れたマウアーを見ると、すでにタオル1枚だけのあられもない姿だった。
「!!!」
思わず、ガン見してしまったが、慌ててヨソを向いた俺だった。
「なんのつもりだ? マウアーくん。」
「このお風呂は、かわいい後輩の私のために、作ってくれたのだろう!」
と、お構いなしに、温泉に入るマウアー。
(てめぇ~! なんて、うらやましいことをするんだ! いちばんフロかよ!)
ワナワナする俺を、笑うかのように、温泉につかるマウアーだった。
「ああ~。気持ちいいぞ! 早く先輩も入ったら?」
と、小悪魔のように、笑っている。
(……くそっ! 負けた!)
こいつは、バカだが、油断は、ならない!
…と、心に刻んだ。
仕方なく、もうひとつ作った。
マウアーのよりも、少しだけ、大きめに作った。
そして、念願の露天風呂温泉に、入ることができた俺だった。
「う~ん。気持ちいい! 湯加減も最高だ!」
これで、疲れも吹っ飛ぶ…というものだ。
「どうだ先輩? 気持ちいいだろう? アッハッハ!」
マウアーの声が響く。
仕切りの向こう側から。
そう…ちゃんと、仕切りを作った。
木の枝を切ってきて、マウアーのお風呂と、俺のお風呂の間に。
そうしないと、こいつが俺を「のぞく」からだ。
女の子が、男をのぞくか?
…ふつう、逆じゃない?
まぁ、いい。
ここは、「異星界」だし…
マウアーだし……。
気にするのは、やめよう!
「自分が作ったみたいに言うな! 作ったのは、俺じゃねぇか!」
「まぁまぁ。 そういう小さいことは、気にするな。 気持ちよければ、すべてよし!」
なんか、いい感じで、まとめられた。
「ところで先輩。 魔法で作れば、はやかったんじゃないのか?」
(……うっ!)
マウアーからの鋭い指摘。
だが、俺は、魔法は、使えんし。
(…あっ?)
前に、師匠からも、言われた……。
「日常生活の中で、ふつうに能力を使えるようになること。」
…と。
そうだった!
またしても俺は、昔の概念のままだった。
……反省する。
次に来たときは、この「念力」を使って、超立派な露天風呂を作る!
心に、誓った。
しかし、今は……
「バカめ。 こういったことは、人力でやるからこそ、おもむきがあるのだ! わっはっはっは!」
と、笑って、ごまかした。
「ふぅ~ん。そういうもんかね?」
「そういうもんだよ。」
俺たちは、癒される。
気持ちいい温泉に、入れてよかったね。
それにしても、マウアー……
なかなかの策士です。
それとも、ただのバカ?
ただひとつ言えることは、「冗談を実行する人」…みたいです。
ホークも、そのあたりは、悟ったみたいですね~。
まぁ、仲良く頑張ってね。
では、次回は、「魔法使いマウアー」の人となりが、少しわかってきたホークです。
お楽しみに。