第67話 新人(9)
「…あんた……何者だ?」
と、得体の知れない強さに、恐怖を感じるマウアー。
(ちょっと、動揺しているな。)
今がチャンス!
たたみかけるぞ!
「俺は、ホーク。ただの傭兵だよ。じゃあ、次は、俺の番だな。」
と、告げると同時に、一気に、マウアーとの距離を詰めて、打撃をみせる。
まずは、パンチで…左からのワン・ツーだ!
もちろん、スピードは、つけているが、直接当ては、しない。
女の子だからね。
「シュッ!シュッ!」
(うわっ!速い!)
マウアーは、ワン・ツーのパンチには、反応した。
ピーカーブーのスタイルで、かろうじて、ブロックできた。
その両腕には、想像以上の衝撃が……
「ぐっ!」
そのパンチの威力に、思わず声がもれる。
そして、その表情が、こわばる。
(ガートの上からでも、効いただろう。)
もちろん、ガートの上からには、遠慮は、しない。
けど…パワー的には、50%しかのせない。
全力だと、その細い腕は、確実に折れるからね。
(さあっ。もうひとついくぞ!)
俺は、打撃攻撃を続ける。
一方、マウアーの危険回避能力が、知らせる。
「やばい!」
…と。
この男が繰り出すパンチは、強烈だった。
今まで、こんなパンチは、受けたことがなかった。
事実、マウアーは、物理的防御結界も発動させていたのだが…この男のパンチの威力を中和することが、できなかったからだ。
こんなことは、初めてだった。
…だけど、この男の様子からみると、かなり手加減されているように感じる。
だが…その手加減に、ハラを立てている余裕は、ない。
それほどに、この男の力は、底が見えなかった。
(とりあえず、距離を取ろう。)
この男の攻撃は、今のところ物理的攻撃が主体だったからだ。
その攻撃範囲外に、ひとまず退避する!
そして、もう1度、集中し直して、攻撃魔法で粉砕してやる!
さらに、強力な爆炎魔法で!!
(覚悟しろ!!)
マウアーは、そう思考して、バックステップで、距離を取ろうとする。
もちろん、そのステップには、魔法を付加して、スピードアップしていた。
俺は、冷静にマウアーの反応をみる。
(俺の打撃を受けて、次は……そうだろうな。)
予測通り、マウアーが距離を取ろうとして、バックステップする。
だが……
(そんなもの、俺には、どうってことはない!)
マウアーのステップの速さを軽く凌駕して、俺は、フトコロに入る。
「なにっ?!」
マウアーの驚愕した表情。
(しっかり見ろよ!これが俺のパンチだ!)
獲物を追い詰めるように、たたみかける。
まずは、フェイントの右フックを打つ。
もちろん、スピードは、落とすけど…。
その代わり、たっぷりと、殺気を込める。
相手が反応できないと、フェイントの意味がないからね。
これは、さっき見たマウアーの闘い方のウラをかく戦法だから。
(卑怯と、思うなよ!)
俺の思惑通り、マウアーは、為す術なく、右フックに、ガートを合わせるだけだった。
(よしっ。いい反応だ!)
俺の本命は、こっち…左アッパーだ!
フェイントの右フックに合わせての、瞬時の左アッパー。
人間の目は、素晴らしい。
特に、動体視力。
目標物を捉える能力は、かなりの性能を持つ。
しかし、その反面……
トリックに弱い。
今回の動きも、そうだ。
フックは、左右の動き。
この左右の動きに、目が慣れてしまうと、突然の上下の動きに、一瞬遅れる。
その弱点をついた戦法。
真っ直ぐ素直なマウアーにとっては、姑息な手段だろう。
しかし、実戦には、そんな言葉は、存在しない。
だからこそ、俺が見せるのだ。
テクニックというものを。
マウアーは、反応もできなかっただろう。
しかも…
(このアッパーは、隠密の攻撃だからな。)
隠密の攻撃とは、気配…殺気を隠した攻撃だよ。
だから、相手も反応しにくい。
「フェイント」プラス「隠密」では、到底マウアーには、反応できまい。
もし、本気で打ち込んでいたら、間違いなく、あの世行きだったが……
もちろん、寸止めした。
「…………!」
マウアーは、自分のアゴ元で止められた拳に、驚愕する。
(…距離を取ったはずなのに……。)
この男には、ムダだった。
無意味だった。
私の高速移動を読んでいたかのように、平然と追尾された。
(魔法で加速したのに……。)
そして、稲妻のような右フック……。
巨大なオーラ(殺気)が、まとった右フック。
なんとか、反応することができた。
しかし……
この右フック………
ブロックごと、私の頭が吹っ飛びそうだな………。
だが…その衝撃は、なかった。
(……なぜ?)
その答えは、すぐに理解した。
なぜなら…
なぜならば……
もうひとつの拳が、私のアゴ元にあったからだ!
まったく、見えなかった。
気配さえも、感じることができなかった。
(なんなのだ? この男の強さは?!)
私は、恐怖した。
恐怖したと同時に、その強さに…
魅了された……
魅了されてしまった………。
………いやぁ~。
強いですね~ホーク。
師匠からの指導で、さらに強さに磨きがかかったね。
それに、ちゃんと女の子に対しての気配りも覚えたようです。
戦闘において、手加減は無用!
男女平等!
相手に対して、失礼だ!
という意見も、ありますけど…
これは、戦闘ではなく、勧誘だから。
あくまで、「闘い」です。
「戦い」では、ないのです。
そのあたりのことは、ふたりがいちばん理解していますから。
でも、やはりマウアーは、強いのです。
ホークが、早めに決着をつけようと、思うほどに。
マウアーが、考えていた「爆炎魔法」って、一体どのような魔法だったのでしょう?
想像したら、怖いね。
なんにしても、勧誘は、無事に成功しそうです。
よかったね、ホーク。
さて、次回は、最終決定です。
それと、オマケエピソードに…
では、お楽しみに。




