第66話 新人(8)
戻った訓練場には、幸いにも誰もいなかった。
(お昼休みだから、あたりまえか。)
ならば、心おきなく闘える。
魔法使いとの戦闘は、3度目。
シルビアさんと、あのチンピラたち。
まぁ、チンピラたちは、除外しても、シルビアさんとの訓練で、かなり鍛えられた。
そして、今……。
この戦闘大好きモンチッチ。
(さて…と。)
いちおうは、対「魔法使い」とのシミュレーションは、している。
しかし…今日は、素手のみ。
向こうは、根っからの魔法使い。
素手だろうが、関係なさそう。
俺は、マグナムと刀が使えないから、ほんとうの意味での「素手」だ。
だから、「間合い」にしてもそうだ。
向こうは、おそらく、中・遠距離の攻撃が可能。
俺は、文字通り、相手の懐に入らなければならない。
かなり、俺の方が不利な感じがするけど…。
まぁ、それをはね除けての勝利こそ、意味があるだろう。
不利な俺が勝利すると、マウアーも納得して、勧誘されるだろうね。
とにかく、勝てばいいのだ!
「じゃあ、はじめようよ!」
…って、いきなりマウアーが先制攻撃を開始した。
「ファイヤー・ボール!」
と。
彼女がかざした手の平から、火の玉が出現する。
出現した火の玉は、俺が見た中でも、いちばん大きかった。
直径1メートルくらいの……。
「そんな大出力の魔法を発動させて、まわりに被害が出ないのか?」
…と、叫びたいが……
どうやら、杞憂らしい。
あとで、聞いた話だが、ちゃんと防御機能が作用している…と。
だから、日ごろの訓練は、ほぼ全力で行えるらしい。
…なるほどである。
そして、やはりこの部隊も、脳キン思考が多いようだ。
おっと?
ムダ話しをしているヒマじゃない。
集中しよう!
俺は、慌てずに集中する。
――――キンッ――――
瞬間に、俺のまわりに防御結界ができる。
なかなかに威力がありそうな「ファイヤー・ボール」だが、俺にその攻撃は、通用しない。
(…たぶん。)
――――ガキンッ――――
マウアーが放った「ファイヤー・ボール」は、見えない壁にあたって、かき消えた。
(ふぅ~。大丈夫だったな。)
ホッと、ひと安心。
だけど、かなりのプレッシャーがかかった。
俺の魔法防御の壁には、相当の衝撃があったのだ!
やはり、こいつは、油断できない。
俺の魔法防御…一見、無敵のように思われるけど、やはり限界は、ある。
シルビアさんとの訓練でも、わかったことだけど、今の俺では、まだまだシルビアさんの最高出力の魔法には、対抗できない。
押し潰されそうなプレッシャーに、俺の魔法防御が、砕かれるのだ。
だから、まだまだ精神力を鍛えないと!
あれから、師匠との地獄(修行)で、少しは、精神力が鍛えられただろう。
師匠の抜刀力を防げるくらいには、なったからね。
(師匠との地獄のおかげで、物理的攻撃の防御も、少しは、できるようになりました。)
あざ~す!
でも、油断禁物。
油断こそが、いちばんの敗因だから。
俺も、かなりの「マジモード」に入った。
一方。
「…なにっ?!!」
自身の先制攻撃を防がれたマウアーは、一瞬、戸惑ったようだが…すぐに、冷静さを取り戻す。
即座に、
「貫け!炎火の矢よ!」
と、続けざまに攻撃魔法を発動する。
そうなのだ。
魔法戦闘における重要度は、
――いかに、冷静に魔法を制御するか!――
なのだ。
先制攻撃を防御されたくらいで、動揺していては、魔法使いとしては、話しにならない。
その点は、さすがに魔法に長けるマウアーだった。
すぐに、意識を集中させて、魔法攻撃を再開する。
マウアーの人差し指が、俺に向けられると、その空間から、無数の炎の矢が飛んでくる!
先ほどの火の玉とは、違い……
今度は、鋭く速い「炎の矢」だった。
見るからに、危険そう…。
そして、えげつない!
俺もさらに、念を込めて、この強力そうな炎の矢に、対抗する!
――――ガキンッ!――――
初撃の矢群は、防壁でかき消えた。
(あっぶな! なんて衝撃だよ!)
そのプレッシャーは、俺の脳を圧迫した。
それから、追撃するように、また無数の炎の矢が襲ってきた。
(ちょっと、こいつは、キビしいな!)
早めに、決着をつけよう!
俺は、そう思考した。
一方、「炎の矢」を放ったマウアーは、
(今度の矢は、ひと味違うぞ!)
ニヤリとするが……
しかし…
――――ガキンッ!――――
この強力な「炎の矢」も、見えない壁に、阻まれた。
「??…なんだと?!!」
驚愕するマウアー。
自身の2度の攻撃魔法が、まったく通用しなかったのだ。
マウアーは、久しぶりに、焦っていた。
最初の「ファイヤー・ボール」は、いい。
あれは、牽制の意味の攻撃だ。
見た目は、派手だが、威力は、さほどない。
(ないと言っても、当たれば人間くらい簡単に、ケシズミになるけどね。)
問題は、次の「炎の矢」だ。
あの矢には、かなりの魔力を込めたのだ!
あの矢を防ぐ魔法使いは、そうはいない!
―――超高速の炎の矢。
当たった対象物を粉砕しながら、延焼する矢。
だから、見た目には、爆散したような穴があく。
直径50センチほどの…。
だから、人間なんて、一発で終わりだ!
それほどの威力を持った火炎攻撃だったのだ。
それを………。
いとも簡単に、無効化した!
(なんだ? なにをした?!)
無効魔法や中和魔法のたぐいが発動した気配は、感じられなかった。
それなのに……。
魔法を無効化された。
マウアーは、高速で思考している。
(どうして、私の魔法が無効化された?)
答えは、まだ出なかった。
あらゆる解析魔法を駆使しているのに……。
ただひとつ言えることは…
この男から放たれるオーラは、強者のソレだった。
我らの総長…レクサスに、匹敵するほどの………。
さあっ、はじまりました。
ホーク VS マウアー。
戦闘大好きモンチッチ(笑)のマウアーは、得体のしれないホークとの対戦に、めちゃ楽しそうです。
楽しいんだけど……
だんだんと、ホークに恐怖を感じはじめたマウアー。
断然、自分が有利と、思っていたけどね。
まぁ、自分が有利になるように、仕向けるのも、戦士としての条件ですね。
マウアー…なかなか油断禁物です。
さて、次回は、反撃に移るホーク。
マウアーは、さらにやばい手段に出るのか?
お楽しみに。




